人が神を越えるとき

混沌 ー ３

　家に帰ると照明をつけ、テレビもつける。既に身体に染み付いた流れ作業。

　報道番組のアナウンサーが、良いニュースを読み上げている。
　数年前に立ち上げられたWFG(世界森林育成機構)が、人工的に育てている森。その面積が目標値の4分の1を達成。このまま進めば、来年には局地的に発生する酸素不足問題が大幅に減少する見込みだそうだ。

　続いて、天気予報。明日は西からの風で、火山灰警報が発令。最近、また西方で噴火が起きた。その灰が、風向きによっては僕の住む町にも降ってくる。
　明日、僕は仕事に行くが、テンは外出させないほうが良さそうだ。

　昼食を作っていたら、緊急速報が流れた。資源を奪い合いで緊張状態にあった2つの大国が、昨年結んだばかりの平和条約を撤回したという。
　世界が滅び行くのを食い止める為に手を組んだり、限りある資源を奪い合あったりを、もう何年も繰り返している。

　手を取り合う美しさと、醜いまでの強欲さ。人とは、それを兼ね備えていると、改めて感じる。


　午後から、テンにパソコンの使い方を教えた。明日、昼間は部屋に一人で過ごすことになる。インターネットは暇つぶしになるだろう。それに、幅広く情報を得ることで、記憶を取り戻す手がかりがつかめるかもしれない。テンは意外と飲み込みが早くすぐに覚えてくれた。

　夕方、僕は夕食の支度を終えて、テンを呼ぶ。テンは未だにリビングでパソコンに夢中になっているのか返事が無い。３度目に呼んだとき、テンはこちらを振り向いた。そこには、涙を流すテン。何も答えず、ただ悲しそうに、ただ悔しそうにテンは涙を流している。テンが見ているモニターには、空に浮かぶ大きなキノコ雲が写し出されていた。