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【ハニ×カミ の二 丹羽さん】

ーP1ー

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 「お母さん、この町でも反対運動って、やってたの?」

 ニュータウン建設の反対運動をしているニュースを見ながら、あたしは聞いた。

 お母さんは真剣に教えてくれた。最近、あたしがこの町の神様のことを、よく話していたからだろう。

 人口が増えて、人の住める場所を作らなくてはならないこと。その為に、どこかの自然が犠牲になること。そこには、たくさんのお金が動くこと。お金の為に、家族の為に、権力の前では従うしかなかったこと。
 優しい気持ちだけでは、その決断が良いことか悪いことかは、計れないこと。
 そして、一人の優しい気持ちだけでは、止めることが出来ないということ。一人では止めることが出来ないなら、たくさんの人と力を合わせれば出来るかもしれないこと。

 どうしたら、たくさんの人にあたしの気持ちを聞いてもらえるのだろうか。学校でクラスメイトに話すだけでは足りない。そんなことを考えていたら、眠れなくなる。

 布団の上、仰向けのまま手足で踏ん張って、弧を描くように背中を浮かす。ブリッジをすると、背中や太もも等、身体の色々なところが気持ちよく伸びる。そして、その後すぐに眠れる。
 考えたって始まらない。寝る時は寝て、行動するときは行動する。それがあたし。


 「えーっ、委員長とあたしだけ矢倉の上なんて恥ずかしいよ。」
 そう反発しながらも、これはチャンスだと思った。


 祭りの日、学校に焼き物が届いた。それをジーパンのベルト通しに括り付ける。勇気を、丹羽さんからもらいたくて。丹羽さんと一緒にフィガを護りたくて。

 矢倉の上、注目を浴びながら演奏を終えた。今なら、ここにいる全ての人に思いを伝えらえるはず。

 御神木の枝に座って演奏を見守ってくれたフィガ。
 フィガが消えて、フィガのことを忘れてしまうなんて絶対にイヤだ。
 あたしと丹羽さんで護るんだ。
 腰の丹羽さんを握りしめて心を落ち着かせ、決心を固める。大きく息を吸い、お腹の底に力を入れる。あたしの出せる一番大きな声で叫ぶ。

 「みんな聞いてください、この町の神様のこと」

 みんなの視線があたしに向いたのを感じる。右足を前に踏み出し、続けて叫ぶ。

 「このままだと、神の子が消えっ… ひゃっ」
 踏み出した足は床板を踏まずにくうを蹴り、あたしはバランスを崩した。

 枝に座っているフィガも、テントの下にいるクラスメイトも、最前列で私を見ているお父さんとお母さんも、矢倉も委員長も、空も地面も、全てが逆さまになった。
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