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運命の出会い? -前編-
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今日は学園の入学式。わたしみたいな貧乏伯爵家の娘がこんな名門の学園に通えるなんて……。本当に夢みたいだわ。
この学園は名門中の名門であり、貴族も平民も通っている。ただ、名門だけに授業料は高く、貴族だからといって通えるようなところではない。貴族と平民はクラスが分かれており、基本的に接点はなく、授業料も違う。平民でもちょっと裕福な家であったり、特別優秀であったりすればば通えるらしい。
本来ならばわたしの家のように貴族でも貧乏な家は通えないが、特待生として選ばれたため入学することができた。それでも領地を離れて通うのはそれなりに負担がある。あまり領地を離れたくはなかったが、周囲の勧めもあり入学することにした。
午前中に入学式や説明はひととおり終わった。本来ならば今日はもう帰ってもいいのだが、わたしはお弁当を持参してきている。今日のうちにゆっくりと校内を見学しておきたいからだ。
ほんとうなら友人ができれば一緒にお弁当でも、と思ったが上手くいかなかった。知り合い同士が多いようで、うまく話の輪に入れなかったのだ。
いや、まだ初日。明日から授業も始まるし、きっと気の合うお友達ができるはず!
そう自分に言い訳をしながらまずは昼食をとるのによさそうな場所を探す。天気が良いので外で食べられそうだ。
さすが、名門学園。しっかりと手入れされた庭だわ。どこかで花や野菜を育てられるようなところがあると良いのだけれど……。
そうやって歩いていると気分が悪そうな男の人を見かけた。入学式では見かけなかったので上級生なのだと思う。知らない上級生に声をかけるのは気後れしてしまうが、困っている人をほうってはおけない。わたしは迷わず声をかけた。
「どうかされたのですか? 人を呼んできましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
「とても顔色が悪いですよ。あら、腕も怪我をされているのですね」
制服が破れ、血がにじんでいる。なにかに引っかけてしまったようだ。手入れが行き届いていないところがあったのだろうか。いや、今はそんなことはどうでもいい。治療しなくては。
「上着を脱いでください。手当てをします」
「これくらい問題ない」
「よくありません。雑菌が入って大変なことになることもあるのですよ。失礼しますね」
上着が破れるくらいなのだからかなりの力でなにかに引っかけたに違いない。わたしは強引に上着を脱いでもらい、シャツのそでを捲る。わたしはハンカチを取り出し、水をイメージして水を作り出す。傷口を洗いハンカチで優しく水をぬぐった。
「傷が残らないといいのですが……」
わたしは傷がふさがるイメージを浮かべ傷口に手をかざす。淡い光が浮かび、傷がすっと消えていった。上手くいったようだ。
「きみは治癒魔法が使えるのか?」
「えぇ。そこまで上手ではありませんが……。よかった。ちゃんとふさがったみたいです。この学園には魔法が上手くなりたくて入学しました」
この国では治癒魔法の使い手はとても貴重だ。だからこそわたしはこの学園の特待生になれた。魔法が上達すればきっと領地でも役に立つ。
病弱で幼い弟の力になれればとの思いが一番大きかったと思う。それでも離れて暮らすのはつらい。まだ離れてそんなに経っていないけどあの子は元気かしら。
「すまない。ぼんやりしていたら勢いよく枝にひっかけてしまったようだ。ハンカチは新しいものを用意する」
