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おまけ
翌日の話
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眠ったのか眠っていないのか、よくわからない。気がつけば、スマートフォンに設定しているアラームが朝を知らせた。身体を起こし、カーテンを開けて、部屋に陽の光を入れる。まだ働かない頭のまま、俺は一言呟く。
「好き、か」
昨日、初めて他人から言われた、そして、初めて自分が他人に伝えた言葉。俺のことを好いてくれる人がいて、俺はその人を大切にしたい。そう思う日が来るとは。
気持ちがつながった瞬間、身体の奥底から喜びであったり、驚きであったり、様々な感情が湧き上がった。感情の泡は動揺する俺を優しく包み込み、幸せな気持ちにさせてくれた。
昨日ほど「これまでのすべてが夢であったなら、どれほど恐ろしいか」と思った夜はなかった。ずっと「この世すべてが夢であったなら、早く醒めて、俺自身も消えてなくなればいい」と思っていたというのに。「好き」というその一言、たった一つの感情で考えがひっくり返されてしまうとは想像もしなかった。その結果、朝になっても恥ずかしいほどに心の中は浮足立っている。
気持ちを落ち着けようと、普段通りシャワーを浴び、服を着替え、朝食を済ませる。玄関へ向かうと執事長の芝田浩二に呼び止められる。
「君彦様、もうご出発ですか」
「ああ」
「えっ、まだ八時前ですよ。本日は二限目から授業開始だと伺っております。今出るとかなり早く大学に到着することになりますが」
そんな訳があるはずないと腕時計を見ると、いつも出発する一時間以上も前だった。
「少し……用事を思い出した」
もちろん早く登校したところで特に用事はない。しかし、家にいても心ここにあらずというべきなのだろうか。一刻も早く大学へと本能が急かせる。
大学に向かう車中で、昨日のことを思い返す。
「佐野真綾、好きだ。お前がいればどこへでも行ける気がする。新しい景色を一緒に見ていたい。これからも俺のそばにいてくれないか」
「もちろんだよ」
人目も気にせず、しばらく抱き合ったあと、共通の友人である駿河総一郎と桂咲に「付き合うことになった」とメッセージを送った。そのあと、互いに授業があったため、佐野真綾とはその場で別れた。授業に集中していたはずが、四限目の授業内容はほとんど頭に入らないまま、我に返った頃には自室の中だった。
海外出張中の父と母に「恋人が出来た」と電話をかける。佐野真綾の存在を隠すことはない。むしろ大事な人が出来たのだから、すぐに報告しないほうがおかしい。父も母も最初は驚きながらも、「日本に帰国した際にぜひ会いたい」と想像していた以上に喜んでくれた。親不孝者の俺が、十九歳になって初めて両親を安心させられたかもしれない。
電話を切ると、先ほどメッセージを送った二人から返信が来ていた。駿河総一郎からは『おめでとうございます。こんなに嬉しいことはないです。末永くお幸せに』、桂咲からは『おめでとう。真綾のこと、幸せにしてくれよ』と祝福の言葉をもらった。
駿河総一郎は、しっかりしていて、物腰も柔らかく接しやすい。反対に、桂咲は俺につっかかるような言動が多い。最初は相容れない存在になると思っていたが、自分の感情にただまっすぐなだけで、そこに真面目さや優しさがあることに気づいてからは悪い奴ではないと思った。初見では正反対に見える二人だが、どこか惹かれ合う魅力があるのだろう。どんな時も仲睦まじく、互いを思いやる姿は羨ましく思う。俺と佐野真綾もあの二人のように良い関係を築いていきたい。
