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第4章

3話 【白妙族の秘密】

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 希和の先祖である、その白妙族しろたえぞくの女性は、追っ手の黒弧族くろこぞくから逃れるために、まだ未開の地である北を目指し流れていった。
 そして、自分たちの存在をシャーマンの力で消し、ひっそりと暮らしながら、白妙族の命を希和の世代まで繋いできたのだった。
 追っ手から逃げる際、逃げる方向を決めかねていた白妙族の女性の手を握り、助けてくれた男性がいた。
「こちらへ!」
 助けてくれた男性は、追っ手の手の届かない所まで白妙族の女性を導いてくれたのだった。
『キワチャン、ソレ、ボクノ ゼンセダヨ』
 聞き覚えのある声と、動物のシルエットが、希和の頭の中に入ってきた。
『ブゥちゃん? ブゥちゃんなの?』
 希和は驚いて聞いた。
『ウン、ソノトキハ、ボクノゼンセハ、タヌキダヨ。ケガヲシテ、モリノナカデ、ウズクマッテイルトコロヲ、キワチャンノ、センゾガ、タスケテクレタンダ』
 と、ブゥちゃんは教えてくれた。
『ダカラ、イツカ、オンガエシヲ、シタクテ、アノトキ、ニンゲンノ、ダンセイニ、バケタンダ』
 前世がタヌキだったというブゥちゃんの説明を聞いて、希和は吹き出しそうになった。
 たしかに、今生こんじょうのブゥちゃんは、全身の毛がフサフサとし、尾もモッサリとしていて、猫というより、タヌキに近いフォルムをしている。
 希和は、そんな双方の姿を想像しながら、"前世はタヌキだった"という、ブゥちゃんの説明に納得した。
 そして、何度もの生まれ変わりののち、今生で猫に生まれ変わっても、なお自分たち白妙族を守ってくれるブゥちゃんに感動して、心が震えてくるのだった。
『ブゥちゃんは、いつもいつも守ってくれていたんだね。ブゥちゃんは騎士ナイトだね』
 希和が素直に褒めると、
『イヤァ、テレルニャア』
 ブゥちゃんは照れて、顔を両手で隠す仕草をした。
 古代の様子を見せられた希和は、希和の先祖がこの北の地に流れてきた訳を理解した。
 そして、イヨの言っていた、
"国を任せる"
"卑弥呼の再来"
"黒弧族"
 これらの言葉を頭の中でリフレインしながら、希和は自分たち白妙族の存在の意義を考えると、小さく身震いした。
『それにしても……』
 と、希和は自分の答案用紙の隅に、"卑弥呼"という字を書きながら、
『卑弥呼の卑って、卑屈の卑とか、卑しいとかの卑だよね? どう考えても、日本の最初の女王様に対して、この字は失礼じゃないかなあ』
 と、素直に感じた。
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