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咲くも枯らすも自分次第
第十三話 咲くも枯らすも自分次第6
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一階に降り、俺がキッチンへ向かおうとすると、その後ろを君彦さんがついてくる。
「……なんすか。君彦さんはこたつ入って待ってていいっすよ」
「真綾はいつもどんな朝食を食べているのだろうと思ってな」
「そんなこと知ってどうするんすか」
「真綾の好きなものは把握しておきたい」
「姉ちゃんはその日によって違う感じなんで参考にはならないっすよ。今日はトーストって言われましたけど、ご飯食べてる日もありますし、相当お腹空いてる時はうどん食べてたりするし」
「ほぉ」
君彦さんは椅子に座りながらも、俺の一挙手一投足じっと見ている。妙に緊張するから見ないでほしいんだけど……。
最初にケトルでお湯を沸かしておく。ケトルとトースターをいっしょに使うと、たまにブレーカーが落ちるからじっと待つ。さっき沸かしたところだから、すぐに温かくなるだろう。君彦さんはケトルを初めて見るのか、まじまじといろんな角度から観察している。
それにしても、大切なことを言わないかぁ……。岸野にも顔を見て話すべきだった。俺が煮え切らない態度だったから、あの日岸野は立ち去ってしまった。そのあとは俺はただ待ち続けて、でもチャンスが来ても逃げ出して。ちゃんと気持ち伝えておけば……。最低だな、なんて物思いにふけっていると、
「悠太、カチッと音が鳴って、ライトが消えた」
顔は無表情なのに、少し興奮した声で君彦さんが言う。
「これでお湯が沸いたってことなんですよ」
「便利だな」
なんつーか、浮世離れしてる……。姉ちゃんがつい世話焼きしてしまうのも頷ける。
トースターに食パンを置いた後、洗面台で化粧している姉ちゃんに訊く。着古したパジャマから、大きい襟のシャツに、両胸元にリボンがあしらわれたカーディガンと、上は姉ちゃんが好んでよく着ている、かわいらしいデザインの服。でも、下は膝上のタイトスカートに黒いタイツを履いている。こういう体のライン出るような服、姉ちゃん着てる姿見たことない。デートだからって気合入ってるなぁ。
「姉ちゃん、いつもみたいにマーガリンとイチゴジャム塗る?」
「えっ、塗っといてくれるの」
頬を優しく撫でていたブラシを離し、俺の方を見るとパッと表情が明るくなった。
「今日はやってやるよ」
「じゃあ、お願いします!」
マーガリンとイチゴジャム、両方塗るとかカロリー高いのに姉ちゃんほんとこれ好きなんだよな。美味しいけどさぁ、朝からなんかすごく罪悪感あるんだよなぁ。そう思いながらマーガリンから塗っていく。焼きたての食パンは一瞬でマーガリンを溶かす。その上から、スプーンで山盛りにイチゴジャムを乗せる。これで完成。
ちょうど、姉ちゃんがやってきた。
「姉ちゃん、今日は化粧早いな」
「そんな言い方されたら、いつも遅いみたいじゃん」
「朝、洗面台の取り合いになってるっての」
「君彦くんの前でしょうもないこと言わないの!」
君彦さんの横の椅子にどすんと勢いよく座る。姉ちゃんが座ると同時に、君彦さんはテーブルに頬杖をつき姉ちゃんを眺めるように見る。
「改めて。真綾、おはよう」
「おはよう。今からご飯だからさらに待たせちゃうね」
「気にするな。真綾を見ているだけでいい」
その一言に姉ちゃんの頬が一気に紅潮していき、「えへへ」と照れ笑いしている。最近、姉ちゃんがこんなに笑ってる姿、しっかり見たことがなかった。俺がいつもひどいこと言って、悲しませてばかりだったから。完成したトーストを乗せた皿を姉ちゃんの前に置く。
