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第三章 やりなおしの歌
第二十七話 やりなおしの歌9
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数時間後には、何事もなかったように出勤した。バイクを停めて、鍵を開ける前にタバコに火をつける。
そういえば、タバコ吸うの、めちゃくちゃ久しぶりじゃん。ダダと生活し始めて、すっかり吸わなくなっていた。吸わなくても、ダダがいるだけでこんなものなくたって満たされてた。結局、死ぬまで大切で特別な人を作らないなんて無理なことで、ダダを特別視しないなんて出来ていなかったじゃん。ばかみたい。好きという気持ちを偽るのは、あまりにもアタシには難しかった。
店の中に入り、荷開けをしていると、桂っちが出勤した。
「おはようございます」
「おはよ」
桂っちの表情は重い。どうアタシに話しかけるか戸惑ってるようだ。パーカーの裾を握ったまま立っている。
「そんな顔しないでよ。桂っちくらいは笑顔でいて?」
「でも……心配で」
「ダダなら大丈夫、きっとひょっこり……」
「タイスケさんもですけど、店長が心配です。声が苦しそうで、目も少し腫れてて……」
「……」
「昨日も学校帰りに総一郎と探したんですけど、何も……すいません」
「ありがと。桂っちも駿河っちもホントに……」
「店長……」
「アイツが見つかったら、ご飯でもおごってもらいなよ?」
「えっ、でも……」
「それくらいさせないと。みんなに心配かけてるわけだし」
また泣きそうだ。頬を両手で勢い良く叩く。その音に桂っちも驚きよりも引いている。アタシはエプロンをつけて、腕を組んだ。
「さて、アタシも気持ち切り替えて頑張るわ。今日も一日乗り越えよ」
「……はい!」
そう言うと桂っちはニカっと元気に笑った。
今日は入荷が多かった。入って来たのは追加発注したハロウィン商品と、徐々に展開を始めているクリスマスグッズ。そんな季節がもうやって来る。箱を開けて、値付け作業している間だけは何も考えずにいれて助かった。
「そろそろアタシ休憩入る」
「了解っす」
店の裏に入り、エプロンを外していると、作業机に置いていたアタシのスマホが鳴りはじめた。源太さんの名前が表示されてるのを見て、慌てて取る。
「もしもし?」
『あ! もしもし! もしもし⁉ 聞こえてる⁉ タ、タイちゃん見つかった!』
息切れ、鼻息の音で雑音だらけだったけど、聞き取れた。
「見つかった⁉ マジ⁉」
『今、俺ん家の地下スタジオにいる!』
「ケガとかは……⁉」
『大丈夫っぽい! ちょっと疲れてる様子だけど。とにかく今からバイクで来れない⁉ 俺は草太とコウノくん、大急ぎで迎えに行く!』
行きたい。今すぐに。だけど次の社員が来るまでは店から離れられない。
「店長!」
桂っちが店内から呼ぶ。
「どうした⁉」
「タイスケさん見つかったんですよね⁉」
「そ、そうらしい……だけど」
「今すぐ行ってください!」
「でも、それだと桂っち一人で……」
「やまむぅさんが来るまであと一時間ですよね? それくらいなら一人でなんとかします! だから早く!」
「桂っち、ありがと! あとは頼んだ!」
アタシは源太さんに「今から行く」と伝え、教えてもらった綾女家の住所を地図アプリに入力する。ヘルメットをかぶり、震える手でバイクの鍵を差し込み、出発する。気が気でならない。ここで事故ったらマジ笑えない。落ち着け落ち着け……と、はやる気持ちを抑えて運転に集中した。
「えっ⁉ まさかここ……?」
スマホと建物を何度も確認する。高い塀に囲まれた超大きな一軒家。門扉の横にはインターフォンと表札が二枚張り出されていた。一枚は『綾女』、もう一枚は『ワンロード』と出ている。そういやさっきサラッと「地下スタジオ」がどうのって言ってたよね? 源太さんって何者……? インターフォンを押す。鐘の音色が響く。
『はーい』
「す、すいません。木村と申します。あー、えっと、綾女源太さんからここにダダ……じゃなくて金田太介さんがいると聞きまして、その!」
『話は旦那から聞いてるわ。解錠したから入ってくださるぅ?』
恐る恐る門を開き、中に入る。手入れの行き届いた池付きの庭を抜け、玄関にたどり着く同時にショートカットの女性が出迎えてくれた。
「木村さん、初めまして~。わたしは綾女麗子。いつもタイくんとイエフリのメンバーがお世話になっておりますぅ」
背はアタシより高く、顎を思い切り上げて、見上げてようやく麗子さんと目が合った。まったりとした口調だからか威圧感はない。パンツスタイルで身体のシルエットが浮き出ているが、贅肉が一切ついてない理想のプロポーションとはこのことだろう。鼻も高く、目も大きく、肌もつやつや輝いてて、メイクをしているからというよりは、もともとめちゃくちゃキレイな人なんだと思う。
「木村さん? 大丈夫?」
ぼけーっと見惚れているアタシの目の前で手を振る。動くたびに香水の爽やかな香りがする。
「あっ、すいません」
「あなたもこの三日間ほどタイくん探ししてくれたんでしょ? 仕事でお忙しいのに、ごめんなさい」