車を降り、芸坂と呼ばれる大学の門から校舎を繋ぐ坂を上る。傾斜がかなりきついこの坂は半年経っても慣れず、途中で息が切れる。夏は午前中でも日差しが強く、一瞬で汗が噴き出たものだ。今は秋が深まり、あの暑かった夏の姿はもうどこにもない。石畳の歩道には枯れ葉が散らばり、踏むと乾いた音がした。
「さて、どうするか」
坂を上り切り、呆然と立ち並ぶ大学校舎を眺める。ちょうど俺の右手側に図書館が入っている建物がある。やはり図書館で本を読むか、小説を新しく書き始めるためのプロットでも考えるのが一番有益な時間の使い方だろう。
歩きだそうとしたちょうどその時、スクールバスが到着した。中から多くの学生が降りてくるが、そのうちの一人に見覚えある薄紫色のワンピースを着た女性を見つける。栗色のウェーブヘアの長身の女性、佐野真綾だ。俺が見つけたと同時に、佐野真綾もこちらを見た。大きな瞳が俺を捉えると、一気に顔をほころばせこちらに駆けてくる。
「おはよう!」
「おはよう」
「今日早いね?」
「佐野真綾、お前こそ早いではないか。二限からではなかったのか」
「授業の前に図書館に行こうと思って」
「そうか」
「きっ、君彦くんは?」
「……」
「あ、えっと、神楽小路くんはどうしてもう大学にいるの?」
「なぜ言い直す?」
「名前で呼ばれるの嫌だったのかなって思って」
「嫌ではない。むしろ違和感がなかった」
「ほんと? よかった」
「俺が黙っていたのは特に目的もなく早く登校してしまって、何をするか考えていたところだったからだ」
「そうだったんだ。良かったら食堂行かない?」
「かまわんが、図書館はいいのか?」
「うん、大丈夫。君彦くんとお話したい!」
そう言うと佐野真綾は満面の笑みを浮かべた。内心では俺も偶然会えて嬉しいのだが、彼女のように感情を表情にも、口にもうまく出せない。不器用で無愛想な俺のどこを好きになってくれたのだろう。告白された際に、初めて見た日から好きだと言っていたが。実際に話し、俺の厄介にこじれた本性を知っても、佐野真綾は離れることなく、そばにいてくれた。本当に不思議な奴だ。
今いる場所から一番近い第一食堂に入る。授業真っ只中ということもあり、滞在している学生は十人もおらず、外から聞こえる喧騒もない。あと二時間もすればここも昼食をとる学生でごった返すのだ。嵐の前の静けさだな。
食堂の中にパンやおにぎりなどの軽食、飲み物、菓子を扱っている小さな購買部があり、ひとまずそこへ立ち寄ることになった。佐野真綾は棚を見渡し、
「あっ! これ、秋限定販売のマロンクリームパン! あっちに秋冬限定のチョコも!」
目を輝かせ、狭い店内をあちらこちら移動する。
「本当にそういう情報に詳しいな」
「えへへ。特に季節限定の食べ物は食べ逃したくないからねぇ」
俺は缶のブラックコーヒー、佐野真綾は箱に入ったチョコレートを買う。
横並びに席に着くと、佐野真綾はチョコレートの箱を開ける。個包装されたチョコを数粒手に取ると、俺に渡す。
「チョコレートあげる」
「いいのか?」
「君彦くんと一緒に食べたくて」
「ありがたくいただこう」
袋を開けると、一口大にカットされたサイコロ上のチョコレートがお目見えした。チョコレートの周りにはうっすらとココアパウダーがまぶされている。口に放り込むと、柔らかく溶けていく。
「甘さと、少し苦みも感じられるチョコレートだな。うまい」
「よかった! 毎年このチョコがコンビニやスーパーに並ぶのを見ると、『もうすぐ冬なんだなぁ』って思うの」
「そういうところにも四季の移り変わりを感じることが出来るのか」
「そうだよ。服や食べ物、花や木、季節によって変わっていく楽しみがいっぱいあるんだから」
ブラックコーヒーとの相性も良く、チョコレートはすぐに食べきってしまった。俺もこの商品のことを覚えておこうと、「食べたものノート」に書き記した。日々の食事を記録する「食べたものノート」、佐野真綾が日課にしていることだった。