「君彦くんはマーガリンとイチゴジャムの最強タッグトースト食べたことある?」
「ないな」
「イチゴの甘酸っぱさとマーガリンのまったりしたコクがすごくマッチしておいしいんだよ」
そう言うと、トーストを小さくちぎって、君彦さんの口に入れた。
「どう?」
「うまい」
「でしょ!」
二人は微笑み合う。
「なぁ、二人は大学でもそんな感じなの?」
「え?」
「周りからツッコまれない? イチャつきすぎって」
「特に言われないよね」
「ああ。言われたことはない」
「咲ちゃんも駿河くんもいつも優しく見守ってくれてるし」
「さすがに公共の場で目に余るようなことはしないからな」
なんか堂々としてて羨ましい。俺はクラスメイトの目が気になるから、外で飯食べてたし。なんかこんな仲睦まじい姿見せられたらますます俺も岸野と話したい気持ちが募る。今度こそちゃんと目を見て、話したい。
「姉ちゃん、君彦さん」
「どうしたの悠ちゃん。そんな険しい顔して」
「あのさ、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
二人に、俺に彼女が出来て、その彼女に嫌われたという話をした。姉ちゃんも君彦さんも笑うことなく、真剣に黙って俺の話に耳を傾けてくれた。
「それがいつの話なの?」
「三週間かそこら前」
「その間、連絡も一切取っていないということなんだな?」
「そうです」
「こういうことは時間を置いたらもっとややこしくなっちゃうよね、君彦くん……」
「そうだな。早期解決に限る」
「でもさ、向こうがああやってまくし立てて、逃げられて。まだ付き合いたてでアイツのことなにもわかんなくてさ。俺なんて言葉をかければよかったんだよ」
「正直に『わからない』で良かったんじゃないかな」
「わからないなんて……余計怒らせたんじゃ」
「何も考えずにすぐにそう返してたら怒ると思うけど、正直に何が嫌だったのか教えてほしいって言ってもいいと思う。今からでも電話か、気まずいならとりあえずメッセージ送ってみたらどう? 今日、休みでしょ」
「……なんすか。君彦さんはこたつ入って待ってていいっすよ」
「真綾はいつもどんな朝食を食べているのだろうと思ってな」
「そんなこと知ってどうするんすか」
「真綾の好きなものは把握しておきたい」
「姉ちゃんはその日によって違う感じなんで参考にはならないっすよ。今日はトーストって言われましたけど、ご飯食べてる日もありますし、相当お腹空いてる時はうどん食べてたりするし」
「ほぉ」
君彦さんは椅子に座りながらも、俺の一挙手一投足じっと見ている。妙に緊張するから見ないでほしいんだけど……。
最初にケトルでお湯を沸かしておく。ケトルとトースターをいっしょに使うと、たまにブレーカーが落ちるからじっと待つ。さっき沸かしたところだから、すぐに温かくなるだろう。君彦さんはケトルを初めて見るのか、まじまじといろんな角度から観察している。
それにしても、大切なことを言わないかぁ……。岸野にも顔を見て話すべきだった。俺が煮え切らない態度だったから、あの日岸野は立ち去ってしまった。そのあとは俺はただ待ち続けて、でもチャンスが来ても逃げ出して。ちゃんと気持ち伝えておけば……。最低だな、なんて物思いにふけっていると、
「悠太、カチッと音が鳴って、ライトが消えた」
顔は無表情なのに、少し興奮した声で君彦さんが言う。
「これでお湯が沸いたってことなんですよ」
「便利だな」
なんつーか、浮世離れしてる……。姉ちゃんがつい世話焼きしてしまうのも頷ける。
トースターに食パンを置いた後、洗面台で化粧している姉ちゃんに訊く。着古したパジャマから、大きい襟のシャツに、両胸元にリボンがあしらわれたカーディガンと、上は姉ちゃんが好んでよく着ている、かわいらしいデザインの服。でも、下は膝上のタイトスカートに黒いタイツを履いている。こういう体のライン出るような服、姉ちゃん着てる姿見たことない。デートだからって気合入ってるなぁ。
