28 / 37
再生
第二十八話 再生2
しおりを挟む
「寝たところで勝手に小説が出来るわけもない」
興奮状態で机に向かう。「ハッ」とアイデアが浮かべば、その辺にあるノートやメモに走り書きをする。ただ、やはり物語として動かない。
「ダメだ」
目を閉じ、針穴に糸の先をなんとか入れるような思いで先に進む言葉であったり、主軸となる人物像をひねりだそうとする。表情がついていた登場人物の顔は再び色をなくしていく。
一度原稿から離れようとスマホを見ると、佐野からメッセージが来ていた。
『大学生になって二冊目の食べた物ノートだよ』
添付されていたのは、無地の赤いノート。「いいんじゃないか」と返信するため、入力欄をタップして、やめる。送信時間は五分前。神楽小路は通話ボタンを押してみた。
すぐに、
『も、もしもし?』
佐野の慌てた声が聞こえてくる。
「神楽小路だが。今通話出来るか」
『うん、大丈夫だよ。なにかあったの?』
「いや、なんとなくお前と話したくなった」
『ほんと!?嬉しいな! 話題は?』
「何も話題はない」
『えっ、えー!?』
「何か話してくれ」
『そんな投げやりな……えっと……そういえば、来月末の土日は喜志芸祭だね』
「喜志芸祭?」
『簡単に言うと文化祭だよ。サークルの人たちがやる模擬店もあるし、音楽ライブや映画やお芝居の上映もあるみたい』
「ほぉ」
『でも私が一番気になるのは、探検部のスモークチキンかな。とてもおいしいらしくて、毎年すごい人が並ぶくらいなんだって』
「よく知っているな」
『去年、高校時代の友達が喜志芸祭行って教えてくれたんだ。だから、絶対食べたいなぁって思ってるの』
「そういうことか」
『で、その、神楽小路くん……今から予定押さえたら一緒に喜志芸祭行ける?』
「佐野真綾、答える前に一ついいか?」
『うん、どうしたの?』
「そんなに楽しみにしている喜志芸祭、一緒に行くのが俺でいいのか?」
『えっ』
「桂や駿河、お前には他にたくさん友人がいるだろう。それなのに」
『一番に誘いたかったのは神楽小路くんだったから』
神楽小路の言葉を遮るように佐野は答える。
『やっぱり神楽小路くんおもしろいもん。そばにいれてわたしは毎日とても楽しいよ。それに神楽小路くん、文化祭とか参加したことないって前に言ってたでしょ? だから、案内も兼ねて一緒に行けたらきっと楽しいだろうなぁって思ったの。……どうかな?』
佐野の言葉に神楽小路は胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「わかった、予定は空けておく」
『ありがとう! 楽しみにしてるね』
「ああ」
そのあと、少しだけ、今日食べたご飯の話や、授業についての話をした。
『わっ! もう日付変わっちゃったね。そろそろわたしは寝るね』
「わかった。長電話になり、すまなかった」
『そんな! 全然気にしないで。むしろ嬉しかった』
「そうなのか?」
『神楽小路くんからこうして電話もらえる日が来るなんて思ってもなかったもん。嬉しいサプライズだったよ。また電話でもお話ししようね』
「わかった。……おやすみ」
『おやすみなさい』
終話ボタンを押してから、神楽小路はベッドに仰向けになるように倒れた。
最後まで、神楽小路は創作について行き詰まりを感じているということを彼女に話せなかった。
(俺のことをこんなにも「おもしろい」だ、「一緒にいて楽しい」だと言ってくれる稀有な存在に暗い話をしたら、俺はまた一人になるだろうな)
いつしか神楽小路は一人になることが怖くなってきていた。佐野をはじめ、駿河や桂と話し、ともに勉強する日々がかけがえないものとなっていた。
(かといって、小説を書くということはいつだって一人でやらねばならんことだ。それに、今まで俺は一人でやってきたのだ。出来なくなるはずはないし、解決策は自分の中にあるはずだ)
そう言い聞かせて、この話題だけは出さなかった。佐野に伝えたところできっと彼のことをバカにしない。むしろ親身になって聞いてくれるだろう。彼は頭の片隅でわかっているのだ。しかし、言えない。嫌われるのが怖い。もしかしたら、優しいからこそ、神楽小路の悩みを真正面から受け止めて、彼女まで闇に飲み込まれてしまうかもしれない。巻き込みたくない。そう思ったのだった。