「いえ! お気になさらず!」
「まだ旦那たちは来てないけど、先にタイくんに声かけてくれないかなぁ? わたしが声かけても無言で困ってるの」
「わかりました……なんとかしてみます」
そういえば、タバコ吸うの、めちゃくちゃ久しぶりじゃん。ダダと生活し始めて、すっかり吸わなくなっていた。吸わなくても、ダダがいるだけでこんなものなくたって満たされてた。結局、死ぬまで大切で特別な人を作らないなんて無理なことで、ダダを特別視しないなんて出来ていなかったじゃん。ばかみたい。好きという気持ちを偽るのは、あまりにもアタシには難しかった。
店の中に入り、荷開けをしていると、桂っちが出勤した。
「おはようございます」
「おはよ」
桂っちの表情は重い。どうアタシに話しかけるか戸惑ってるようだ。パーカーの裾を握ったまま立っている。
「そんな顔しないでよ。桂っちくらいは笑顔でいて?」
「でも……心配で」
「ダダなら大丈夫、きっとひょっこり……」
「タイスケさんもですけど、店長が心配です。声が苦しそうで、目も少し腫れてて……」
「……」
「昨日も学校帰りに総一郎と探したんですけど、何も……すいません」
「ありがと。桂っちも駿河っちもホントに……」
「店長……」
「アイツが見つかったら、ご飯でもおごってもらいなよ?」
「えっ、でも……」
「それくらいさせないと。みんなに心配かけてるわけだし」
また泣きそうだ。頬を両手で勢い良く叩く。その音に桂っちも驚きよりも引いている。アタシはエプロンをつけて、腕を組んだ。
「さて、アタシも気持ち切り替えて頑張るわ。今日も一日乗り越えよ」
「……はい!」
そう言うと桂っちはニカっと元気に笑った。
今日は入荷が多かった。入って来たのは追加発注したハロウィン商品と、徐々に展開を始めているクリスマスグッズ。そんな季節がもうやって来る。箱を開けて、値付け作業している間だけは何も考えずにいれて助かった。
「そろそろアタシ休憩入る」
「了解っす」
店の裏に入り、エプロンを外していると、作業机に置いていたアタシのスマホが鳴りはじめた。源太さんの名前が表示されてるのを見て、慌てて取る。
「もしもし?」
『あ! もしもし! もしもし⁉ 聞こえてる⁉ タ、タイちゃん見つかった!』
息切れ、鼻息の音で雑音だらけだったけど、聞き取れた。
「見つかった⁉ マジ⁉」
『今、俺ん家の地下スタジオにいる!』
「ケガとかは……⁉」
『大丈夫っぽい! ちょっと疲れてる様子だけど。とにかく今からバイクで来れない⁉ 俺は草太とコウノくん、大急ぎで迎えに行く!』
行きたい。今すぐに。だけど次の社員が来るまでは店から離れられない。
「店長!」
桂っちが店内から呼ぶ。
「どうした⁉」
「タイスケさん見つかったんですよね⁉」
「そ、そうらしい……だけど」
「今すぐ行ってください!」
「でも、それだと桂っち一人で……」
「やまむぅさんが来るまであと一時間ですよね? それくらいなら一人でなんとかします! だから早く!」
「桂っち、ありがと! あとは頼んだ!」
アタシは源太さんに「今から行く」と伝え、教えてもらった綾女家の住所を地図アプリに入力する。ヘルメットをかぶり、震える手でバイクの鍵を差し込み、出発する。気が気でならない。ここで事故ったらマジ笑えない。落ち着け落ち着け……と、はやる気持ちを抑えて運転に集中した。
「えっ⁉ まさかここ……?」
スマホと建物を何度も確認する。高い塀に囲まれた超大きな一軒家。門扉の横にはインターフォンと表札が二枚張り出されていた。一枚は『綾女』、もう一枚は『ワンロード』と出ている。そういやさっきサラッと「地下スタジオ」がどうのって言ってたよね? 源太さんって何者……? インターフォンを押す。鐘の音色が響く。
『はーい』
「す、すいません。木村と申します。あー、えっと、綾女源太さんからここにダダ……じゃなくて金田太介さんがいると聞きまして、その!」
『話は旦那から聞いてるわ。解錠したから入ってくださるぅ?』
恐る恐る門を開き、中に入る。手入れの行き届いた池付きの庭を抜け、玄関にたどり着く同時にショートカットの女性が出迎えてくれた。
「木村さん、初めまして~。わたしは綾女麗子。いつもタイくんとイエフリのメンバーがお世話になっておりますぅ」
背はアタシより高く、顎を思い切り上げて、見上げてようやく麗子さんと目が合った。まったりとした口調だからか威圧感はない。パンツスタイルで身体のシルエットが浮き出ているが、贅肉が一切ついてない理想のプロポーションとはこのことだろう。鼻も高く、目も大きく、肌もつやつや輝いてて、メイクをしているからというよりは、もともとめちゃくちゃキレイな人なんだと思う。
「木村さん? 大丈夫?」
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「あっ、すいません」
「あなたもこの三日間ほどタイくん探ししてくれたんでしょ? 仕事でお忙しいのに、ごめんなさい」
「いえ! お気になさらず!」
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