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悪役令嬢?
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わたしは図書室でひとり参考書とにらめっこしていた。テストが近い。学園ではお友達とわからないところを教えあったり楽しく勉強するものだと思っていた。けれど現実は完全にぼっちである……。
声をかけられたと思ったら必ずと言って良いほど殿下がらみ。基本は嫌みで、昼食に誘われたと思って喜んだら殿下を交えてのお誘いで、それは殿下たちに却下される。
この参考書だって購入できるものなので、わざわざ図書室にくる人間はほぼいない。貸し出し不可の本のため購入するのが当たり前だけれど、わたしは節約のため購入できないでいた。
図書室にいって必要なページを書き写すか、頭にたたき込むしかない。
「あら、あなたはクレア様? 殿下のお気に入りと噂の」
突然声をかけられ振り向くとそこには意外な人物がいた。
「ア、アシュレイ様。殿下のお気に入りかどうかはわかりませんが、クレアです」
「まぁ、わたくしのことをご存じなの?」
「えぇ、それはもちろん。アシュレイ様は学園内でも有名な方ではありませんか。美しい容姿に漂う気品。優雅な所作はもう理想のお姫様です。学業だって完璧で……いや、学業だけじゃなくすべてにおいて完璧といいますか……。誰にでも優しく、いろんな方から頼りにされていますよね」
そう、わたしはひそかにアシュレイ様にあこがれている。これを一目惚れというのかもしれない。初めてみたときに勝手に運命を感じてしまったのだ。遠い存在だと思っていた憧れの人に声をかけられて天にも昇る気持ちだ。
思わず勢いでアシュレイ様への賛辞を並べ立ててしまった。それにしてもお忙しい方なのにこんな時期に図書室に現れるなんて! 今日は最高についている。
「そ、そう」
「すみません。憧れの方に声をかけていただいて浮かれてしまいました」
「あ、あこがれ?」
「えぇ。アシュレイ様はとてもお忙しいと聞きます。お城でも殿下の婚約者としてのお勉強があるのですよね。すでに殿下を手伝ってお仕事もされているとか。それなのに成績は常にトップ。この学園には優秀な人はたくさんいるのに……。それに、いろんな人に親切にしているところをお見かけしました。憧れない人はいません」
はぁ……。アシュレイ様と言葉を交わせるなんて……。わたしは思わずうっとりしているとアシュレイ様は疑問を投げかけてきた。
「そ、そう。ところであなたはこんなところで何をしているの?」
「わたしはテスト勉強に……。参考書が貸し出し不可の本なので……」
「購入していないの?」
「わたしの家はお恥ずかしながらあまり余裕がなくて……。家族は気にせずに本を買えというのですが、やっぱりもったいなくて。ここに来れば読めますし、そのお金は領地のために使って欲しいので」
「まぁ、大変なのね……」
そういってアシュレイ様はわたしが読んでいた参考書を手に取った。
「これでしたら、もう使わないものがありますから差し上げますわ」
「え、悪いです……」
やっぱりアシュレイ様は女神のような方だ。初めて言葉を交わしたような人間にまで高価な本をくれようとするなんて……。
遠慮するわたしの言葉をアシュレイ様は遮った。
「でも、あなたは特待生なのでしょう? 優秀な成績を要求されているのではなくて?」
「はい……」
わたしのことを認識してくれているなんて嬉しすぎる……。特待生のことを気にかけてくれるなんてさすがはアシュレイ様。
「でしたら遠慮は不要ですわ。この学園から優秀な学生がでることは喜ばしいことじゃない」
「女神様がここにいる……」
「大げさですわ。本を差し上げるくらいで……」
それからアシュレイ様はわたしに何冊も本をくれ、勉強も教えてくれた。ほんとうに素敵な人だ。わたしもアシュレイ様のようになれたらいいのに……。絶対に無理だけど。
