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王子の眠る白い城
第10話
しおりを挟む「おっ帰りぃ~。
メッセージ見たぞ。
帰宅中だし、やり取りすんのもなんだと思ってさ。
下準備を先にしておいた。」
到着すると、アパートの前で奈落が雨に濡れないように、ドアにもたれかかるようにして立っていて、僕に手を振った。
「あ、ただいま。
待ってて、すぐに開けるから。」
慌てて自転車を停めて、ドア前でカッパを脱いで、鍵を開けた。
部屋の中に入って、タオルで濡れた部分を軽く拭いてから、マグカップに奈落が持ってきたミルクティーを2人分入れて一息ついた。
「で、メッセージの内容だけど…出来そう?」
「出来るもなにも、既に下準備しておいたぞ。」
「下準備?」
「まあ、金はかかるけど、そこら辺はいとわない感じだろ。」
「うん!うん!
僕の事、やっぱり分かってる!」
「いやいや、そんくらい。
で、落合総合病院の整形外科にその、神部ってヤツが入院してるのを確認した。
ところがだ、ヤツがいるのは6人部屋。
つまり大部屋だった。
内密に話すには、個室である必要がある。
そこで急遽、検査の為と偽って、金の力で個室へと移動して貰う事にした。
明日の午前中には移動する手筈になってる。」
「おお!凄い!個室なら入れば、話しを聞かれる心配もないよね。」
「おいおい、入るまでの事、考えてるか?」
「えっと…入るまで?」
「目撃されたくないんだろう?
というか、有村がそこにいたという、認識をされては困る。
だろう?」
「うんうん。」
「はい!そこで、この秘密袋~!」
奈落は含み笑いを浮かべながら、僕に袋を渡した。
「病院内に入る前に、こいつに着替えてくれよ。」
「えっ、着替え…えー!
看護師のコスプレ⁉︎」
「ちゃんとズボンだろ。
安心しろよ!
あ、医者は俺がやるからな!
有村はその下っ端!」
「下っ端…って、看護師を下っ端扱いってね、ヒドイな。
でも、奈落もコスプレかあ。」
「変装と言えよ!変装!
なんかマニアのプレイみたいに聞こえるだろ!
…で、時間は夜7時から消灯の9時までの間を狙う。」
「え?夜?なんで?」
「なるべく、人に見られのを避けたいんだろう?
病院で、患者が1番大人しく、職員もさほど動かないのが、この時間。
病院ってのは風呂も夕方前に終わる。
夕飯後のこの時間は検査もない、売店も閉まって、買い物も出来ない。
患者にとっては、たまに親族の見舞いが少しあるだけの、ベッド上での自由時間。」
「そうか…、往診もないし、看護師や医者も特別な事がない限り、入ってくる心配は無い。
でも、家族のお見舞いが無いとも…。」
「安心しろよ!調査済み!
月、水、金曜日に家族が定期的に来てるのは確認済みだ。
土日に来ても、午前中のみだ。
どうだ!完璧なリサーチ力!だははは!」
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