佐野真綾は俺が考えたこともない発想、見ようともしなかった事柄を優しく教えてくれる。四季の移り変わりもそう。長らく生活のほとんどを家の中で過ごしていた自分にとって、気温以外に季節の変化を感じることはなかった。それに、楽しもうとも考えたこともなかった。
彼女の影響を受けて、変わっていく自分自身を最近は受け入れられるようになった。そして、知らないことを認め、知っていくことを楽しんでいる。佐野真綾は俺にとって人生を導く師にもなりうる、大事で尊敬できる存在だ。
「なんだか君彦くんって呼ぶの、ドキドキしちゃうね」
「すでに呼び慣れたような感じだが?」
「そう? それなら嬉しいな」
佐野真綾はカバンから水筒を取り出し、数口飲む。そして、真剣なまなざしで俺をじっと見つめる。
「あのね、君彦くん」
「改まってどうした」
「昨日、告白して、オッケーもらえて、すごく嬉しかったよ。家に帰った後も、君彦くんって呼ぶ練習までしちゃうくらい。朝起きても君彦くんのことで頭がいっぱいで、って何言ってんだろ……!」
みるみるうちに紅く染まっていく頬を両手で押さえながら、佐野真綾は続ける。
「だからね、お昼休みまでには落ち着かなきゃ、浮かれたままじゃだめだって思ってたんだよ? だけど偶然会って、今お話ししてて、夢じゃないんだと思うとまた頭フワフワしてきちゃって……。えっと、わたしは最高に幸せって言いたくて……!」
「同じだ」
「え?」
「昨日のことが夢でなければいいと思った。そして、俺も今……真綾が隣にいてくれていることを嬉しく思っている」
佐野真綾――いや、真綾の頬がさらに紅くなり、目が潤んでいく。
「ねぇ、今、わたしのこと名前で呼んでくれた……?」
そんなに喜んでもらえるとは思っていなかった。俺は髪をかきあげ、
「確かに恋人の名を呼ぶのは胸が高鳴るな」
そう言うと、真綾は優しい笑みを浮かべた。
「これからたくさん名前呼んでね」
右手を差し出してきた。俺はその小さな右手を両手で包むように握る。
「真綾が喜ぶのなら何度でも」
「好き、か」
昨日、初めて他人から言われた、そして、初めて自分が他人に伝えた言葉。俺のことを好いてくれる人がいて、俺はその人を大切にしたい。そう思う日が来るとは。
気持ちがつながった瞬間、身体の奥底から喜びであったり、驚きであったり、様々な感情が湧き上がった。感情の泡は動揺する俺を優しく包み込み、幸せな気持ちにさせてくれた。
昨日ほど「これまでのすべてが夢であったなら、どれほど恐ろしいか」と思った夜はなかった。ずっと「この世すべてが夢であったなら、早く醒めて、俺自身も消えてなくなればいい」と思っていたというのに。「好き」というその一言、たった一つの感情で考えがひっくり返されてしまうとは想像もしなかった。その結果、朝になっても恥ずかしいほどに心の中は浮足立っている。
気持ちを落ち着けようと、普段通りシャワーを浴び、服を着替え、朝食を済ませる。玄関へ向かうと執事長の芝田浩二に呼び止められる。
「君彦様、もうご出発ですか」
「ああ」
「えっ、まだ八時前ですよ。本日は二限目から授業開始だと伺っております。今出るとかなり早く大学に到着することになりますが」
そんな訳があるはずないと腕時計を見ると、いつも出発する一時間以上も前だった。
「少し……用事を思い出した」
もちろん早く登校したところで特に用事はない。しかし、家にいても心ここにあらずというべきなのだろうか。一刻も早く大学へと本能が急かせる。
大学に向かう車中で、昨日のことを思い返す。
「佐野真綾、好きだ。お前がいればどこへでも行ける気がする。新しい景色を一緒に見ていたい。これからも俺のそばにいてくれないか」
「もちろんだよ」
