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第3章

5話 【待たれたヒーローの誕生】

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 希和は、尊い命の提供を申し出てくれた人たちに、心から感謝した。
 感謝するがゆえに、希和は最高裁の判決を待ってからでも遅くはないと思った。
 希和は敬愛の念を込めて、彼らを「ソウル・ドナー」と名付けた。
「ソウル・ドナー」からの申し出は、次から次へとあった。
 希和は複雑だった。
 他人の命を殺めておきながら自分の命を惜しがる極悪人がいる一方で、人のために自らの命の提供を申し出る人たちもいるのだ。
 希和は、そんな「ソウル・ドナー」たちの背景を透視すると、心がえぐられるようだった。
 特に、希和と同年代の人たちからのドナー希望が驚くほど多いことは、衝撃的だった。
 目的も見つけられず、生きることを諦めた多くの十代の若者たちー。
 その目は虚ろで、腕には無数のカミソリの傷跡ー。
 中には、同級生からのイジメが酷く、『もう生きてゆけない』……と。
『明日には死ぬつもりだったが、自分の命が少しでも役に立つのなら、加害者に仇を討つために使ってください』
 と、淡々と訴えるドナーもいた。
 また、働かない親から暴力を受け、貧困ゆえに学校へも行けず、バイトをして一家の家計を支えている若者は、
『死んだら楽になれるのかな……?』
 と、死への憧れを告げるのだった。
 希和にとっては暗くて重い課題だった。
 普通の背景を持った若者だったら、「頑張って!」と声も掛けられるだろうが、彼らには、「頑張って」という激励の言葉はなんの意味も持たなかった。
 今まで十二分じゅうにぶんに、頑張ってがんばってガンバッタのに、これ以上どう頑張れというのか……!
『私はどうすれば良いのだろう……。明日、いや今この瞬間にも命を捨てようとしている同年代の若者を、どうやったら救えるのだろうか……? いや、せめて死に急がないよう、説得できる時間が欲しい。私の体が二つあれば……』
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