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第2章
3話 【新たな出会いと別れ】
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留美の葬式の翌日、希和が朝、学校へ行くと、かつて留美が座っていた机の上には花が置かれていた。
最初は、担任の先生が買ってきた花が飾られていたが、最近では希和の家の庭先に咲いている花を摘んできて飾っていた。毎朝の水替えも、希和の日課となっていた。
東北地方でも五月の声を聞くと、眠っていた多年草や球根の春の花が顔を出した。
今、留美の机の上に飾られているのは、希和の家の庭先に咲いた黄色い水仙だった。
この花は、鼻先に持ってくるとフワーッと爽やかな良い香りがして、人を幸せな気分にしてくれる。
『この花は、まるで留美ちゃんのようだ……』
希和は思った。
留美は本当に、この水仙の花のように優しく思いやりのある子だった。
小学生の頃、こんなことがあった。
小学校の校庭の小高い丘に二人で腰掛け、おしゃべりを楽しんでいて、話が家族の内容になった時だった。希和が、
「ばあちゃんに、いつか先に死なれる日が来ると思うと、悲しくって眠れない」
と泣きじゃくっていると、留美は何も言わず希和の肩を両腕で優しく抱き寄せると、ただただ一緒に泣いてくれたのだった。
また留美は、ただ優しいだけではなく、強さも兼ね備えていた。
当時の希和たちの担任は、生徒を親の職業で差別したり、えこひいきが激しかったりと、評判の悪い人物だった。担任は、修学旅行の写真の集金の手伝いを希和にさせた。そうしたら、自分が先に集金した分と、希和が集金した滞納で遅れた子の分の合計額が合わなかった。その際、この担任は案の定、希和がお金を盗ったと決め付け、「両親がいない子だから怪しい」とまで言い放ったのだ。これに対して、一番先に怒ったのが留美だった。自ら職員室に乗り込み、「希和ちゃんは、お金を盗むような子じゃない! 先生、もっとちゃんと調べてください」と直談判してくれたのだった。この時は、騒ぎを聞きつけた教頭先生が間に入り、担任と希和の両方の鞄を調べてくれた。結局、担任の鞄の中から不足分の現金が見つかり、たまたま袋から硬貨が漏れてしまったのが、原因だとわかった。
希和はあの時の、「希和ちゃん、良かったね」と言ってくれた留美の言葉と笑顔が忘れられない。
そしてもうひとつ、希和には留美との間に忘れられない印象的なエピソードがあった。
「希和ちゃん、希和ちゃんの名前、イマワノキワっていうでしょ。この前、本を読んでて気が付いたんだけど、希和ちゃんと同じ読みで、今際の際という言葉があるんだって」
そう言いながら、留美はカバンの中から国語辞典を取り出し、折り目を付けていたページを開き、希和に示した。
"今際の際"……最期の時、臨終、死に際
最初は、担任の先生が買ってきた花が飾られていたが、最近では希和の家の庭先に咲いている花を摘んできて飾っていた。毎朝の水替えも、希和の日課となっていた。
東北地方でも五月の声を聞くと、眠っていた多年草や球根の春の花が顔を出した。
今、留美の机の上に飾られているのは、希和の家の庭先に咲いた黄色い水仙だった。
この花は、鼻先に持ってくるとフワーッと爽やかな良い香りがして、人を幸せな気分にしてくれる。
『この花は、まるで留美ちゃんのようだ……』
希和は思った。
留美は本当に、この水仙の花のように優しく思いやりのある子だった。
小学生の頃、こんなことがあった。
小学校の校庭の小高い丘に二人で腰掛け、おしゃべりを楽しんでいて、話が家族の内容になった時だった。希和が、
「ばあちゃんに、いつか先に死なれる日が来ると思うと、悲しくって眠れない」
と泣きじゃくっていると、留美は何も言わず希和の肩を両腕で優しく抱き寄せると、ただただ一緒に泣いてくれたのだった。
また留美は、ただ優しいだけではなく、強さも兼ね備えていた。
当時の希和たちの担任は、生徒を親の職業で差別したり、えこひいきが激しかったりと、評判の悪い人物だった。担任は、修学旅行の写真の集金の手伝いを希和にさせた。そうしたら、自分が先に集金した分と、希和が集金した滞納で遅れた子の分の合計額が合わなかった。その際、この担任は案の定、希和がお金を盗ったと決め付け、「両親がいない子だから怪しい」とまで言い放ったのだ。これに対して、一番先に怒ったのが留美だった。自ら職員室に乗り込み、「希和ちゃんは、お金を盗むような子じゃない! 先生、もっとちゃんと調べてください」と直談判してくれたのだった。この時は、騒ぎを聞きつけた教頭先生が間に入り、担任と希和の両方の鞄を調べてくれた。結局、担任の鞄の中から不足分の現金が見つかり、たまたま袋から硬貨が漏れてしまったのが、原因だとわかった。
希和はあの時の、「希和ちゃん、良かったね」と言ってくれた留美の言葉と笑顔が忘れられない。
そしてもうひとつ、希和には留美との間に忘れられない印象的なエピソードがあった。
「希和ちゃん、希和ちゃんの名前、イマワノキワっていうでしょ。この前、本を読んでて気が付いたんだけど、希和ちゃんと同じ読みで、今際の際という言葉があるんだって」
そう言いながら、留美はカバンの中から国語辞典を取り出し、折り目を付けていたページを開き、希和に示した。
"今際の際"……最期の時、臨終、死に際
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