人目も気にせず、しばらく抱き合ったあと、共通の友人である駿河総一郎と桂咲に「付き合うことになった」とメッセージを送った。そのあと、互いに授業があったため、佐野真綾とはその場で別れた。授業に集中していたはずが、四限目の授業内容はほとんど頭に入らないまま、我に返った頃には自室の中だった。
海外出張中の父と母に「恋人が出来た」と電話をかける。佐野真綾の存在を隠すことはない。むしろ大事な人が出来たのだから、すぐに報告しないほうがおかしい。父も母も最初は驚きながらも、「日本に帰国した際にぜひ会いたい」と想像していた以上に喜んでくれた。親不孝者の俺が、十九歳になって初めて両親を安心させられたかもしれない。
電話を切ると、先ほどメッセージを送った二人から返信が来ていた。駿河総一郎からは『おめでとうございます。こんなに嬉しいことはないです。末永くお幸せに』、桂咲からは『おめでとう。真綾のこと、幸せにしてくれよ』と祝福の言葉をもらった。
駿河総一郎は、しっかりしていて、物腰も柔らかく接しやすい。反対に、桂咲は俺につっかかるような言動が多い。最初は相容れない存在になると思っていたが、自分の感情にただまっすぐなだけで、そこに真面目さや優しさがあることに気づいてからは悪い奴ではないと思った。初見では正反対に見える二人だが、どこか惹かれ合う魅力があるのだろう。どんな時も仲睦まじく、互いを思いやる姿は羨ましく思う。俺と佐野真綾もあの二人のように良い関係を築いていきたい。
車を降り、芸坂と呼ばれる大学の門から校舎を繋ぐ坂を上る。傾斜がかなりきついこの坂は半年経っても慣れず、途中で息が切れる。夏は午前中でも日差しが強く、一瞬で汗が噴き出たものだ。今は秋が深まり、あの暑かった夏の姿はもうどこにもない。石畳の歩道には枯れ葉が散らばり、踏むと乾いた音がした。
「さて、どうするか」
坂を上り切り、呆然と立ち並ぶ大学校舎を眺める。ちょうど俺の右手側に図書館が入っている建物がある。やはり図書館で本を読むか、小説を新しく書き始めるためのプロットでも考えるのが一番有益な時間の使い方だろう。
歩きだそうとしたちょうどその時、スクールバスが到着した。中から多くの学生が降りてくるが、そのうちの一人に見覚えある薄紫色のワンピースを着た女性を見つける。栗色のウェーブヘアの長身の女性、佐野真綾だ。俺が見つけたと同時に、佐野真綾もこちらを見た。大きな瞳が俺を捉えると、一気に顔をほころばせこちらに駆けてくる。
「おはよう!」
「おはよう」
「今日早いね?」
「佐野真綾、お前こそ早いではないか。二限からではなかったのか」
「授業の前に図書館に行こうと思って」
「そうか」
「きっ、君彦くんは?」
「……」
「あ、えっと、神楽小路くんはどうしてもう大学にいるの?」
「なぜ言い直す?」
「名前で呼ばれるの嫌だったのかなって思って」
「嫌ではない。むしろ違和感がなかった」
「ほんと? よかった」
「俺が黙っていたのは特に目的もなく早く登校してしまって、何をするか考えていたところだったからだ」
「そうだったんだ。良かったら食堂行かない?」
「かまわんが、図書館はいいのか?」
「うん、大丈夫。君彦くんとお話したい!」
そう言うと佐野真綾は満面の笑みを浮かべた。内心では俺も偶然会えて嬉しいのだが、彼女のように感情を表情にも、口にもうまく出せない。不器用で無愛想な俺のどこを好きになってくれたのだろう。告白された際に、初めて見た日から好きだと言っていたが。実際に話し、俺の厄介にこじれた本性を知っても、佐野真綾は離れることなく、そばにいてくれた。本当に不思議な奴だ。
今いる場所から一番近い第一食堂に入る。授業真っ只中ということもあり、滞在している学生は十人もおらず、外から聞こえる喧騒もない。あと二時間もすればここも昼食をとる学生でごった返すのだ。嵐の前の静けさだな。
