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やっぱりワタシは
第十八話 やっぱりワタシは9
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家に入って、鍵を閉める。服を脱いで、風呂へ。メイクを落とし、体を洗い、髪を洗う。目をつむると今日のことが瞼の裏で再生される。真綾の笑顔。それを見守る神楽小路。そして、駿河の初めて見る表情。
きっとこれから駿河は今まで出来なかったことをたくさん知って、体験して、触れて、思い出を増やしていくんだろう。そんなアイツを一番そばで見ていたい。できるなら、今日みたいに一緒に体験して、感動を共有したい。他の誰かじゃなくて、それはワタシであってほしい。やっぱりどんな時でも駿河の隣がいい。
ずっと振り子のように揺らいでいた気持ちが止まる。
シャワーを止めても、温かい水滴が頬を伝う。何度もしゃくり上げ、咳込む。自分の情けない声が反響する。
風呂場を飛び出し、スマホを手にし、ワタシは濡れた体のまま電話をかけた。
『もしもし、咲ちゃん?』
「真綾ぁ……」
『どうしたの? 大丈夫?』
「どうしよう……駿河のことが好きだ……」
泣きじゃくりながら、真綾に何があったかを説明した。真綾は黙って話を聞いてくれた。
「ずっと真綾にも、自分にも駿河には恋愛感情はないって言い聞かせてきたのに……」
『戸惑ってるんだね……』
床に水たまりが出来るのもかまわず、ワタシは荒い息のまま真綾に問う。
「どうしたらいいんだろう……。告白して断られたらもう二度と駿河と今まで通りにはいかなくなるんだよな?」
『……そうだね。気まずくなるだろうね』
「でも駿河がどこかへ行ってしまうのが怖い……」
手で顔を覆う。身体にべたりと張り付いた髪先から冷たいしずくが落ちる。
『今、伝えなよ』
「は!?」
『時間置いて冷静になるっていうのもテだけど、咲ちゃんの場合ますます言えなくなると思う。悩んでしまってることが態度に出てしまうだろうし』
「そうかもだけど」
『言わずに隠して、駿河くんとケンカしてそれこそ離れてしまうかもしれないよ』
返す言葉がない。それが一番最悪だ。
『ごめん。さすがに今の言葉は不安にさせるだけだったね……』
「いいや。真綾の言う通り、毎日顔合わす駿河に隠し通すことは無理だ」
『やっぱり今この電話切って、メッセージ送るなり、電話するなり、まだ夜の十時だし、いっそのこと家に行っちゃったらいいよ! 隣なんだし!』
「そんな……」
『じゃ、切るよ』
「わかった、がんばる」
真綾との通話を切って、とりあえず、身体を拭いてジャージに着替える。
メッセージアプリを開き、駿河とのトークルームを開く。上にスクロールしてさかのぼってみる。ほとんど毎日やりとりしてるから、さかのぼるのは大変だった。授業や課題の話、創作の話、くだらないスタンプの送り合いだとか、くだらないことでもワタシにとってすべて大切で必要なやりとりだった。
受験の日、隣に駿河がいたからワタシは今ここにいる。生きてきた中でこんなに心地よく話せる人に初めて出会った。地元に帰っても、ずっと忘れられなかった。また会って、話したいと思っていた。だから、合格通知が届いた時、心の底から嬉しくて、本当は最初に駿河に連絡したかった。別れ際にワタシが「連絡先は今交換しないでおこう」って言ったけど、交換しとけばなぁと後悔してた。入学したら絶対駿河を探すって気合入れて引っ越して来たら、隣の部屋に住んでて。何千、何万とあるマンションの中で、同じマンションの隣の部屋だなんてとんでもない確率なわけで。再会した日から駿河のいない景色なんてない。いないなんて考えられない。手が震えてメッセージが打てない。通話ボタンも押せない。
ダメだ真綾。ワタシには出来ない。
きっとこれから駿河は今まで出来なかったことをたくさん知って、体験して、触れて、思い出を増やしていくんだろう。そんなアイツを一番そばで見ていたい。できるなら、今日みたいに一緒に体験して、感動を共有したい。他の誰かじゃなくて、それはワタシであってほしい。やっぱりどんな時でも駿河の隣がいい。
ずっと振り子のように揺らいでいた気持ちが止まる。
シャワーを止めても、温かい水滴が頬を伝う。何度もしゃくり上げ、咳込む。自分の情けない声が反響する。
風呂場を飛び出し、スマホを手にし、ワタシは濡れた体のまま電話をかけた。
『もしもし、咲ちゃん?』
「真綾ぁ……」
『どうしたの? 大丈夫?』
「どうしよう……駿河のことが好きだ……」
泣きじゃくりながら、真綾に何があったかを説明した。真綾は黙って話を聞いてくれた。
「ずっと真綾にも、自分にも駿河には恋愛感情はないって言い聞かせてきたのに……」
『戸惑ってるんだね……』
床に水たまりが出来るのもかまわず、ワタシは荒い息のまま真綾に問う。
「どうしたらいいんだろう……。告白して断られたらもう二度と駿河と今まで通りにはいかなくなるんだよな?」
『……そうだね。気まずくなるだろうね』
「でも駿河がどこかへ行ってしまうのが怖い……」
手で顔を覆う。身体にべたりと張り付いた髪先から冷たいしずくが落ちる。
『今、伝えなよ』
「は!?」
『時間置いて冷静になるっていうのもテだけど、咲ちゃんの場合ますます言えなくなると思う。悩んでしまってることが態度に出てしまうだろうし』
「そうかもだけど」
『言わずに隠して、駿河くんとケンカしてそれこそ離れてしまうかもしれないよ』
返す言葉がない。それが一番最悪だ。
『ごめん。さすがに今の言葉は不安にさせるだけだったね……』
「いいや。真綾の言う通り、毎日顔合わす駿河に隠し通すことは無理だ」
『やっぱり今この電話切って、メッセージ送るなり、電話するなり、まだ夜の十時だし、いっそのこと家に行っちゃったらいいよ! 隣なんだし!』
「そんな……」
『じゃ、切るよ』
「わかった、がんばる」
真綾との通話を切って、とりあえず、身体を拭いてジャージに着替える。
メッセージアプリを開き、駿河とのトークルームを開く。上にスクロールしてさかのぼってみる。ほとんど毎日やりとりしてるから、さかのぼるのは大変だった。授業や課題の話、創作の話、くだらないスタンプの送り合いだとか、くだらないことでもワタシにとってすべて大切で必要なやりとりだった。
受験の日、隣に駿河がいたからワタシは今ここにいる。生きてきた中でこんなに心地よく話せる人に初めて出会った。地元に帰っても、ずっと忘れられなかった。また会って、話したいと思っていた。だから、合格通知が届いた時、心の底から嬉しくて、本当は最初に駿河に連絡したかった。別れ際にワタシが「連絡先は今交換しないでおこう」って言ったけど、交換しとけばなぁと後悔してた。入学したら絶対駿河を探すって気合入れて引っ越して来たら、隣の部屋に住んでて。何千、何万とあるマンションの中で、同じマンションの隣の部屋だなんてとんでもない確率なわけで。再会した日から駿河のいない景色なんてない。いないなんて考えられない。手が震えてメッセージが打てない。通話ボタンも押せない。
ダメだ真綾。ワタシには出来ない。
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