興奮状態で机に向かう。「ハッ」とアイデアが浮かべば、その辺にあるノートやメモに走り書きをする。ただ、やはり物語として動かない。
「ダメだ」
目を閉じ、針穴に糸の先をなんとか入れるような思いで先に進む言葉であったり、主軸となる人物像をひねりだそうとする。表情がついていた登場人物の顔は再び色をなくしていく。
一度原稿から離れようとスマホを見ると、佐野からメッセージが来ていた。
『大学生になって二冊目の食べた物ノートだよ』
添付されていたのは、無地の赤いノート。「いいんじゃないか」と返信するため、入力欄をタップして、やめる。送信時間は五分前。神楽小路は通話ボタンを押してみた。
すぐに、
『も、もしもし?』
佐野の慌てた声が聞こえてくる。
「神楽小路だが。今通話出来るか」
『うん、大丈夫だよ。なにかあったの?』
「いや、なんとなくお前と話したくなった」
『ほんと!?嬉しいな! 話題は?』
「何も話題はない」
『えっ、えー!?』
「何か話してくれ」
『そんな投げやりな……えっと……そういえば、来月末の土日は喜志芸祭だね』
「喜志芸祭?」
『簡単に言うと文化祭だよ。サークルの人たちがやる模擬店もあるし、音楽ライブや映画やお芝居の上映もあるみたい』
「ほぉ」
『でも私が一番気になるのは、探検部のスモークチキンかな。とてもおいしいらしくて、毎年すごい人が並ぶくらいなんだって』
「よく知っているな」
『去年、高校時代の友達が喜志芸祭行って教えてくれたんだ。だから、絶対食べたいなぁって思ってるの』
「そういうことか」
『で、その、神楽小路くん……今から予定押さえたら一緒に喜志芸祭行ける?』
「佐野真綾、答える前に一ついいか?」
『うん、どうしたの?』
「そんなに楽しみにしている喜志芸祭、一緒に行くのが俺でいいのか?」
『えっ』
「桂や駿河、お前には他にたくさん友人がいるだろう。それなのに」
『一番に誘いたかったのは神楽小路くんだったから』
神楽小路の言葉を遮るように佐野は答える。
『やっぱり神楽小路くんおもしろいもん。そばにいれてわたしは毎日とても楽しいよ。それに神楽小路くん、文化祭とか参加したことないって前に言ってたでしょ? だから、案内も兼ねて一緒に行けたらきっと楽しいだろうなぁって思ったの。……どうかな?』
佐野の言葉に神楽小路は胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「わかった、予定は空けておく」
『ありがとう! 楽しみにしてるね』
「ああ」
そのあと、少しだけ、今日食べたご飯の話や、授業についての話をした。
『わっ! もう日付変わっちゃったね。そろそろわたしは寝るね』
「わかった。長電話になり、すまなかった」
『そんな! 全然気にしないで。むしろ嬉しかった』
「そうなのか?」
『神楽小路くんからこうして電話もらえる日が来るなんて思ってもなかったもん。嬉しいサプライズだったよ。また電話でもお話ししようね』
「わかった。……おやすみ」
『おやすみなさい』
終話ボタンを押してから、神楽小路はベッドに仰向けになるように倒れた。
最後まで、神楽小路は創作について行き詰まりを感じているということを彼女に話せなかった。
(俺のことをこんなにも「おもしろい」だ、「一緒にいて楽しい」だと言ってくれる稀有な存在に暗い話をしたら、俺はまた一人になるだろうな)
いつしか神楽小路は一人になることが怖くなってきていた。佐野をはじめ、駿河や桂と話し、ともに勉強する日々がかけがえないものとなっていた。
(かといって、小説を書くということはいつだって一人でやらねばならんことだ。それに、今まで俺は一人でやってきたのだ。出来なくなるはずはないし、解決策は自分の中にあるはずだ)
そう言い聞かせて、この話題だけは出さなかった。佐野に伝えたところできっと彼のことをバカにしない。むしろ親身になって聞いてくれるだろう。彼は頭の片隅でわかっているのだ。しかし、言えない。嫌われるのが怖い。もしかしたら、優しいからこそ、神楽小路の悩みを真正面から受け止めて、彼女まで闇に飲み込まれてしまうかもしれない。巻き込みたくない。そう思ったのだった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
