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【ハニ×カミ のミ 見えない姿】

ーP2ー

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 秋の夕陽が西の山に隠れる。東の方で橙色から紫色に染まり始めた空を、リコーダーの甲高い音がつんざく。

 矢倉の上に、二人の小学生。文化祭でクラスを引っ張った二人。パートリーダーと学級委員長が、矢倉の上で演奏と歌をリードする。
 はにわ の独奏で始まるはずだった。その最初の一音を、盛大に外してしまった。
 一斉に起こった笑いが恥ずかしくて頬を染める はにわ。腰にぶらさがる物に触れながら落ち着きを取り戻す。

 はにわの腰には、可愛らしいものがぶら下がっている。紐で結び、ズボンのベルト通しに括り付けられた、丹羽さん。

「名前つけてあげないと、はにわ と埴輪で、どっちを呼んでるか分からないからね」
 気持ちは分かるが、埴輪の名前に丹羽さんと名付けるセンスは、変わっている。


 気を取り直してリコーダーを吹き始め、合わせて学級委員長が歌う。矢倉の上で奏でるワンフレーズに続いて、テントの下にいるクラスメイトのリコーダーと歌声、そして老人会の演奏。沢山の人間による生に神はにかみの唄の調べが、夜空を染めていく。


 年に一度、祭りの夜。
 この町の人間たちが、神を、神の子のボクを思い出してくれる夜。
 ボクに活をくれる夜。
 心地よい夜。

 これが、と知っている夜……


 演奏が終わった夜空を、大きな拍手が染める。
 それを、月が満面の笑顔で聞いている。

 ゆっくりと拍手が収まる。
 はにわ は再び腰の丹羽さんを握り、大きく息を吸う。
 そして、突然叫ぶ。

 「みんな聞いてください、この町の神様のこと」

 立ち会った教師や祭りの運営スタッフが驚いている。プログラムには無いことだったのだろう。
 ボクも集まった人間たちも、はにわ の叫びに耳を傾ける。しかし、その主張を最後まで聞くことは、出来なかった。
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