上 下
17 / 37
七夕週間

第十七話 七夕週間3

しおりを挟む
 食堂を出ると、みな、廊下の全面張りの窓から外を見ていた。大きな雨粒が窓を叩く。
「えー! 雨降ってきたの……。予想だったら雨は降らないって言ってたのに」
 そう言いながら二人で階段を降り、出入り口へ向かう。学生たちが服や肌についた水を払ったり、止むのを待っている学生もいて混雑している。
「雨おさまるの待ってたらさすがに遅刻しちゃうね。どうしよ……」
「佐野真綾、次の授業はどこだ」
「八号館だよ」
「俺も八号館だ。一緒に傘に入れ」
 神楽小路は黒の折り畳み傘を取り出す。
「いいの?」
「かまわん」
 傘の中に申し訳なさそうに佐野はうつむき、傘に入った。そんなに大きい傘ではないのもあり、彼女の体半分以上が外に出てしまう。
「もう少し中に入れ」
「それだと神楽小路くんが濡れちゃうから」
 神楽小路はためらう佐野の肩を持って、ぐっと体を引き寄せた。佐野は少しよろめき、神楽小路の服の裾を掴む。
「俺のことは気にしなくていい」
「あ……ありがとう」
 香水なのか、整髪剤なのか、甘い菓子のような匂いが香り、触れている部分に彼女の熱がゆっくりと伝わる。浴衣姿を見た時に似た、胸のざわめき。
(俺は何に動揺している? 横にいるのは佐野真綾だ。少しいつもより距離が近いだけではないか)
 佐野を見る。三日月のようなカーブを描き上向く長い睫毛。ふっくらとした唇に丁寧に置かれた紅。思っていたよりも細い二の腕、柔らかな感触。まじまじと見れば見るほど、鼓動が早くなる。神楽小路は首を小さく振って、視線を外した。

 普段なら一分もかからず移動できる距離だが、佐野の歩幅に合わせると、到着まで時間を要した。
「あ、肩が濡れちゃってる」
 佐野は神楽小路に持ってもらっていたリュックのポケットから小さいタオルを取り出すと神楽小路の肩に優しく押しつける。
「たいしたことはない」
 佐野と視線が合うも、神楽小路はスッと逸らした。さっきの感触や熱がまだ残っていて、顔を見るのは恥ずかしさがあった。
「お前は三限からこのまま八号館か?」
「うん。四限までここだよ」
「俺と同じ流れか。では、四限が終わったらここで落ち合おう。雨がまだ降っているようならまた傘に入ればいい」
「うん、わかった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

社長室の蜜月

ゆる
恋愛
内容紹介: 若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。 一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。 仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

【9】やりなおしの歌【完結】

ホズミロザスケ
ライト文芸
雑貨店で店長として働く木村は、ある日道案内した男性から、お礼として「黄色いフリージア」というバンドのライブチケットをもらう。 そのステージで、かつて思いを寄せていた同級生・金田(通称・ダダ)の姿を見つける。 終演後の楽屋で再会を果たすも、その後連絡を取り合うこともなく、それで終わりだと思っていた。しかし、突然、金田が勤務先に現れ……。 「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ9作目。(登場する人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。 ※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。

【4】ハッピーエンドを超えてゆけ【完結】

ホズミロザスケ
ライト文芸
大学一回生の佐野真綾(さの まあや)には、神楽小路君彦(かぐらこうじ きみひこ)という大切な恋人が出来たばかり。 大学祭、初デート、ファーストキス……一作目『胃の中の君彦』内でハッピーエンドを迎えた二人が歩む、その先の物語。 「いずれ、キミに繋がる物語」シリーズ四作目(メインの登場人物が共通しています)。単品でも問題なく読んでいただけます。 ※当作品は「カクヨム」「小説家になろう」にも同時掲載しております。(過去に「エブリスタ」にも掲載)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...