恋まで0センチメートル

高羽流生

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「……あの、さ」

「何だよ?」

 言いかけて、迷った。聞き間違いかもしれないと思ったからだ。達する寸前に、伊織がぼそぼそと言った言葉が予想外だったから。

『好きだ、雄大』

 息も荒かったし、粘着質な音に交じってはいた。けれど、至近距離にいた雄大の耳には、確かにそう届いたのだ。

 早くシャワーを浴びたいという伊織を見上げる。

「伊織、オレが好きなの?」

「っ、はぁ? 何言って……」

 問いかけたら、伊織が明らかな動揺を見せた。

 左手を顔の前にやって、雄大から顔を背けている。おまけに掴んだ右手が引っ張られた。

 逃げられないようにしっかり掴んでもう一度聞いてみる。

「……聞こえた。あれ、本気? 本気でその……」

「とりあえず、手離して」

「あ……、ごめん」

 痛い、と言われて掴んでいた右手から力を抜いた。

「お前さ、それ聞いてどうすんの? 何か変わるか?」

 真顔で言われて、答えられなくなった。つい先ほど一瞬見た伊織は消えていて、いつもの伊織になる。

「……あっ、伊織っ……」

「風呂、入ってくる」

「ちょ、待ってよ! 伊織」

 後ろを向いた伊織が歩き出す。声をかけたが、伊織は振り返りもせずに風呂場に向かって歩いて行った。

 伊織があんなことを言うからいけないのだ。伊織と雄大は友達なのに、女に言うみたいに熱っぽく『好きだ』なんて言われたら、聞きたくもなる。

(どう、って言われても……)

 付き合うことになってはいるけれど、これはほとんどお遊びのようなものなのだ。雄大が面白がってはじめたこと。

 デートもキスも、触り合うことも、全部雄大がやってみたいと言ってしたことなのだ。面白そうだなという安易な感覚で。

 伊織は一度だって自発的に何かしようと言ってはこなかったし、そもそも雄大は女が好きだ。伊織だってたぶんそうだと思う。

 雄大の中で伊織との『付き合う』は友達の延長みたいな感じだと思っていたのだ。それが、伊織の一言で違うものになった気がした。伊織にとってこの関係は遊びではないのかもしれない。

 結局伊織は否定も肯定もしなかった。けれど、違うのならば違うとはっきり言う性格だから、否定しなかった、だけで答えは肯定なのだと思う。

「ああーー、もうっ!」

 ばたりとベッドに倒れ込む。

(何か、ってなんだよ……)

***
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