上 下
7 / 21
真夏の冒険

第七話 真夏の冒険2

しおりを挟む
 電話の着信音というのはなぜこんなに不快で不安になるような音階のものばかりなんだろう。鳴るたびに心臓飛び出そうになる。そう、今みたいに寝起き時は特に。
「はい……」
『駿河ですが』
「うん……」
『メッセージ送っても返ってこないから電話しました。その感じの声だと、寝てましたね?』
「うー……うん。ごめん」
『もう夕方ですよ。晩ご飯も出来ました』
「ありがと、今行くー」
 寝起き眼のまま、駿河の部屋へ入れてもらうと、良い匂いがする。目がじわじわと覚め始める。
「なんだこれ!」
 想像していた中華麺の姿をしていなかった。パッと見て、白菜や短冊切りのにんじんとかが餡に包まれていたから八宝菜かと思った。よく見たら、下に中華麺の塊がいる。
「中華麺を揚げ焼きにして、あんかけ焼きそばにしてみました」
「お店みたいだな。いただきまーす!」
 箸で麺を切って、柔らかく煮込まれた具材と一緒に食べる。
「うまー!」
「我ながらこれはうまく作れましたね」
 駿河も食べ進める。餡でまったりとした口の中を麦茶でリセットする。二食連続で麺を食べても幸せな気分だ。
「あの」
「ん?」
「やっぱり花火見に行きますか」
 想像もしてなかった言葉。なかなか理解できず咀嚼を続けた。理解と同時に飲み込む。駿河は麦茶を飲みきり、コップを置く。
「せっかく二人とも休みですし、どうでしょうか」
「いいぞ、行こうぜ」
 どういう風の吹き回しなのか、心変わりなのかよくわかんねぇけど。嬉しい。
「そう言っていただけてよかったです!」
 駿河はやや興奮した声で言いながら、スマホの画面をワタシに見せる。画面にはこの辺の地図が表示されていた。
「調べたら、僕らの家からでは見えないので、駅の反対側にある、石川の河川敷まで歩かないといけないようです」
「そうなのか、了解。じゃあ、食べたら部屋一旦戻って用意してくるわ」
 
 部屋に戻ると部屋着を脱ぎ捨て、Tシャツとデニムに着替える。裸足だった足には靴下を履く。鍵、財布、スマホだけショルダーバッグに入れ、家を出ると、駿河はもう扉の前で待ってくれていた。
「スニーカー、たくさん履いてくれて嬉しいです」
 駿河はピンクのスニーカーに視線を落としながら言う。
「歩きやすいし、蛍光色だから夜道でも映えるしな」
「やっぱり似合ってますよ」
「ありがと」
 いつもいじってくるくせに、突然褒めてこられると照れてしまう。話題を変えよう。
「そういや駅の反対側には行ったことがあまりないな」
「僕も用事がない限りは行かないですね」
「花火見れるといいなぁ」
「あるのはネットのクチコミ情報だけですからね。確実に見えるとはまだ言い切れないので少し心配ですが」
「見れなかったときは、コンビニでアイスでも買って帰ろうぜ」
「そうしますか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

極上エリートとお見合いしたら、激しい独占欲で娶られました 俺様上司と性癖が一致しています

如月 そら
恋愛
旧題:俺様上司とお見合いしました❤️ 🍀書籍化・コミカライズしています✨ 穂乃香は、榊原トラストという会社の受付嬢だ。 会社の顔に相応しい美麗な顔の持ち主で、その事にも誇りを持っていた。 そんなある日、異動が決定したと上司から告げられる。 異動先は会社の中でも過酷なことで有名な『営業部』!! アシスタントとしてついた、桐生聡志はトップセールスで俺様な上司。 『仕事出来ないやつはクズ』ぐらいの人で、多分穂乃香のことは嫌い。 だったら、こんなお仕事、寿退社で辞めてやるっ!と応じたお見合いの席には……。 🍀2月にコミックス発売、3月に文庫本発売して頂きました。2024年3月25日~お礼のショートストーリーを連載中です。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

野良インコと元飼主~山で高校生活送ります~

浅葱
ライト文芸
小学生の頃、不注意で逃がしてしまったオカメインコと山の中の高校で再会した少年。 男子高校生たちと生き物たちのわちゃわちゃ青春物語、ここに開幕! オカメインコはおとなしく臆病だと言われているのに、再会したピー太は目つきも鋭く凶暴になっていた。 学校側に乞われて男子校の治安維持部隊をしているピー太。 ピー太、お前はいったいこの学校で何をやってるわけ? 頭がよすぎるのとサバイバル生活ですっかり強くなったオカメインコと、 なかなか背が伸びなくてちっちゃいとからかわれる高校生男子が織りなす物語です。 周りもなかなか個性的ですが、主人公以外にはBLっぽい内容もありますのでご注意ください。(主人公はBLになりません) ハッピーエンドです。R15は保険です。 表紙の写真は写真ACさんからお借りしました。

処理中です...