留めおきたい思い

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咲き誇る喜び

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名前を木犀と言う。

控えめな香りと

ささやかな白い花

一年のうち何度かに

ふたつみつを咲かせるのみ

"ここにいるから"

誘いも健気な小高木の。

何年も 何年も

一人きりで待つ

他の誰の目にも

留まらせることなく

散り際に気付く

者さえもいない

いつしかは老木へ

数年分をひと息に

花も最後と振り絞れば

数は増えても行き届かず

色の白さを保ちきれない

落胆の身には溜め息を

積み重ねた年月に

増す濃度

芳香が広げる

馥郁ふくいくの知らせに

「なんて、いい匂い」

やがて現れし待ち人に

萎れかけ褪せた花弁も

輝きを吹き返す

歓喜の色は黄金を模し

くすむ白銀は姿を変える

もう銀と名乗れなくても

出会えたならそれだけで

次に生まれ変わったら

ーー金木犀の名の下で。





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