想い想われ恋い焦がれ

周乃 太葉

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30.奇跡

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「ジュリ!!」

イーサンはジュリに駆け寄って抱き起こした。

「ジュリ!ジュリ!!」

「ん…?」

その声で気がついたのはヘレナだった。

「私…」

ヘレナは頭を抱え、周りをキョロキョロ見た。目の前にイーサンが誰かを抱えているのを見つけた。

「イーサン…?っ!昨日の…女医さん?」

「お前のせいで…」

イーサンが涙を流し、憎しみの眼をヘレナに向けた。
黒い靄がイーサンを囲もうとしていた。

「えっ?」

ヘレナは何が何だかわからなかった。

靄がイーサンを包み込もうとした、その時

「イ…イーサン…」

腕の中からジュリのか細い声がして、イーサンは正気に戻った。
イーサンはヘレナからジュリに視線を移し、

「ジュリ、ジュリ」

ボロボロと大粒の涙を流した。

「ジュリ、どうして…」

「ごめんね。私、あなたを守りたかった。彼女を救いたかった…」

「ヘレナまで…?」

「ほっとけなかったの…」

「君はお人好しだな」

イーサンは涙を拭いて笑った。
ジュリは微笑んで

「イーサン…私…あな…あ…し…」

ジュリは力尽きた。

「あぁ…あぁ…ジュリ…ジュリ」

イーサンは泣き崩れた。

泣き続けた。

ただひたすら。

しばらくして、ふと、辺りが異様に静まっていることに気が付いた。

「えっ…?」

イーサン以外の全てのものの時が止まっていた。

「え?何が…」

「やっと気付いた?」

時が止まった空間で声がした。
イーサンがぎこちなくその方向を見ると、パウラが歩いてきた。

パウラがイーサンに近づくとよくある栗毛が銀髪に、茶色かった眼が紫眼に変化した。

「驚いた?」

イーサンはポカンとパウラを見たまま開いた口が塞がらなかった。

「おーい、おーい。まぁいいか、ねぇ、君、願いは変わらない?」

「えっ?」

「だからこの前…あー、子供の頃に聞いたでしょ?」

「夢…じゃない?」

「失礼な。夢じゃないよ。2回もこの姿で現れるのはボクのポリシーに反するんだけど、君、願い事保留にするんだもん」

「何で今…?」

「えー?タイミング的にはバッチリだと思ったんだけどなぁ。神の配剤ってやつ」

「え?」

「君、彼女の幸せを願ったでしょ?」

パウラはジュリを指差した。
イーサンは腕の中のジュリを見た。

「あ…」

「子供だったから仕方なかったんだろうけど、幸せってぼんやりしすぎなんだよねぇ。具体的に聞こうとしたんだけど、君、発作起こして意識なくなっちゃうんだもん」

イーサンは昔を思い出そうと考え込んだ。
パウラはそんなイーサンを無視して

「さぁさぁ、ほらほら、早く早く。彼女の命の消えかけてるから願い叶えられなくなっちゃう。願いを聞いたのに叶えられなかったなんてボクのプライドが許さないんだから」

ニコニコしながら急かした。
その言葉にイーサンはガバッとパウラの方を向いた。

「何だって…?」

「ん?彼女もうすぐ死ぬよ?さっきの浄化と均衡で全魔力に加えて生命力も使ったんだよ。頑張ったね」

「そ、そんな…」

「君も知ってるでしょ?彼女の魔力の正体」

イーサンは心当たりがあった。

「だから、命の光が消えちゃう前に願いを叶えないと」

「命を繋ぐことは可能なのか…?」

パウラは不敵な笑みを浮かべ、イーサンを見た。

「可能だよ。ボクを誰だと思ってるの?まぁ代償はあるけど」

「俺はジュリの命を願う!!」

イーサンは構わず叫んだ。

「早っ。代償を聞かないの?」

「どんな代償でも構わない。ジュリの命を紡ぐことができるなら」

「そう?まぁいいや。叶えてあげる」

パウラのそう言うとイーサンのブレスレットが光り、ジュリを包んだ。

「はい、願いは叶えられた。代償は…詳しくはあとでライラに聞いて。ホント、君らは昔からお互いの幸せだけ願ってるね。じゃあ、コレ貰っていくから」

パウラは時が止まり動かないヘレナからネックレスを奪うと姿を消した。

そして、世界が動いた。
街も何もかも何事もなかったかのように元に戻った。
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