アシュレイ様にお礼がしたい。けれど、わたしがアシュレイ様にできるお礼なんてそうそうない。殿下やアッシュ様が褒めてくれる料理くらいだろうか。でも料理だなんて笑われてしまうかもしれない。
いや、当たって砕けよう。二人の言葉を信じてわたしはお礼にお菓子を焼いた。
ちょっと気合いを入れすぎてしまったかもしれない。好みがわからなかったのでいろいろなものを焼いてしまった。クッキーだけで四種類、マドレーヌも四種類。喜んでくれるだろうか。
「アシュレイ様、いつもありがとうございます。今日はお礼にお菓子をお持ちしたんです。よろしければ食べていただけませんか?」
「お菓子? まぁ。わたくし、甘い物に目がないの」
「ほんとうですか? よかったです。ではこちらを」
わたしはアシュレイ様の前に焼き菓子を広げた。アシュレイ様の表情がぱぁっと明るくなる。
えっ、アシュレイ様かわいいんですけど……。
「クッキーとマドレーヌを用意いたしました。クッキーは普通に型抜きしたもの、ラングドシャ、ドロップクッキー、アイスボックスクッキーを。マドレーヌはプレーン、紅茶、チョコ、レモンを用意しております。お口に合う物があればいいのですが……」
「まぁ、こんなに? どれもおいしそう。どれから食べようか迷ってしまうわ」
目の前のアシュレイ様はキラキラと目を輝かせ、真剣に悩んでいる。はぁ、ほんとうにかわいい。
本当に甘いものが好きだったらしい。どれもおいしそうに食べてくれる。
「どれもとてもおいしいわ。わたくしは特にこのレモンの風味のマドレーヌが好きだわ」
レモンが好きって殿下と同じなのね。本当にお似合いの二人だわ。
「ほんとうですか? わたしもこれが特にお気に入りなんです」
「まぁ、わたくしたち気が合うわね。わたくしもぜひ買いにいきたいのだけどどちらのお店なのかしら?」
正直に言うべきだろうか。いや嘘はつけない。一瞬迷ったが喜んでいるアシュレイ様をみると自分が作ったと名乗ってしまいたくなってしまった。
「お店では売ってないんです」
「では、あなたの専属料理人が?」
「いえ、わたしの家にはそのような余裕はなく……。これはわたしがつくりました」
アシュレイ様の顔色が変わる。やっぱりわたしのような人間がつくったものなど不快だったのだろうか。言わなければよかった……。
「これをあなたが?」
「……はい」
「あなた、すばらしい才能をお持ちなのね! とてもおいしいわ」
「えっ?」
「これだけ用意するのは大変だったでしょう? こんなに種類があるからてっきりどこかのお店で購入したか、専門の人間が作ったと思いましたの。しかも味もすばらしいわ……」
「ほんとうですか? 喜んでいただけて嬉しいです!」
「……あなたは勉強に必要な本を買うのもためらうくらいなのよね。こんなに用意するのは負担だったんじゃないかしら」
アシュレイ様の顔が曇ってしまった。すぐにわたしの経済状況まで気にしてくださるなんて本当にお優しい……。
「いえ、大丈夫です。お気になさらないでください。実はアッシュ様が材料費と言って十分なお金を渡してくれるんです。デザートも用意するので材料は普通にあったものなんですよ」
「まさか、あなたが殿下とよく昼食を一緒にしているというのは……」
「はい。単純にわたしの料理が目当てなだけです。食堂の食事があまり口に合わないようでわたしの作った平凡な食事が食べたくなるらしいです」
「そうでしたの……」
「すみません。婚約者の方からすると不快ですよね。ですが、食欲がなくて困っている殿下を前にするとお断りするのもできなくて……」
「それはそうでしょう。少々わがままなところがある方ですものね」
「そんなこと言って大丈夫ですか?」
「えぇ、問題ありませんわ。わたくしたち、幼なじみですもの」
ちょっといたずらっぽい笑顔を浮かべるアシュレイ様も素敵だ。
はぁ、どうして殿下はもっとアシュレイ様との時間を作らないのかしら。こんなに魅力的な方なのに。学園の外で十分に会っているから学園内ではお互いの時間を大切にしようということ?
