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やっぱりワタシは

第十五話 やっぱりワタシは6

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 大学祭中でも営業時間は短いものの、総合体育館の中のコンビニと第二食堂は開いていた。食堂はメニューが絞られていて、うどんとそばのみ。ワタシはいろいろ食べ過ぎてやや胃もたれしてるから、うどんを注文した。注文口をスルーして座席に行こうとする駿河を呼び止める。
「何も食べないのか?」
「ライブ参加が嬉しすぎて、その……緊張してしまって」
「珍しいな。でもライブ途中で倒れて見れなくなるほうがつらいぞ?」
 いつも駿河が言うようなセリフをワタシが言う日が来るなんて。
「それもそうですね。僕もうどん買ってきます」
 なんか受験の時よりも緊張してる感じだな。
「真綾と神楽小路、休憩がてら、うまいこといってるといいなぁ」
「二人なら仲良くしてることでしょう」
「あの場では訊けなかったんですけど、神楽小路くん、さっき僕と桂さんのこと名字だけで呼んでましたか?」
「そうだな」
 事情を知ってるワタシはちょっとニヤニヤしてしまう。アイツ、なんだかんだワタシたちのことも仲間だって思ってくれてるのがわかって嬉しい。
「神楽小路くんとこれからもっとお話できますかね」
「オマエなら大丈夫だろ。遠慮せずに話しかけてやればいいんじゃないか。きっと喜ぶぞ」
「そうだと嬉しいです」
 
 すると、
「あ、駿河くん」
 いつぞや駿河と話していたショートカットの女性がワタシたちのテーブルに歩いてきた。ワタシは駿河と女性を交互に見やる。
「思わず声かけちゃった。あれから気が変わったかしら?」
「いえ、残念ですが」
「そこをなんとかならない?」
 そう言うと女性の切れ長の目がワタシを見る。
「ねぇ、彼女さんはどう思う?」
 彼女と言う単語に心臓が止まるかと思った。「あなた」という意味で使ってるとわかってるけど……。それにしても事情が全く読み取れない。
「な、なにがっすか?」
「駿河くんから何も聞いてない?」
「いえ、なにも」
「私は文芸サークル『その日ぐらし』の部員でね。駿河くんをスカウトしてたの」
「はぁ……」
「駿河くんの作品を部員の子が読ませてくれて。ウチのサークルにピッタリの作風だったからぜひウチに入ってほしいなって」
 なるほど、そういうことだったのか。しつこく告白されてたわけじゃないのか。どこか安心する自分がいる。駿河はため息をつく。
「僕は今、やりたいことがたくさんあるので、サークル参加までは手が回らないです。その意志は今も変わりません」
「そんなに固く考えなくていいんだから。サークルは気楽にやるものだから」
「そうは言っても、部誌を出すということなら、しっかりとしたクオリティを求められるはずです」
「駿河くんなら大丈夫よ」
「ですが……」
 駿河の表情はさらに曇っていく。
「あのさぁ、先輩」
 自分でも驚くくらい大声が出てしまった。軽く咳ばらいをして続ける。
「駿河はさ、ちゃんと自分の意志を伝えてる。またの機会……いや、駿河の気持ちだとか環境が変わるまでスカウトするのは勘弁してもらえないっすか」
「また今度って言ってたら、大学生活はあっという間に終わってしまうわよ」
「んーまぁそうっすね。今だって気がつけば秋になってましたし」
「一回生のあなたでもそう感じるんだから、三回生の私なんてもっと早く時間が過ぎたと感じているわ」
 先輩が言う「時間が過ぎた」という言葉を今ワタシはどこか遠い未来のように感じる。でも、先輩だって一回生の時はきっとそう思ってたんだろうな。留年さえしなきゃ、四年でワタシたちは卒業する。まだ入学したばかりで、ようやく慣れてきたかなと感じているのに。
「駿河の作品が良いってことはわかります。読みやすくて、一気に作品の世界に入れる。爽やかなのに、どこかドロッとした暗い部分もあって」
「そう! それがいいってサークル内でも盛り上がって! こないだの『青の空は君の色』は良かったわね。ラストがうやむやなのか少し残念だったけど」
「『青の空は君の色』……?」
 読ませてもらった作品の中にそんなタイトルの小説あったっけ? 駿河の方をちらりと見ると、スッと視線を逸らした。……なんでだ? 
「褒めてもらえてワタシまで嬉しいっす。でも、駿河の気持ちをもっと大事にしてもらえないっすか。作品がどれほど良くて称賛されても、創作者の気持ちを踏みにじるようなことしちゃダメっすよ」
 相手の目をじっと見る。
「アンタも創作する身だったらわかるはずじゃないですかね」
ワタシの言葉が少し気に障ったのか、先輩も目線を外さない。絶対に逸らすな。自分に言い聞かせる。
「……そうね。やりすぎね」
 女性は頭を抱えて、「ふぅ……」と息を吐きだした。
「駿河くん、ごめんなさい。部員内でも駿河くんならぜひ歓迎したいって声が強かったから」
「あ、いえ……僕もお気持ちに添えず」
「もし気持ちが変わったら部室見に来て」
「わかりました。ありがとうございます」
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