少しだけ血がついてしまったが、これくらいなら綺麗になるはずだ。いや、少しくらいシミになったとしても、目立たないようであればそのまま使う。目立つようであれば染めてしまっても良いし。
「いえ、お気になさらず。それよりもご気分はいかがですか? よろしければこちらのお茶をお飲みください。冷えていて気分がすっきりすると思います」
「い、いや。遠慮するよ」
「もしかして毒などをお疑いですか? そうですよね」
わたしは別のコップを用意し、渡そうとしたコップの中身を少し移した。そのお茶を飲み干し、大丈夫だとアピールした。
「わ、わかった。いただこう」
男の人は遠慮していたようだが、遠慮しても無駄だと思ったようで差し出したコップを受け取るとお茶を口にした。
「ん、うまいな」
「よかったです。わたしの家の特製ハーブティーなんです。よろしければもう少しお飲みください。人は呼ばなくても大丈夫ですか?」
「ありがとう。人は呼ばないでくれ。ただの寝不足で少し気分がすぐれなかっただけだ」
季節的にはもう秋のはずなのに確かにまだ残暑が厳しい。寝苦しいこともあるかもしれない。寝不足であれば体調も悪くなるだろう。
「そうだったんですね。どうしてこんなところへ?」
「食欲もないし、静かなところに行きたくてね」
「寝不足でしたら食堂の食事は少し重たいかもしれませんね。よろしければこちらをお食べになりませんか? 食欲が無くても食べやすいものですよ」
食堂の食事がどんなものかは知らないが、とても豪華だときいている。特待生であるため、食事の補助もでるらしいが元の値段が高いようでそんなに頻繁には行けないと思っていた。
もちろん平民用の食事は安い。けれど、腐っても伯爵令嬢なのに平民用の食事をとれば浮いてしまう。そもそも食堂自体が違うのだ。そこに混ざるのは難しいだろう。
「いや、それは悪い。きみが食べてくれ」
「たくさんあるんです。誰かお友達ができれば一緒に食べたのですけどうまくいかなくて……。なので、正直に言うと余ってしまっていて……。よろしければ食べていただけませんか? 食べられそうなものだけで構いませんから。少しは食べないと身体によくないですよ。ほら、レモンゼリーなんていかがでしょうか? さっぱりしますよ」
「そこまで言うならいただこう」
「ありがとうございます」
「きみが礼を言うのはおかしいだろう」
「そうでしょうか?」
せっかくつくった昼食を無駄にするのはもったいない。
わたしの強引さもあり、わたしたちはすっかりうち解けて和んだ空気になっていた。
この学園は名門中の名門であり、貴族も平民も通っている。ただ、名門だけに授業料は高く、貴族だからといって通えるようなところではない。貴族と平民はクラスが分かれており、基本的に接点はなく、授業料も違う。平民でもちょっと裕福な家であったり、特別優秀であったりすればば通えるらしい。
本来ならばわたしの家のように貴族でも貧乏な家は通えないが、特待生として選ばれたため入学することができた。それでも領地を離れて通うのはそれなりに負担がある。あまり領地を離れたくはなかったが、周囲の勧めもあり入学することにした。
午前中に入学式や説明はひととおり終わった。本来ならば今日はもう帰ってもいいのだが、わたしはお弁当を持参してきている。今日のうちにゆっくりと校内を見学しておきたいからだ。
ほんとうなら友人ができれば一緒にお弁当でも、と思ったが上手くいかなかった。知り合い同士が多いようで、うまく話の輪に入れなかったのだ。
いや、まだ初日。明日から授業も始まるし、きっと気の合うお友達ができるはず!
