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第二章 天使VS魔族VS神VS元人間VS人間

新たな謎

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 カンカンカーン。

 ネジを強く叩く音が魔王城中に響き渡る。どこもかしこも、ゼルビアに壊された部分の修復で手一杯の魔族たち。
 門前で最前線を張っていた第一部隊以外の隊長と副隊長は漏れなく全員医務室で寝たきりで――最後まで粘っていた第三部隊の隊長と副隊長はもう現場に復帰できないだろうと言われている――もう一週間ほど経っており、ミウもあれっきり姿を現すことはなかった。責任を持ってゼルビアを天界へと送り返したようだ。

 一方俺はというと、比較的軽症に半壊した第一部隊を相手に実践形式の訓練を、ゼルビアが去った次の日から行っていた。
 もうゼルビアは天界にいるだろうに、なんの為に訓練をするのか。
 それは前回、ミウの言う通りに魔法を使ってしまったことが理由だ。

 あの魔法――擬似的な神を憑依させる魔法――はいわばものだ。つまり、今この世界には神が二人存在しており、そのうちの片方がミウ。もう片方が本家の神。
 しかしミウはあくまでも偽物なので、本物の神からすると目の敵にされてしまう。例えば俺でさえ、もう一人の俺がいれば殺そうとまではいかないものの、少なくとも良いイメージは沸かない。

 それが神の場合となるとまた別の話。

 この世で一番崇拝されているかつ唯一無二の存在――神様として万年崇め奉られていたのにもかかわらず、急に、子分である天使(裏切り者)が自分と同じ位にまで上がって来ようものなら排除しようと考えるのは明確。
 しかもミウが神になった理由が世襲制でもなく繰り上げによるものでもなく出世でもなく禁忌魔法であることもまた一つ問題点である。禁忌魔法の一つ――ニア・ゴッドベズィッツはだ――。

 これがどういう意味を示すのか、正直想像できない。

 種族を一つ消す――っと言ってもどうやって消すのか、そして、もし人間界が、天界が、魔界が消えようものなら……、考えたくもない。しかしミウが俺の耳元で囁いた、この禁忌魔法のデメリットは針小棒大しんしょうぼうだいでもないだろうし、これが俺に何かしら災いが落ちるというのも本当の事だろう。
 もし人間界が滅びようものなら俺は恐らく何かしらの抵抗はするだろうし、魔界か天界が滅びようものならどうせ俺は巻き込まれる。戦争も起きるかもしれない。
 

 というわけで。
 この禁忌魔法を知っている魔王様や博識な魔族と会議した結果、俺は魔王城の再建ではなく主力になるための訓練を積むことになった。
 理由としてはニア・ゴッドベズィッツはそれほど参考となる資料もなく、魔族一の賢者でさえも聞いたことがある程度の魔法なので、そのデメリットやメリットが本当にミウの言う通りなのか分からないかららしい。
 何故ミウはこの魔法を知っているのか? そして、こんな簡単な禁忌魔法がなぜ今まで水面下で身を潜ませていたのか?
 謎が謎を呼び今すぐにどうにか出来る問題では無いのだが、ひとまず、禁忌魔法を唱えた俺自身が弱いままなのは何かまずくね? 的なノリで優先的に訓練を積むこととなった。



 ちょうど今は、ガウル相手に一対一の剣を使った命がけの訓練を行っている。


「……っというか、あんな簡単な禁忌魔法が本当にあるのか?」
「あるから今まさにこうやってやり合っているんだろ?!」


 ガウルは息一つ乱さず片手で剣を振っているだけなのだが、俺は汗だくゼーハーゼーハーで防御する事しか出来ない。
 時折見せるドヤ顔がマジでムカつくし剣意外にも長い爪が邪魔で実質六本の剣になっているのがウザったいが、これが種族の差なので文句を言っても仕方がない。


「片手を上げるだけで禁忌魔法ってか……。笑わせるぜ」


 余裕そうに視線をもう片方の手に向けるガウル。そして手持ち無沙汰な左手をパッと開いて空に向けるが、当然何も起きない。
 俺が片手間にボコられるだけだ。

 ガウルは一瞬力強く剣を振って俺の体勢を崩す。


「小僧よ。もう一度、前みたいに禁忌魔法のポージングをしてみせよ」
「あぁ……」


 俺も気になるので、言われた通りニア・ゴッドベズィッツのポージング――左手を開いた状態で天に向かって腕を上げる――をしてみるが――。


「な~んも起きないですね……」
「やはりそうか……」
「どうやってたんだろ」
「それはこっちが聞きたいところだ」
「けどまぁ出来ないことをずっと考えててもしょうがないですよ。今は訓練に集中ですな――」
「ふっ……。生意気な小僧だ……」
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