わたしだったらこんな素敵な人に変な虫がつかないようにべったりしちゃいそうだけど。おかげでお忙しいはずのアシュレイ様との時間を楽しめているのから殿下に感謝よね。
でも、殿下の婚約者に手を出すような人間なんていないか……。
「きっとわたしが料理していることを知られないように気を遣って他の方をお誘いできないんだと思います」
「そうなのかしら?」
アシュレイ様は少し考えていたがすぐに「もっと楽しいお話をしましょう」と話題を変えてきた。夢のような楽しい時間が続く。これはもうアシュレイ様をお友達になれたと思っていいのかしら。
想像していた学園生活ではないけれど、わたしは充実した生活を送っていた。
声をかけられたと思ったら必ずと言って良いほど殿下がらみ。基本は嫌みで、昼食に誘われたと思って喜んだら殿下を交えてのお誘いで、それは殿下たちに却下される。
この参考書だって購入できるものなので、わざわざ図書室にくる人間はほぼいない。貸し出し不可の本のため購入するのが当たり前だけれど、わたしは節約のため購入できないでいた。
図書室にいって必要なページを書き写すか、頭にたたき込むしかない。
「あら、あなたはクレア様? 殿下のお気に入りと噂の」
突然声をかけられ振り向くとそこには意外な人物がいた。
「ア、アシュレイ様。殿下のお気に入りかどうかはわかりませんが、クレアです」
「まぁ、わたくしのことをご存じなの?」
「えぇ、それはもちろん。アシュレイ様は学園内でも有名な方ではありませんか。美しい容姿に漂う気品。優雅な所作はもう理想のお姫様です。学業だって完璧で……いや、学業だけじゃなくすべてにおいて完璧といいますか……。誰にでも優しく、いろんな方から頼りにされていますよね」
そう、わたしはひそかにアシュレイ様にあこがれている。これを一目惚れというのかもしれない。初めてみたときに勝手に運命を感じてしまったのだ。遠い存在だと思っていた憧れの人に声をかけられて天にも昇る気持ちだ。
思わず勢いでアシュレイ様への賛辞を並べ立ててしまった。それにしてもお忙しい方なのにこんな時期に図書室に現れるなんて! 今日は最高についている。
「そ、そう」
「すみません。憧れの方に声をかけていただいて浮かれてしまいました」
「あ、あこがれ?」
「えぇ。アシュレイ様はとてもお忙しいと聞きます。お城でも殿下の婚約者としてのお勉強があるのですよね。すでに殿下を手伝ってお仕事もされているとか。それなのに成績は常にトップ。この学園には優秀な人はたくさんいるのに……。それに、いろんな人に親切にしているところをお見かけしました。憧れない人はいません」
はぁ……。アシュレイ様と言葉を交わせるなんて……。わたしは思わずうっとりしているとアシュレイ様は疑問を投げかけてきた。
「そ、そう。ところであなたはこんなところで何をしているの?」
「わたしはテスト勉強に……。参考書が貸し出し不可の本なので……」
「購入していないの?」
「わたしの家はお恥ずかしながらあまり余裕がなくて……。家族は気にせずに本を買えというのですが、やっぱりもったいなくて。ここに来れば読めますし、そのお金は領地のために使って欲しいので」
「まぁ、大変なのね……」
そういってアシュレイ様はわたしが読んでいた参考書を手に取った。
「これでしたら、もう使わないものがありますから差し上げますわ」
「え、悪いです……」
やっぱりアシュレイ様は女神のような方だ。初めて言葉を交わしたような人間にまで高価な本をくれようとするなんて……。
遠慮するわたしの言葉をアシュレイ様は遮った。
「でも、あなたは特待生なのでしょう? 優秀な成績を要求されているのではなくて?」
「はい……」
わたしのことを認識してくれているなんて嬉しすぎる……。特待生のことを気にかけてくれるなんてさすがはアシュレイ様。
「でしたら遠慮は不要ですわ。この学園から優秀な学生がでることは喜ばしいことじゃない」
「女神様がここにいる……」
「大げさですわ。本を差し上げるくらいで……」
それからアシュレイ様はわたしに何冊も本をくれ、勉強も教えてくれた。ほんとうに素敵な人だ。わたしもアシュレイ様のようになれたらいいのに……。絶対に無理だけど。
アシュレイ様にお礼がしたい。けれど、わたしがアシュレイ様にできるお礼なんてそうそうない。殿下やアッシュ様が褒めてくれる料理くらいだろうか。でも料理だなんて笑われてしまうかもしれない。
いや、当たって砕けよう。二人の言葉を信じてわたしはお礼にお菓子を焼いた。