来野∋31
gaction9969
ライト文芸
いまの僕は、ほんとの僕じゃあないんだッ!!(ほんとだった
何をやっても冴えない中学二年男子、来野アシタカは、双子の妹アスナとの離れる格差と近づく距離感に悩むお年頃。そんなある日、横断歩道にて車に突っ込まれた正にのその瞬間、自分の脳内のインナースペースに何故か引き込まれてしまうのでした。
そこは自分とそっくりの姿かたちをした人格たちが三十一もの頭数でいる不可思議な空間……日替わりで移行していくという摩訶不思議な多重人格たちに、有無を言わさず担ぎ上げられたその日の主人格こと「来野サーティーン」は、ひとまず友好的な八人を統合し、ひとりひとつずつ与えられた能力を発動させて現実での危機を乗り越えるものの、しかしてそれは自分の内での人格覇権を得るための闘いの幕開けに過ぎないのでした……
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日
*『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11,11/15,11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
神様のボートの上で
shiori
ライト文芸
”私の身体をあなたに託しました。あなたの思うように好きに生きてください”
(紹介文)
男子生徒から女生徒に入れ替わった男と、女生徒から猫に入れ替わった二人が中心に繰り広げるちょっと刺激的なサスペンス&ラブロマンス!
(あらすじ)
ごく平凡な男子学生である新島俊貴はとある昼休みに女子生徒とぶつかって身体が入れ替わってしまう
ぶつかった女子生徒、進藤ちづるに入れ替わってしまった新島俊貴は夢にまで見た女性の身体になり替わりつつも、次々と事件に巻き込まれていく
進藤ちづるの親友である”佐伯裕子”
クラス委員長の”山口未明”
クラスメイトであり新聞部に所属する”秋葉士郎”
自分の正体を隠しながら進藤ちづるに成り代わって彼らと慌ただしい日々を過ごしていく新島俊貴は本当の自分の机に進藤ちづるからと思われるメッセージを発見する。
そこには”私の身体をあなたに託しました。どうかあなたの思うように好きに生きてください”と書かれていた
”この入れ替わりは彼女が自発的に行ったこと?”
”だとすればその目的とは一体何なのか?”
多くの謎に頭を悩ませる新島俊貴の元に一匹の猫がやってくる、言葉をしゃべる摩訶不思議な猫、その正体はなんと自分と入れ替わったはずの進藤ちづるだった
演じる家族
ことは
ライト文芸
永野未来(ながのみらい)、14歳。
大好きだったおばあちゃんが突然、いや、徐々に消えていった。
だが、彼女は甦った。
未来の双子の姉、春子として。
未来には、おばあちゃんがいない。
それが永野家の、ルールだ。
【表紙イラスト】ノーコピーライトガール様からお借りしました。
https://fromtheasia.com/illustration/nocopyrightgirl
雨音
宮ノ上りよ
ライト文芸
夫を亡くし息子とふたり肩を寄せ合って生きていた祐子を日々支え力づけてくれたのは、息子と同い年の隣家の一人娘とその父・宏の存在だった。子ども達の成長と共に親ふたりの関係も少しずつ変化して、そして…。
※時代設定は1980年代後半~90年代後半(最終のエピソードのみ2010年代)です。現代と異なる点が多々あります。(学校週六日制等)
どん底韋駄天這い上がれ! ー立教大学軌跡の四年間ー
七部(ななべ)
ライト文芸
高校駅伝の古豪、大阪府清風高校の三年生、横浜 快斗(よこはま かいと)は最終七区で五位入賞。いい結果、古豪の完全復活と思ったが一位からの五人落ち。眼から涙が溢れ出る。
しばらく意識が無いような状態が続いたが、大学駅伝の推薦で選ばれたのは立教大学…!
これは快斗の東京、立教大学ライフを描いたスポーツ小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる