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プロローグ
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「ジークの幹部入りを記念して」
「かんぱーい!」
「かんぱーい!!!」
幹部の1人の挨拶でこのパーティーは始まった。
「魔王様、この度は僕を幹部に認めてくださり、ありがとうございます」
『ジーク』とは、魔王がとても気にかけていた信頼できる部下の1人だ。
長い髪で丸く青い瞳の少年。とても愛想がよく、いつも笑顔で寄って来る。
そして、『魔王様』と呼ばれているのは、私のことだ。
魔族を統べる者であり、この魔界を支配している。男だが『私』と自分のことを呼ぶのは、魔王の雰囲気を出すためだ。
「お前が頑張った成果だ。これからは上の人間として、みんなをまとめてやってくれ」
「はい! 全力で任務を全うします!」
今は、ジークの幹部入りの祝宴が行われている。
久しぶりの新たな幹部の誕生にいつも以上に皆が盛り上がっていた。
「ジークはその歳で、俺らと同じくらい強いんですもん。これからの成長が楽しみですね、魔王様」
「まあ、この魔王が直々に教えたからな。当然のことだ。いずれは、この私をも越えてもらわんとな」
魔族の寿命は300年であり、幹部たちは皆、100歳を超えている。
しかし、ジークは幹部の中では30歳と最年少である。さらに、私自らが教えた成果もあり、他の幹部たちと肩を並べるほど。
「その前に、ゼシルさんを越さないといけないですもんね」
『ゼシル』は私の側近であり、私の次に強く、私とゼシルだけが群を抜いて強い。
ゼシルは、真面目で頭が良いので、とても信頼しているし、頼っている。
「僕に勝つには、300年あっても無理でしょう」
が、ちょっと性格に難がある。難しい男だ。
ゼシルを配下にするのにどれだけ私が苦労したことか……
「それじゃあ、寿命で死んじゃいますよ! 絶対に勝てないってことじゃないですか!」
「そうですよ。僕は強いですから」
「まあまあ、落ち着け。今日はパーティーなんだから、楽しもう」
そう言って、私は場を落ち着かせて、たくさん酒を飲んだ。
これだけ飲むのはいつぶりだろうか。酒なんて大事な時にしか飲まないため、味さえも忘れてしまっていた。
「ここで勝負をつけようぜ!」
「あぁ、俺の実力を見せつけてやるよ!」
会場の隅で喧嘩が起きたらしい。
周りがはやし立てるように声を上げており、盛り上がっている。
「まあいいだろう。ここは魔王城だ。私が建物の補強をしておるから、決して壊れることは無い」
魔王城には、もしも人間たちが侵攻してきたときのために私が補助魔術をかけている。
たとえ魔王である私の拳だろうと無傷なほどに頑丈になっているのだ。
「ふぅ、もうこんな時間か……」
楽しい時間は、すぎるのが早い。
私の前にもいつの間にかいくつもの酒の空瓶が並んでいた。
そんな私をゼシルは心配するように、
「魔王様! 飲みすぎですよ!」
「やっとジークが幹部入りしたんだぞ? 今日飲まなくていつ飲むんだ」
ゼシルはやれやれと言った様子であるものの、納得してくれた。
私は、状態異常無効のスキルを持っているため、状態異常は効かない。しかし、アルコールは状態異常に含まれないらしく、酔ってしまうようだ。
「少しトイレ行ってくる」
「僕、ついていきますよ」
「大丈夫だ、それぐらい1人で行ける。それに今日の主役はお前なんだ。お前が離れてどうする?」
「わ、分かりました」
私は、ふらついた足取りでトイレへ向かった。
◆
「う~ん! 今日は、気分が最高だー!」
そう口にしながらトイレへ歩いていると、
ゴンッ、と大きな衝撃が頭に伝わる。誰かとぶつかったらしい。
「お前、この私にぶつかっておいてお詫びの一言もないのか?」
普通は魔王である私を見たら誰もが道を開ける。
しかし、そいつは、何も言わないうえに、一切動く様子を見せない。
「これは少し勉強が必要だな?」
そう言って私は軽く魔法を放った。
実力主義社会である魔界にとっては軽い指導のようなものである。
しかし、私の魔法は……
「な、なにっぃ!?」
私の魔法は確かに直撃した。なのにもかかわらず、ソレは一歩も動かず、無傷だった。
「つ、次は、力比べだ!」
今度はぶつかったものに向かって殴りかかった。
けれど相手は何も動かない。ましてやノーガードだ。
ガンッ!
