上 下
3 / 10

3.

しおりを挟む
「これも随分おいしいお酒だね。」

 ヴィレムは元々お酒が強い。今日はいつにもましてハイペースでグラスを開けていっている。エレインとの喧嘩が少し堪えているのかもしれない。

「ヴィレム様、今日は随分お酒が進むようですね」
「あぁ、今日は思い切り飲みたい気分だよ。僕もエレインとこの別荘で過ごすのを楽しみにしていたんだ。二人ゆっくりで過ごせるのは久しぶりだったしね。それなのにここに来て早々怒らせてしまって……。せっかく君たちもいるというのに」

 ヴィレムは大きなため息をついた。

「何が原因だったのですか?」
「原因はわからないんだ。突然、機嫌が悪くなってしまって」
「でしたら、きっと明日になれば元通りですわ。エリオット様に原因を聞きましょう」
「そうだね……。本当に自分が情けないよ」

 リディアは落ち込んでいるヴィレムを見てどうにかしてあげたいと思った。けれど、リディアはどう慰めれば良いかわからない。エレインを思うヴィレムを見て、リディアは二人の様子を見に行くことを思いついた。

「ヴィレム様、二人の様子を見に行きませんか? 二人も食事が中途半端な状態で終わりましたし、何か軽く食べられるものを持って。話しかけられる状態でなければそのまま戻ってくれば良いではありませんか」
「そう、だね」

 ヴィレムは弱々しく答える。

「エリオット様が上手くエレイン様の機嫌を直しているかもしれませんし。せっかくなら四人で飲んだ方が良いですよね」
「……わかった。様子を見に行こう」

 リディア達は二人の様子を見に行くことにした。


***
 リディア達はエリオット達がいる部屋の前までやってきた。この部屋に二人はいるはずである。

「話しかけられる状態かどうかを確かめてから改めて声をかけましょう」
「そうだね。まずは僕がそっとドアを開けて様子をみてみるよ」
「お願いします」

 ヴィレムはエリオット達に気がつかれないようにドアをそっと開け、中の様子を窺う。
 部屋の様子を確認したヴィレムが固まった。顔色も良くない。リディアはヴィレムのただならぬ様子に嫌な予感がした。
 どうかしたのかと不思議に思ったリディアもヴィレムの側に近寄る。部屋の中からはエレインの艶めかしい声やエリオットの激しい息づかいが聞こえてくる。
(まさか、ね……)
リディアはなんとも言えない不安に駆られ部屋の中を覗こうとした。

「見ない方が良い」

 強張ったヴィレムの声。それでもリディアは二人が何をしているのか知りたかった。自分の思ったことが間違いであることを祈り、恐る恐る部屋の中を覗く。
 信じられないことに部屋の中の二人は行為の最中だった。リディアの目の前が真っ暗になる。
(……これはどういうことなの? どうして二人が?)
 激しく愛し合う二人の様子は昨日今日の仲ではないように見えた。
(わたしとは何もしていないのに……)


 エリオット達はリディア達の存在に気がつかないまま会話を始めた。

「エレイン、ヴィレムとはしてないんだろうな」
「もちろんよ。この別荘に来るまでは我慢するように言ったわ。ちゃんとわたし達の子供だって証明できるように、でしょう? エリオットこそ信じて良いのよね?」
「あぁ。これまで子供はできなかったんだ。リディアには子供は出来ないだろうが念のために、な。エレインに子供が出来てもリディアとの間に先に子供が出来ていては困る」
「お父様達に認めてもらうためにも早く子供が欲しいわ」
「そうだな。僕も早く欲しい。リディアとの間に子供が出来なかったのは幸運だったな。それにしても、エレインは本当に芝居が上手だよ」
「あら、そんなことないわ。ヴィレムにイラッとするところがあるのは本当だもの。二人きりになるためならこれくらい何でもないわ。ねぇ、ここにいる間、ずっとあなたとこうしていたい」
「僕もだよ。できるだけ二人の時間をつくろう」

 二人の会話はリディアだけでなく、ヴィレムにとってもショックな内容だった。二人の会話はもう頭の中に入ってこない。
(子作りを中断しようと言ったのも、この別荘に四人で来ようと言ったのも全部このためだんだ……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目覚めた五年後の世界では、私を憎んでいた護衛騎士が王になっていました

束原ミヤコ
恋愛
レフィーナ・レイドリックは、レイドリック公爵家に生まれた。 レイドリック公爵家は、人を人とも思わない、奴隷を買うことが当たり前だと思っているおそろしい選民思想に支配された家だった。 厳しくしつけられたレフィーナにも、やがて奴隷が与えられる。 言葉も話せない奴隷の少年に、レフィーナはシグナスと名付けて、家族のように扱った。 けれどそれが公爵に知られて、激しい叱責を受ける。 レフィーナはシグナスを奴隷として扱うようになり、シグナスはレフィーナを憎んだ。 やがてレフィーナは、王太子の婚約者になる。 だが、聖女と王太子のもくろみにより、クリスタルの人柱へと捧げられることになる。 それは、生きることも死ぬことも許されない神の贄。 ただ祈り続けることしかできない、牢獄だった。 レフィーナはそれでもいいと思う。 シグナスはレフィーナの元を去ってしまった。 もう、私にはなにもないのだと。

もふもふ大好き家族が聖女召喚に巻き込まれる~時空神様からの気まぐれギフト スキル『ルーム』で家族と愛犬守ります~

鐘ケ江 しのぶ
ファンタジー
 第15回ファンタジー大賞、奨励賞頂きました。  投票していただいた皆さん、ありがとうございます。  励みになりましたので、感想欄は受け付けのままにします。基本的には返信しませんので、ご了承ください。 「あんたいいかげんにせんねっ」  異世界にある大国ディレナスの王子が聖女召喚を行った。呼ばれたのは聖女の称号をもつ華憐と、派手な母親と、華憐の弟と妹。テンプレートのように巻き込まれたのは、聖女華憐に散々迷惑をかけられてきた、水澤一家。  ディレナスの大臣の1人が申し訳ないからと、世話をしてくれるが、絶対にあの華憐が何かやらかすに決まっている。一番の被害者である水澤家長女優衣には、新種のスキルが異世界転移特典のようにあった。『ルーム』だ。  一緒に巻き込まれた両親と弟にもそれぞれスキルがあるが、優衣のスキルだけ異質に思えた。だが、当人はこれでどうにかして、家族と溺愛している愛犬花を守れないかと思う。  まずは、聖女となった華憐から逃げることだ。  聖女召喚に巻き込まれた4人家族+愛犬の、のんびりで、もふもふな生活のつもりが……………    ゆるっと設定、方言がちらほら出ますので、読みにくい解釈しにくい箇所があるかと思いますが、ご了承頂けたら幸いです。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。

恋愛
 男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。  実家を出てやっと手に入れた静かな日々。  そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。 ※このお話は極端なざまぁは無いです。 ※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。 ※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。 ※SSから短編になりました。

処理中です...