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【ハニ×カミ のハ 春のような笑顔】 

ーP1ー

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 大きな木がある広場、そのベンチに腰掛ける。
 赤いランドセルを横に置き、突き出すリコーダーを引き抜く。

 優しい風が吹き抜けると、汗ばんだあせばんだ身体に心地よい。昨日、お母さんに髪を短く切ってもらったので、風が首元を抜けるのがくすぐったい。

 風に揺れる枝葉の音が、緑地の外にある喧騒けんそうを忘れさせてくれる。


 目の前の大きな木。これが御神木だとは知らなかった。
 御神木と言えば、10人で手を繋いで輪になっても囲えないほどの大木のイメージがある。
 しかし、この木はそんな大層なものではない。周囲の木より、大きいという程度。

 御神木を見上げながら、今日の学級会を思い出す。
 文化祭のクラスの出し物をみんなで決めた。ここ、八丹神はにかみ町の伝統音楽を演奏すること。

 この町は昔、神の住む森だったらしい。
 『あらゆる物に命をえる神がいる森』で、『の神の森』それがなまって『はにかみ』となったのが、由来らしい。

 毎年、この広場で秋祭りが行われる。その時、老人会の方々が『に神の唄』を演奏する。昔の人が、農業の豊作に、神への感謝を込めた唄。
 
 楽器の演奏は好きだけど得意ではない。でも、リコーダーのパートリーダーに立候補した。みんながリーダーを押し付け合っているのが、見ていられなかったから。

 リーダーを引き受けた以上、ちゃんと吹けるように練習しなければならない。けど、下手な笛の音は誰にも聞かれたくない。そこで、練習場所として選んだのが、ここ。町の外れにある緑地の広場。

 演奏することが決まった時に、この町の昔のことや神様のことを先生が教えてくれた。

 改めて木を見上げる。夏休みが終わったばかりの季節にも関わらず、葉もまばら。なんだか、力なく感じて、この町の神様が少し心配になる。
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