「クッ、硬すぎる。本気で戦わないとまずそうだな」
私は少しだけ苦渋を交ぜた表情を浮かべる。
全身全霊で殴ったにもかかわらず、ビクともしないのだ。
そんな魔王の様子を少し離れた場所でゼシルは不思議そうに眺めていた。
側近として魔王様を一人にすることは絶対にあってはならない。何かあってからでは遅いのだ。
「魔王様が『壁を殴る』なんて……ここは、そっとしておいた方がよさそうですね」
ゼシルは触れてはいけない光景だと察し、視線を逸らす。
それもそうだろう。尊敬する主が必死に壁に向かって叫び、拳を上げていたら目もそらしたくなる。
「くそっ! 貴様は何者だ! 何故これほどまでに強固なのだ!」
「…………」
そりゃあ、あなた自身が魔王城を壊れないように補強してるからでしょう!!
そうゼシルはツッコミたかったものの、出来るはずもない。
これ以上見ていたら、尊敬する主の理想像が崩れてしまう。
そう思ったゼシルは少し悲しそうに会場へ戻った。
そして、魔王の方はというと、
「次の一撃で倒してやる。今日は忙しいんだ。炎魔法【煉獄《インフェル》──」
ビクともしない壁に向かって本気の魔法を放とうとしていた。
しかし、詠唱はあるものによって遮られてしまう。
「うっ……おぇぇぇぇぇ!」
突如、何か不愉快なものが魔王の口から漏れる。
そう、酔いによるただの嘔吐だ。しかし、壁を敵だと見間違える今の魔王にとっては……
「吐血!? まさか精神攻撃か……!?」
嘔吐が吐血に見えてしまった。
嘘だと思うかもしれないが、あの汚い色が真っ赤に見えてしまったのだ。
(私の精神異常無効を解除するなど、まさか勇者か!? 勇者が相手なら流石に分が悪すぎる!)
そう判断した魔王は、この場から離れようと転移魔法を行使しようとした。
生憎、ここは魔王城。幹部たちと協力すれば、たとえ勇者だろうと難なく倒せる。
「無魔法【輪廻の転生】……ってあれ、これって転生魔法じゃ──」
気づいた時には既に遅かった。
最後まで言い切られることはなく、魔王の身体はその場から消失する。
こうして、魔王は最後の力を振り絞って転移魔法ではなく、転生魔法を行使してしまったのだった。
「かんぱーい!」
「かんぱーい!!!」
幹部の1人の挨拶でこのパーティーは始まった。
「魔王様、この度は僕を幹部に認めてくださり、ありがとうございます」
『ジーク』とは、魔王がとても気にかけていた信頼できる部下の1人だ。
長い髪で丸く青い瞳の少年。とても愛想がよく、いつも笑顔で寄って来る。
そして、『魔王様』と呼ばれているのは、私のことだ。
魔族を統べる者であり、この魔界を支配している。男だが『私』と自分のことを呼ぶのは、魔王の雰囲気を出すためだ。
「お前が頑張った成果だ。これからは上の人間として、みんなをまとめてやってくれ」
「はい! 全力で任務を全うします!」
今は、ジークの幹部入りの祝宴が行われている。
久しぶりの新たな幹部の誕生にいつも以上に皆が盛り上がっていた。
「ジークはその歳で、俺らと同じくらい強いんですもん。これからの成長が楽しみですね、魔王様」
「まあ、この魔王が直々に教えたからな。当然のことだ。いずれは、この私をも越えてもらわんとな」
魔族の寿命は300年であり、幹部たちは皆、100歳を超えている。
しかし、ジークは幹部の中では30歳と最年少である。さらに、私自らが教えた成果もあり、他の幹部たちと肩を並べるほど。
「その前に、ゼシルさんを越さないといけないですもんね」
『ゼシル』は私の側近であり、私の次に強く、私とゼシルだけが群を抜いて強い。
ゼシルは、真面目で頭が良いので、とても信頼しているし、頼っている。
「僕に勝つには、300年あっても無理でしょう」
が、ちょっと性格に難がある。難しい男だ。
ゼシルを配下にするのにどれだけ私が苦労したことか……
「それじゃあ、寿命で死んじゃいますよ! 絶対に勝てないってことじゃないですか!」
「そうですよ。僕は強いですから」
「まあまあ、落ち着け。今日はパーティーなんだから、楽しもう」
そう言って、私は場を落ち着かせて、たくさん酒を飲んだ。
これだけ飲むのはいつぶりだろうか。酒なんて大事な時にしか飲まないため、味さえも忘れてしまっていた。
「ここで勝負をつけようぜ!」
「あぁ、俺の実力を見せつけてやるよ!」
