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笑顔に潜む、策士の罠

第1話

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 奈落とのランニングに遅れる!
 保健室から先輩達と別れて、猛ダッシュで家路に着いて、ジャージに着替えた。
 
 ピロリロリーン。

『玄関先で待ってるから、焦ってコケるなよ。』

 あ、きっと奈落は今の僕のバタバタな姿を見て、クスクス笑ってるな。
 確かに、ちょっと焦り過ぎかな。
 奈落が待っていてくれないなんて事、あり得ないのに。
 
『コケないよ。
 もう、支度出来たから出るよ。』

 送信。

 僕は脱いだ服を洗濯カゴにぶち込んで、玄関へ向かった。

 ガチャ。

 玄関を開けると、全身黒のジャージに髪を束ねた奈落が、ピョンピョンと飛び跳ねていた。

「うぃっす!」
「ウォーミングアップ、完璧だね。」
「監視中は暇だからな。
 こういう機会は俺にとっても、楽しみなんだよ。」
「そう言ってくれて、嬉しいよ。
 じゃあ、時間も遅くなっちゃうし、ランニングしながら話そうか。」

 僕は奈落の前を走り始めた。

道路沿いを横切り、公園通りに入るところで、僕は奈落に話し掛けた。

「あのさ、人間って、やっぱり2つ同時に、同じ力量で行動するって無理だよね。」
「まぁ、ほとんどはどっちかに偏るわな。
 出来る奴もいるにはいるけど、それこそ天才に近い人間か要領のいい人間だ。
 どこかで、手を抜かなきゃ、二頭を得るなんて無理が生じる。」
「ん、つまり…今の宮地の状況は、僕に構う事よりも、早川さんを手伝う方に意識は傾いてるって訳だ。
 …これって、どんなイジメでも当てはまるかな?」
「あー、多少はそうかもな。
 イジメする暇があったら、優先させたい物を優先するのが、普通の精神状態の人間じゃないかな。
 ただし、今言ったように、普通の安定した精神状態の場合だ。
 過度なストレスや精神不安はそういうのを超えてくるだろ。」
「そっか…確かに。
 まともな人なら、イジメに飽きるし、自分に有利な行動に出る方を選ぶね。
 かと言って、そうまともな人なんて、逆に少ない世の中な訳だ。
 でもさ、という事はやっぱり、他のストレス原因を探れば、精神の安定を掴める可能性はあるという事だよね。
 イジメを解決出来ない訳じゃない…解決出来る可能性が見えてくる。
 それに、今の宮地は忙しくて手一杯だから、僕に構ってないだけで、別に精神が安定してる訳じゃない。
 今のうちに、何か出来ることを考えたいな…。」
「おいおい、無理すんなよ。
 先輩達とも何やらやってんだろ。
 いざとなったら、俺がいるんだ。
 いくらでも頼れよ。
 お前は、金もあって、俺もいるってのに、あんまり頼って来てない気がするぞ。」
「あ…別に、頼ってない訳じゃないんだ…。
 むしろ、頼りになるから、それに甘えた後の1年後が怖いんだ。」
「ふぅん、そっか。」

 僕の背後で、奈落が照れくさそうに頭をかいた。
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