そう自分に言い訳をしながらまずは昼食をとるのによさそうな場所を探す。天気が良いので外で食べられそうだ。
さすが、名門学園。しっかりと手入れされた庭だわ。どこかで花や野菜を育てられるようなところがあると良いのだけれど……。
そうやって歩いていると気分が悪そうな男の人を見かけた。入学式では見かけなかったので上級生なのだと思う。知らない上級生に声をかけるのは気後れしてしまうが、困っている人をほうってはおけない。わたしは迷わず声をかけた。
「どうかされたのですか? 人を呼んできましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
「とても顔色が悪いですよ。あら、腕も怪我をされているのですね」
制服が破れ、血がにじんでいる。なにかに引っかけてしまったようだ。手入れが行き届いていないところがあったのだろうか。いや、今はそんなことはどうでもいい。治療しなくては。
「上着を脱いでください。手当てをします」
「これくらい問題ない」
「よくありません。雑菌が入って大変なことになることもあるのですよ。失礼しますね」
上着が破れるくらいなのだからかなりの力でなにかに引っかけたに違いない。わたしは強引に上着を脱いでもらい、シャツのそでを捲る。わたしはハンカチを取り出し、水をイメージして水を作り出す。傷口を洗いハンカチで優しく水をぬぐった。
「傷が残らないといいのですが……」
わたしは傷がふさがるイメージを浮かべ傷口に手をかざす。淡い光が浮かび、傷がすっと消えていった。上手くいったようだ。
「きみは治癒魔法が使えるのか?」
「えぇ。そこまで上手ではありませんが……。よかった。ちゃんとふさがったみたいです。この学園には魔法が上手くなりたくて入学しました」
この国では治癒魔法の使い手はとても貴重だ。だからこそわたしはこの学園の特待生になれた。魔法が上達すればきっと領地でも役に立つ。
病弱で幼い弟の力になれればとの思いが一番大きかったと思う。それでも離れて暮らすのはつらい。まだ離れてそんなに経っていないけどあの子は元気かしら。
「すまない。ぼんやりしていたら勢いよく枝にひっかけてしまったようだ。ハンカチは新しいものを用意する」
少しだけ血がついてしまったが、これくらいなら綺麗になるはずだ。いや、少しくらいシミになったとしても、目立たないようであればそのまま使う。目立つようであれば染めてしまっても良いし。
「いえ、お気になさらず。それよりもご気分はいかがですか? よろしければこちらのお茶をお飲みください。冷えていて気分がすっきりすると思います」
「い、いや。遠慮するよ」
「もしかして毒などをお疑いですか? そうですよね」
わたしは別のコップを用意し、渡そうとしたコップの中身を少し移した。そのお茶を飲み干し、大丈夫だとアピールした。
「わ、わかった。いただこう」
男の人は遠慮していたようだが、遠慮しても無駄だと思ったようで差し出したコップを受け取るとお茶を口にした。
「ん、うまいな」
「よかったです。わたしの家の特製ハーブティーなんです。よろしければもう少しお飲みください。人は呼ばなくても大丈夫ですか?」
「ありがとう。人は呼ばないでくれ。ただの寝不足で少し気分がすぐれなかっただけだ」
季節的にはもう秋のはずなのに確かにまだ残暑が厳しい。寝苦しいこともあるかもしれない。寝不足であれば体調も悪くなるだろう。
「そうだったんですね。どうしてこんなところへ?」
「食欲もないし、静かなところに行きたくてね」
「寝不足でしたら食堂の食事は少し重たいかもしれませんね。よろしければこちらをお食べになりませんか? 食欲が無くても食べやすいものですよ」
食堂の食事がどんなものかは知らないが、とても豪華だときいている。特待生であるため、食事の補助もでるらしいが元の値段が高いようでそんなに頻繁には行けないと思っていた。
もちろん平民用の食事は安い。けれど、腐っても伯爵令嬢なのに平民用の食事をとれば浮いてしまう。そもそも食堂自体が違うのだ。そこに混ざるのは難しいだろう。
「いや、それは悪い。きみが食べてくれ」
「たくさんあるんです。誰かお友達ができれば一緒に食べたのですけどうまくいかなくて……。なので、正直に言うと余ってしまっていて……。よろしければ食べていただけませんか? 食べられそうなものだけで構いませんから。少しは食べないと身体によくないですよ。ほら、レモンゼリーなんていかがでしょうか? さっぱりしますよ」
「そこまで言うならいただこう」
「ありがとうございます」
「きみが礼を言うのはおかしいだろう」
「そうでしょうか?」
せっかくつくった昼食を無駄にするのはもったいない。
わたしの強引さもあり、わたしたちはすっかりうち解けて和んだ空気になっていた。
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