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混沌 ー 1

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 翌日の深夜、まだ真っ暗な外へ出た。年々治安が悪化している。スラム化した地域を避けるため、目的地まで2時間かけて歩く。

 目的地は、闇病院。
 到着した深夜の病院には、既に大勢の患者が押しかけていた。

 医療制度が崩壊し、高額になった医療費を支払うことの出来ない"不当"な患者たち。
 正当な患者を診察し高額な仕事をする医師は極一部。ほとんどの医師は不当な患者から小銭を稼ぐ”不当”な医師。しかし、不当な医師のなかにも、『苦しむ者を助けたい』という志を捨てていない医師もいる。

 身元不明のテンもまた、 ”不当” な患者の一人。

 病院の前に到着すると、事前に連絡しておいた知り合いの医師に、中へ通された。CTや脳波の測定の結果、特に異常は認められなかった。安心する反面、異常が無いと言うことは記憶を取り戻す方法が分からないということ。
 
 病院を出ると、東の空は明るく染まり始めていた。帰り道、テンはずっと周囲をきょろきょろと見ていた。
 木々の多くは枯れ、直されることのない崩れかけた建物。その間を行き交うネズミや虫。そんな当たり前の景色をテンは熱心に見ていた。

 空が明るくなると、通りで露店が出始める。その一軒から肉の焼ける香ばしい匂いがたちこめ、数人の客が美味しそうに頬張っている。

「仁、いい匂いですね。私、お腹が空きました。あれ、食べたいです。」
 そう言って露店を指さすテンに「ダメだ」と言ったら悲しそうな表情をした。

 食糧が満足に行きわたらない今、安い肉を振舞う露店は増えている。飢えた胃袋には病みつきになる旨さだろう。しかし、なんの肉か、どこから仕入れたかも分からない肉には、どんな病原菌や化学物質が含まれているかも分からない。そんな肉を、テンに食べさせる気にはなれなかった。 この街にも、ネズミやカラスといった、"駆除"すべき生き物が沢山いる。
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