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空飛ぶ箱の中はパニック状況だった。

どうなってる?外が見えない!
クソッ飛んだってことは…落ちる!

あかーーーーん!!ヤバい!

私は咄嗟に姿を動きやすい人型に変えた。
人型にしたのは次々と魔法を繰り出すには慣れた姿の方がやりやすいと無意識に判断したからだった。

外を…
いや、ダメだ、この状況で箱を開けたら散り散りになる。

落下速度を弱めないと…

空飛ぶ、落ちる…

パラシュート!

いや、気球!!

よし、方向性を決めた。
そうとなれば、まず少年たち

互いにしっかりしがみつき合っている少年たちに向かって

"空気、纏え エアクッションみたいな感じ!二人を離さず、衝撃吸収もする!"

少年たちの周りに分厚い空気の層が出来たことを確認し、ダボダボの大神官服が目に入って剥ぎ取った。

"これ頂戴ね!"

!!!
少年たちは頷くしかなかった。

服は何重にも重なっていた。

"十二単かい。まぁ都合がいい"

広げて、袋状になるように変形させ、破れないように強化までして一旦床に纏めておいた。

よし、これでいい。次は…

箱の天井に向かって

"解体!!木糸となれ"

天井部の板がどんどん外れ、糸の様に解れていく

"木糸、れ!れ!"

解れた糸が捻り合わさっていく

"早く!もっと早く!!もっと太く!丈夫に!"

ものすごい勢いで板が解され、撚られ、どんどん太く丈夫なロープになっていた。

"箱を包み込め、端を布と結べ"

命じたどおりにロープが動き、大まかな想定通りの形となった。

バッ!とパラシュート部分に空気が入りった。

グンッ!

落下速度が緩やかになった。

慣性の法則で少年たちが箱にぶつかる寸前のところで
少年たちに纏わせたエアクッションが衝撃を和らげた。

これでよし。

"留め具の鉄を筒として、バーナーになるかな?"
"種火、火よ絶えるな"

"あー、もう、この箱を再構築だ。耐久性上げて軽量化。防御膜、座り心地がいい椅子も"

アレコレ変形を繰り返した結果、

ふわり…ふわり…
高度が落ち着き、落下の心配がなくなった。

ふぅ~、これでやっと外の様子が見えるようになったわ。

ひと仕事やり終えて満足感を得た私はぐるりと外の様子を見渡してみた。

この世界に喚ばれから初めて見る外の景色だった。



箱はほぼ垂直に近い角度で放り投げられたから最初の馬車が転がり始めた場所よりも高い高度をになっていた。その為、遠くまで見渡すことができた。

遠くにうっすらと見えるお城
あそこにギッシュ王がいるのね。

城までにいくつかの街や町や村が点在している。
街と町村の間には道はあるが建物はない。
基本的に塀や柵などで囲われたところでしか家はなさそうだ。

街中の小高い丘にある神殿
あそこで私が喚ばれたのか…

眼下に広がる森。
木々が密集していて管理されている様子はない。

森が二段に分かれている。
崖上部が城などと陸続きで繋がっている部分
案外広くない。
だが、緩やかな斜面なのに、段々と勾配がキツくなっていた。
通常なら真っ逆さまに落ちてグシャッとなっていたんだろう。たまたま迫り上がったところに行ったから高く投げ出されたんだろう。

そして、崖下部
こちらは広大な森が広がって、森の際から水が流れ落ちる。

滝だ。

一体全体この世界は面白い形をしているね。
生息出来る土地は少そうだ。

戻っても厄介事しかなさそうな土地を振り返るのは終わりにし、
気球を操って滝の先に何があるか見に行ってみることにした。

"風を弱く 緩やかに後押しをする感じで"

"ふぁ~いい風だ"

しばらく景色を眺めていた。
眼下には底が見えない世界の亀裂と言ってもよさそうなクレバスが広がっていた。

チラッと見るだけで下腹がキュッとなった。

"うわ~怖っ"

私は身を屈め、ふと視界の隅に存在を感じた。籠の中の存在をすっかり忘れていたことに気が付いた。

あらやだっ……忘れてた。

"おーい、少年たち、大丈夫?"

茫然自失状態の彼らはまだ魂が口から出ているかのように呆けていた。

「…………」

"あら、放心してる。おーい?戻っておいで~"

少年たちの眼の前で手を振ったり頬をペチペチと軽く叩いたりした。

「はっ!」「へっ?」

呆けていた少年たちは意識を取り戻した。
周囲をキョロキョロと見渡し、

「「えっ?えっ?あっ?えっ?」」

状況が読み込めない少年たちはしゃがみ込み、より一層お互いにしがみつきながら恐る恐る立ち上がった。

「こ、ここは…?」
「貴方が…?」

"ん~アレコレやった結果今空飛んでる"

「…」

衝撃すぎて言葉にならないようだった。
少年たちが落ち着くまで時間を要したが、その間も気球は緩やかに進んでいった。
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