会場の隅で喧嘩が起きたらしい。
周りがはやし立てるように声を上げており、盛り上がっている。
「まあいいだろう。ここは魔王城だ。私が建物の補強をしておるから、決して壊れることは無い」
魔王城には、もしも人間たちが侵攻してきたときのために私が補助魔術をかけている。
たとえ魔王である私の拳だろうと無傷なほどに頑丈になっているのだ。
「ふぅ、もうこんな時間か……」
楽しい時間は、すぎるのが早い。
私の前にもいつの間にかいくつもの酒の空瓶が並んでいた。
そんな私をゼシルは心配するように、
「魔王様! 飲みすぎですよ!」
「やっとジークが幹部入りしたんだぞ? 今日飲まなくていつ飲むんだ」
ゼシルはやれやれと言った様子であるものの、納得してくれた。
私は、状態異常無効のスキルを持っているため、状態異常は効かない。しかし、アルコールは状態異常に含まれないらしく、酔ってしまうようだ。
「少しトイレ行ってくる」
「僕、ついていきますよ」
「大丈夫だ、それぐらい1人で行ける。それに今日の主役はお前なんだ。お前が離れてどうする?」
「わ、分かりました」
私は、ふらついた足取りでトイレへ向かった。
◆
「う~ん! 今日は、気分が最高だー!」
そう口にしながらトイレへ歩いていると、
ゴンッ、と大きな衝撃が頭に伝わる。誰かとぶつかったらしい。
「お前、この私にぶつかっておいてお詫びの一言もないのか?」
普通は魔王である私を見たら誰もが道を開ける。
しかし、そいつは、何も言わないうえに、一切動く様子を見せない。
「これは少し勉強が必要だな?」
そう言って私は軽く魔法を放った。
実力主義社会である魔界にとっては軽い指導のようなものである。
しかし、私の魔法は……
「な、なにっぃ!?」
私の魔法は確かに直撃した。なのにもかかわらず、ソレは一歩も動かず、無傷だった。
「つ、次は、力比べだ!」
今度はぶつかったものに向かって殴りかかった。
けれど相手は何も動かない。ましてやノーガードだ。
ガンッ!
「クッ、硬すぎる。本気で戦わないとまずそうだな」
私は少しだけ苦渋を交ぜた表情を浮かべる。
全身全霊で殴ったにもかかわらず、ビクともしないのだ。
そんな魔王の様子を少し離れた場所でゼシルは不思議そうに眺めていた。
側近として魔王様を一人にすることは絶対にあってはならない。何かあってからでは遅いのだ。
「魔王様が『壁を殴る』なんて……ここは、そっとしておいた方がよさそうですね」
ゼシルは触れてはいけない光景だと察し、視線を逸らす。
それもそうだろう。尊敬する主が必死に壁に向かって叫び、拳を上げていたら目もそらしたくなる。
「くそっ! 貴様は何者だ! 何故これほどまでに強固なのだ!」
「…………」
そりゃあ、あなた自身が魔王城を壊れないように補強してるからでしょう!!
そうゼシルはツッコミたかったものの、出来るはずもない。
これ以上見ていたら、尊敬する主の理想像が崩れてしまう。
そう思ったゼシルは少し悲しそうに会場へ戻った。
そして、魔王の方はというと、
「次の一撃で倒してやる。今日は忙しいんだ。炎魔法【煉獄《インフェル》──」
ビクともしない壁に向かって本気の魔法を放とうとしていた。
しかし、詠唱はあるものによって遮られてしまう。
「うっ……おぇぇぇぇぇ!」
突如、何か不愉快なものが魔王の口から漏れる。
そう、酔いによるただの嘔吐だ。しかし、壁を敵だと見間違える今の魔王にとっては……
「吐血!? まさか精神攻撃か……!?」
嘔吐が吐血に見えてしまった。
嘘だと思うかもしれないが、あの汚い色が真っ赤に見えてしまったのだ。
(私の精神異常無効を解除するなど、まさか勇者か!? 勇者が相手なら流石に分が悪すぎる!)
そう判断した魔王は、この場から離れようと転移魔法を行使しようとした。
生憎、ここは魔王城。幹部たちと協力すれば、たとえ勇者だろうと難なく倒せる。
「無魔法【輪廻の転生】……ってあれ、これって転生魔法じゃ──」
気づいた時には既に遅かった。
最後まで言い切られることはなく、魔王の身体はその場から消失する。
こうして、魔王は最後の力を振り絞って転移魔法ではなく、転生魔法を行使してしまったのだった。
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