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王子の眠る白い城

第11話

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「うん。凄い!
 ありがとう。」
「褒めるなよ~。
 仕事だって言ってるだろ?
 明日、爽が病院まで送ってくれる手筈になってる。
 迅速に動くのも、俺の仕事。
 これも、評価のうちだ。
 査定に響くんだよ、リアルな話し。
 爽の査定はキツいからな~。」
「爽さん、仕事には厳しそうだもんね。」
「厳しいなんてもんじゃないぞ!
 世間のパワハラなんて、可愛いもんだ。
 ちくしょー!
 今回の仕事は企画の段階から、初めて参加したんだ。
 ここで成果を上げてやるぅ!
 来年には上層部に出世だ!」

 うおぉ。
 奈落がいつにも増して、ヤル気を出してる。
 けど…。

「でも、これって『有意義』なお金の使い方かなぁ…。
 無駄遣いに近いかも…。」
「うぉあっ!今更、何言い出すんだよ!
 謎解明だろ!学校問題解決なら『有意義』だ!」

 僕のセリフに、奈落は顔を少し青くして声を荒げた。
 弱気な事、言っちゃったかな。

「それって、こじ付け…まぁ、理屈が合ってるなら良いのかな?
 悪どい事考えてる訳じゃないし。」
「そうそう!理屈が大事!
 今回は大丈夫!『有意義』判定内だと確信してる!
 金額は、結構掛かっちまったから、後々引き落とすとして…謎さえ解明出来れば、『有意義』判定間違いなし、な案件だ。
 俺を信用しろ!」
「うん!信じてる。」

 ミルクティーで乾杯しつつ、お互いの気持ちがキチンと繋がってる事を確認し合った。
 僕が弱気になったらダメなんだ。
 奈落は僕をこんなにも信じてくれてる。
 僕だって、変わる為に、被験者を引き受けたんだ。
 もっと、自分の決めた事に自信を持とう。
 奈落を不安にさせちゃ、いけない。
 
 明日、落合総合病院に忍び込む。
 神部先輩は驚くだろうけど、直球で勝負だ。
 時間も限られてる。
 神部先輩についての情報も、少ない。
 だったら、当たって砕けろだ。
 図書室の怪人について聞きたいと、面と向かって問い正そう。
 後の事は、なるようになれだ!
 僕には奈落がいる、神谷先輩や、土屋先輩だって!
 どうにかなる。
 1人じゃないのだから。

 ミルクティーを一気に飲み干して、僕は決意を新たにした。

 
 
 奈落が帰った後、看護師の服を試着してみた。
 まぁ、どっちにしろ、奈落はこっちを見てるんだろうけど、目の前で試着する勇気は無かった。
 薄い水色の看護士の服装は、まるで大人になった気分になって、気が引き締まって、背伸びをしたくなった。

 
 ピロリロリーン。

 奈良からスタンプが送られてきた。
 モヒカン頭でビキニパンツを履いたナスが、振り向きざまに親指を立てて、NICE!と言ってるスタンプだった。

「これは…似合ってるって、意味だよなぁ。」

 奈落のスタンプのセンスはともかく、褒めてくれる人がいる事の現実に、小躍りしたい気分だった。
 
 よーし!明日は病院潜入ミッションだ!
 
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