「姉ちゃん、いつもみたいにマーガリンとイチゴジャム塗る?」
「えっ、塗っといてくれるの」
頬を優しく撫でていたブラシを離し、俺の方を見るとパッと表情が明るくなった。
「今日はやってやるよ」
「じゃあ、お願いします!」
マーガリンとイチゴジャム、両方塗るとかカロリー高いのに姉ちゃんほんとこれ好きなんだよな。美味しいけどさぁ、朝からなんかすごく罪悪感あるんだよなぁ。そう思いながらマーガリンから塗っていく。焼きたての食パンは一瞬でマーガリンを溶かす。その上から、スプーンで山盛りにイチゴジャムを乗せる。これで完成。
ちょうど、姉ちゃんがやってきた。
「姉ちゃん、今日は化粧早いな」
「そんな言い方されたら、いつも遅いみたいじゃん」
「朝、洗面台の取り合いになってるっての」
「君彦くんの前でしょうもないこと言わないの!」
君彦さんの横の椅子にどすんと勢いよく座る。姉ちゃんが座ると同時に、君彦さんはテーブルに頬杖をつき姉ちゃんを眺めるように見る。
「改めて。真綾、おはよう」
「おはよう。今からご飯だからさらに待たせちゃうね」
「気にするな。真綾を見ているだけでいい」
その一言に姉ちゃんの頬が一気に紅潮していき、「えへへ」と照れ笑いしている。最近、姉ちゃんがこんなに笑ってる姿、しっかり見たことがなかった。俺がいつもひどいこと言って、悲しませてばかりだったから。完成したトーストを乗せた皿を姉ちゃんの前に置く。
「君彦くんはマーガリンとイチゴジャムの最強タッグトースト食べたことある?」
「ないな」
「イチゴの甘酸っぱさとマーガリンのまったりしたコクがすごくマッチしておいしいんだよ」
そう言うと、トーストを小さくちぎって、君彦さんの口に入れた。
「どう?」
「うまい」
「でしょ!」
二人は微笑み合う。
「なぁ、二人は大学でもそんな感じなの?」
「え?」
「周りからツッコまれない? イチャつきすぎって」
「特に言われないよね」
「ああ。言われたことはない」
「咲ちゃんも駿河くんもいつも優しく見守ってくれてるし」
「さすがに公共の場で目に余るようなことはしないからな」
なんか堂々としてて羨ましい。俺はクラスメイトの目が気になるから、外で飯食べてたし。なんかこんな仲睦まじい姿見せられたらますます俺も岸野と話したい気持ちが募る。今度こそちゃんと目を見て、話したい。
「姉ちゃん、君彦さん」
「どうしたの悠ちゃん。そんな険しい顔して」
「あのさ、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
二人に、俺に彼女が出来て、その彼女に嫌われたという話をした。姉ちゃんも君彦さんも笑うことなく、真剣に黙って俺の話に耳を傾けてくれた。
「それがいつの話なの?」
「三週間かそこら前」
「その間、連絡も一切取っていないということなんだな?」
「そうです」
「こういうことは時間を置いたらもっとややこしくなっちゃうよね、君彦くん……」
「そうだな。早期解決に限る」
「でもさ、向こうがああやってまくし立てて、逃げられて。まだ付き合いたてでアイツのことなにもわかんなくてさ。俺なんて言葉をかければよかったんだよ」
「正直に『わからない』で良かったんじゃないかな」
「わからないなんて……余計怒らせたんじゃ」
「何も考えずにすぐにそう返してたら怒ると思うけど、正直に何が嫌だったのか教えてほしいって言ってもいいと思う。今からでも電話か、気まずいならとりあえずメッセージ送ってみたらどう? 今日、休みでしょ」
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