ちょっと気合いを入れすぎてしまったかもしれない。好みがわからなかったのでいろいろなものを焼いてしまった。クッキーだけで四種類、マドレーヌも四種類。喜んでくれるだろうか。
「アシュレイ様、いつもありがとうございます。今日はお礼にお菓子をお持ちしたんです。よろしければ食べていただけませんか?」
「お菓子? まぁ。わたくし、甘い物に目がないの」
「ほんとうですか? よかったです。ではこちらを」
わたしはアシュレイ様の前に焼き菓子を広げた。アシュレイ様の表情がぱぁっと明るくなる。
えっ、アシュレイ様かわいいんですけど……。
「クッキーとマドレーヌを用意いたしました。クッキーは普通に型抜きしたもの、ラングドシャ、ドロップクッキー、アイスボックスクッキーを。マドレーヌはプレーン、紅茶、チョコ、レモンを用意しております。お口に合う物があればいいのですが……」
「まぁ、こんなに? どれもおいしそう。どれから食べようか迷ってしまうわ」
目の前のアシュレイ様はキラキラと目を輝かせ、真剣に悩んでいる。はぁ、ほんとうにかわいい。
本当に甘いものが好きだったらしい。どれもおいしそうに食べてくれる。
「どれもとてもおいしいわ。わたくしは特にこのレモンの風味のマドレーヌが好きだわ」
レモンが好きって殿下と同じなのね。本当にお似合いの二人だわ。
「ほんとうですか? わたしもこれが特にお気に入りなんです」
「まぁ、わたくしたち気が合うわね。わたくしもぜひ買いにいきたいのだけどどちらのお店なのかしら?」
正直に言うべきだろうか。いや嘘はつけない。一瞬迷ったが喜んでいるアシュレイ様をみると自分が作ったと名乗ってしまいたくなってしまった。
「お店では売ってないんです」
「では、あなたの専属料理人が?」
「いえ、わたしの家にはそのような余裕はなく……。これはわたしがつくりました」
アシュレイ様の顔色が変わる。やっぱりわたしのような人間がつくったものなど不快だったのだろうか。言わなければよかった……。
「これをあなたが?」
「……はい」
「あなた、すばらしい才能をお持ちなのね! とてもおいしいわ」
「えっ?」
「これだけ用意するのは大変だったでしょう? こんなに種類があるからてっきりどこかのお店で購入したか、専門の人間が作ったと思いましたの。しかも味もすばらしいわ……」
「ほんとうですか? 喜んでいただけて嬉しいです!」
「……あなたは勉強に必要な本を買うのもためらうくらいなのよね。こんなに用意するのは負担だったんじゃないかしら」
アシュレイ様の顔が曇ってしまった。すぐにわたしの経済状況まで気にしてくださるなんて本当にお優しい……。
「いえ、大丈夫です。お気になさらないでください。実はアッシュ様が材料費と言って十分なお金を渡してくれるんです。デザートも用意するので材料は普通にあったものなんですよ」
「まさか、あなたが殿下とよく昼食を一緒にしているというのは……」
「はい。単純にわたしの料理が目当てなだけです。食堂の食事があまり口に合わないようでわたしの作った平凡な食事が食べたくなるらしいです」
「そうでしたの……」
「すみません。婚約者の方からすると不快ですよね。ですが、食欲がなくて困っている殿下を前にするとお断りするのもできなくて……」
「それはそうでしょう。少々わがままなところがある方ですものね」
「そんなこと言って大丈夫ですか?」
「えぇ、問題ありませんわ。わたくしたち、幼なじみですもの」
ちょっといたずらっぽい笑顔を浮かべるアシュレイ様も素敵だ。
はぁ、どうして殿下はもっとアシュレイ様との時間を作らないのかしら。こんなに魅力的な方なのに。学園の外で十分に会っているから学園内ではお互いの時間を大切にしようということ?
わたしだったらこんな素敵な人に変な虫がつかないようにべったりしちゃいそうだけど。おかげでお忙しいはずのアシュレイ様との時間を楽しめているのから殿下に感謝よね。
でも、殿下の婚約者に手を出すような人間なんていないか……。
「きっとわたしが料理していることを知られないように気を遣って他の方をお誘いできないんだと思います」
「そうなのかしら?」
アシュレイ様は少し考えていたがすぐに「もっと楽しいお話をしましょう」と話題を変えてきた。夢のような楽しい時間が続く。これはもうアシュレイ様をお友達になれたと思っていいのかしら。
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