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第一章 種族を渡り歩く男
終戦
しおりを挟むミウから驚愕の作戦を聞いた俺は何故か自信満々で魔王城に一人で向かう。
まだミウの温もりが体に残っており、不思議と安心してしまう。まるで背中を押されているようで、そして、失敗しても慰めてくれるような安心感がある。
大丈夫だ。大丈夫だ。大丈夫だ――。
さきほどから心のなかでこの三拍子を唱えることを繰り返しており、自分でも多少の緊張をしていることがわかる。だがこれは失敗するかもしれないという恐怖ではなく成功出来るかどうか考える事から生じるものだ。
どちらも同じ意味のように聞こえるが、今の俺からすると大きく違う。上手く説明出来ないが、後ろ向きな未来を怖がっているのではなく前に進めるかどうかの不安――武者震い的な感じだ。カッコよく言えばだがな。
とりあえず一歩。また一歩。
俺はとうとう魔王城に戻ってきた。
魔王城は既に半壊しており、ゼルビアと魔王様の殴り合いや魔法の撃ち合いで俺は蚊帳の外で、召使いや生き残っている第一部隊の誰も俺の事を見ておらず、全員、魔王様になんとか加勢できないか様子を伺っている。
だが、それは非常に好都合。
ミウから伝えられた作戦は誰にも見つからず、隠密に、そして、非道にやるべきもの――。
俺は魔王城の門の前に立ち、片腕を上げて手のひらを空に向ける。
すると次第に暗黒が覆いかぶさった空に一筋の眩い光が俺をスポットライトのように照らし、そして、光源からミウが体力全開で無傷のまさに無双モードの状態で堂々と舞い降りる。
神の力的な――聖なる光を身体全体に纏ったミウは、周囲の一般兵や召使いは勿論のこと、お互いにお互いしか見ていなかったゼルビアと魔王様の目も釘付けにしており、二人共一旦静止して、ミウが舞い降りるのを止めるまで見続けた。
ミウは地面に足をつけるのではなく、ある程度降下したらゆっくりと止まって右手に持っている剣をゼルビア――ではなく、魔王城そのものに向ける。
「静まれ! 魔界の民! そして堕天使ゼルビアよ!」
何だ何だと騒然するモブキャラ達はもうゼルビアの事なんて頭に無いようだ。
しかしそれも無理はない。
なんてったって、いつもはヘラヘラしていて淫らなミウが場を圧倒するほどのオーラを放ち、そして――。
「我の前で何たる醜態! 堕ちた天使と腑抜けた魔王による戦争など天界、そして魔界のどちらにおいても歴史に泥を塗るだけだ! 惨めで何の成果も出せない無駄な行いなど無意味! 今すぐに止めて我に跪け!」
ぽかーん。
俺、そしてゼルビアと魔王様意外は口を開けてミウを見ている。というより呆然としている。
しかしある一人の召使いが「今はふざけている場合ではございません!」と口を大きく開き、それに続いて多くの兵士がミウにやじを投げる。対してゼルビアと魔王様はヤジの波に乗ることなく、どこか密かに怯えているような――目をミウから逸らせなかった。
ちなみに俺が今やった事は神を天使に擬似的に憑依させる魔法――ニア・ゴッドベズィッツ――で、未だ誰も見たことがない神という存在を亜空間的なところから引っ張りだしてどうのこうの――まぁ説明が難しい魔法で、論理的に勉強するというよりもどちらかと言えばイメージする感覚的なモノに近い。
何とも無茶苦茶で暴論な魔法だが、俺だってついさっきミウから聞いたばかりで仕組みがどうなっているのか分からない。ミウから言われたことは「手を天に向けて、キミが想像する神をイメージするの」とだけだった。
「静まれぇい! 我の言う事が聞けぬというのか?!」
ミウは剣を一振りして、空間を斬るほどの斬撃を飛ばし、その一撃はゼルビアと魔王様のちょうど真ん中を縦に切り裂いた。すると魔王城全体が静まり返る。
「我の許可なしで誰も喋るでない……」
「……」
「……」
一般兵はおろか、先程まで狂ったように殴り合い撃ち合いをしていた二人も、ライオンに狙われたネズミのように大人しく――固唾を飲んでミウの言葉を待つ。
「まずはゼルビアに問う。貴様は何故魔王城に飛びかかった?」
「……、特に意味はない」
ゼルビアがそう答えると、ミウは次に魔王様に鋭い目を向ける。
「そうか、では次は魔王に聞こう。魔王は何故ゼルビアを倒せないのだ? 歴代の魔王は全員漏れなくこんな堕天使くらい指でひねりつぶせるはずだぞ?」
「それは……、申し訳ございません」
「謝れと言っているのではない。何故かと聞いている」
ミウは苛立っている顔を少し上げて、魔王様を見下す。
パワハラ上司ってこういうことか。
「まぁ良い……。とにかくこんな愚かな争いは今すぐに辞めろ。そして今この瞬間から誰一人口を開くことなくその場で寝ろ。そしてゼルビアは我と共に天界に戻るぞ」
「……はい」
ゼルビアは下を向いて、強いものには従うしかないという雰囲気でミウ(擬似神)に返事をした。そしてミウはゼルビアの手を取り、もう片方の手から目の前に光の球体を作り出してその中に二人共飛び込んだ――。
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