食堂の中にパンやおにぎりなどの軽食、飲み物、菓子を扱っている小さな購買部があり、ひとまずそこへ立ち寄ることになった。佐野真綾は棚を見渡し、
「あっ! これ、秋限定販売のマロンクリームパン! あっちに秋冬限定のチョコも!」
目を輝かせ、狭い店内をあちらこちら移動する。
「本当にそういう情報に詳しいな」
「えへへ。特に季節限定の食べ物は食べ逃したくないからねぇ」
俺は缶のブラックコーヒー、佐野真綾は箱に入ったチョコレートを買う。
横並びに席に着くと、佐野真綾はチョコレートの箱を開ける。個包装されたチョコを数粒手に取ると、俺に渡す。
「チョコレートあげる」
「いいのか?」
「君彦くんと一緒に食べたくて」
「ありがたくいただこう」
袋を開けると、一口大にカットされたサイコロ上のチョコレートがお目見えした。チョコレートの周りにはうっすらとココアパウダーがまぶされている。口に放り込むと、柔らかく溶けていく。
「甘さと、少し苦みも感じられるチョコレートだな。うまい」
「よかった! 毎年このチョコがコンビニやスーパーに並ぶのを見ると、『もうすぐ冬なんだなぁ』って思うの」
「そういうところにも四季の移り変わりを感じることが出来るのか」
「そうだよ。服や食べ物、花や木、季節によって変わっていく楽しみがいっぱいあるんだから」
ブラックコーヒーとの相性も良く、チョコレートはすぐに食べきってしまった。俺もこの商品のことを覚えておこうと、「食べたものノート」に書き記した。日々の食事を記録する「食べたものノート」、佐野真綾が日課にしていることだった。
佐野真綾は俺が考えたこともない発想、見ようともしなかった事柄を優しく教えてくれる。四季の移り変わりもそう。長らく生活のほとんどを家の中で過ごしていた自分にとって、気温以外に季節の変化を感じることはなかった。それに、楽しもうとも考えたこともなかった。
彼女の影響を受けて、変わっていく自分自身を最近は受け入れられるようになった。そして、知らないことを認め、知っていくことを楽しんでいる。佐野真綾は俺にとって人生を導く師にもなりうる、大事で尊敬できる存在だ。
「なんだか君彦くんって呼ぶの、ドキドキしちゃうね」
「すでに呼び慣れたような感じだが?」
「そう? それなら嬉しいな」
佐野真綾はカバンから水筒を取り出し、数口飲む。そして、真剣なまなざしで俺をじっと見つめる。
「あのね、君彦くん」
「改まってどうした」
「昨日、告白して、オッケーもらえて、すごく嬉しかったよ。家に帰った後も、君彦くんって呼ぶ練習までしちゃうくらい。朝起きても君彦くんのことで頭がいっぱいで、って何言ってんだろ……!」
みるみるうちに紅く染まっていく頬を両手で押さえながら、佐野真綾は続ける。
「だからね、お昼休みまでには落ち着かなきゃ、浮かれたままじゃだめだって思ってたんだよ? だけど偶然会って、今お話ししてて、夢じゃないんだと思うとまた頭フワフワしてきちゃって……。えっと、わたしは最高に幸せって言いたくて……!」
「同じだ」
「え?」
「昨日のことが夢でなければいいと思った。そして、俺も今……真綾が隣にいてくれていることを嬉しく思っている」
佐野真綾――いや、真綾の頬がさらに紅くなり、目が潤んでいく。
「ねぇ、今、わたしのこと名前で呼んでくれた……?」
そんなに喜んでもらえるとは思っていなかった。俺は髪をかきあげ、
「確かに恋人の名を呼ぶのは胸が高鳴るな」
そう言うと、真綾は優しい笑みを浮かべた。
「これからたくさん名前呼んでね」
右手を差し出してきた。俺はその小さな右手を両手で包むように握る。
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