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本編
第097話 追跡と面会準備⑤
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「――……昨夜未明、山間にある工場にて大規模な爆発と火災が発生しました。警察と消防によりますと、発生したのは午前2時過ぎのことで――」
画面下の「製薬会社工場にて大規模爆発・火災発生」といったテロップと共に、現場と思われる場所の映像が目に飛び込んでくる。
(ちょ……ま、待て待て待て! あそこは――)
テレビに映る現場の様子を見たツグナは、その光景に状況ぐ理解できず、思わず手にしていたカップをテーブルの上に倒してしまう。
「あっ! ヤバ……」
慌ててテーブルに零れたコーヒーを拭きつつ、先ほど目にした映像と昨夜ニアから受けた報告の内容を頭の中で照らし合わせる。
(やっぱりそうだよな……あのニュースにあった工場は――アルファが向かった場所だ)
間違いない、と確信する一方で「やられた!」という悔しさが募る。
(おそらくニアに覗き見されたことで、早急に手を打ったんだろう。クソッ……敵の拠点を押さえられれば、もっと有用な手を講じることができたかもしれないのに……)
とは言え、昨夜の戦闘で疲弊していたツグナがそのまま向かったところでいい結果は生めなかっただろう。「どうしてあの時すぐに行動に移さなかったのか」と彼の胸中に口惜しさが込み上げてくるが、こうして大々的に報道されてしまった以上、以降に現場に乗り込むのは難しい状況となった。
(現場には警察関係者や消防、報道陣など……多数の人間がいる。いくら隠密のスキルがあっても、多数の人間の中を進むのはリスキーだ。バレたら洒落にならないからなぁ……)
既にテレビは別の話題に移り、知りもしない芸能人が「今話題のスイーツ」としてフルーツをふんだんに盛ったパフェをぱくついている。
「仕方がない。騒ぎが落ち着いてから行くしかないな」
ツグナは「もっとも、有用な手がかりは既に無いだろうな……」と続く言葉を心の中に呟きながら、その足をキッチンへと向けるのだった。
◆◇◆
「あはは~ゴメンねぇ~まさかあれほどまで大々的になるとは、予想外だったよ」
口の中でコロコロと棒付き飴を転がしたアザエルは、長机を挟んで立つゼクスに向けてケタケタと笑いながらも謝罪の言葉をかける。
「いえ、むしろ好都合というものです。こうして大々的に報道されれば、多数の人間が寄ってきます。その中を掻い潜って調査するのは至難の業ですし、衆人環視の中では目立ちます。また、下手に注目されて私たちに目をつけられることは避けたいハズ。加えて、人が掃けた後にやって来ても、風化された跡地に残されたものからここに辿り着くことは無理でしょう。今頃、あのネズミの飼い主は歯軋りでもして悔しがっているのではないでしょうか」
眼鏡を掛け直しながら口を開くゼクスに、アザエルは微笑を浮かべながら話を続ける。
ニアの偵察を受けたゼクスは、室内に侵入した「駒」を排除した直後、即座に当該拠点の放棄と移動を決定した。アザエルを頂点に置く組織――ニーベルングは、世界の各地に拠点を有しており、ここはそのうちの一つとしてアルファたちのような「魔喰人」を生み出すための実験を行う場所であった。
なお、放棄するにあたり、実験施設の痕跡を消去するため、地上の(表向きの事業として稼働している)工場も含めて徹底的に破壊を行ったうえでアザエルたちは速やかに拠点を移している。
その破壊行為は組織の手配により事故として処理・報道されたのだが、報道の反響は当人たちの予想を上回り、思いのほか多数の人間が殺到する事態となってしまっていた。
「ハハッ、そう言ってもらえると助かるよ。何気にキミ、気に入ってたでしょ、あの部屋」
アザエルはちゅぽん、と棒付き飴を口から取り出して告げる。
「そうですね。気に入っていたかどうかは置いておくとしても、確かにアザエル様の仰る通り、仕事場所としては快適な方だったかとは思います。まぁ、その場所はアザエル様が一撃で吹っ飛ばしてしまったのですが……」
「だからぁ~、ゴメンって!」
棒付き飴を再び口の中に放り込んだアザエルは、眉尻を下げ、パシッと両手を合わせながら必死になって平謝りした。
画面下の「製薬会社工場にて大規模爆発・火災発生」といったテロップと共に、現場と思われる場所の映像が目に飛び込んでくる。
(ちょ……ま、待て待て待て! あそこは――)
テレビに映る現場の様子を見たツグナは、その光景に状況ぐ理解できず、思わず手にしていたカップをテーブルの上に倒してしまう。
「あっ! ヤバ……」
慌ててテーブルに零れたコーヒーを拭きつつ、先ほど目にした映像と昨夜ニアから受けた報告の内容を頭の中で照らし合わせる。
(やっぱりそうだよな……あのニュースにあった工場は――アルファが向かった場所だ)
間違いない、と確信する一方で「やられた!」という悔しさが募る。
(おそらくニアに覗き見されたことで、早急に手を打ったんだろう。クソッ……敵の拠点を押さえられれば、もっと有用な手を講じることができたかもしれないのに……)
とは言え、昨夜の戦闘で疲弊していたツグナがそのまま向かったところでいい結果は生めなかっただろう。「どうしてあの時すぐに行動に移さなかったのか」と彼の胸中に口惜しさが込み上げてくるが、こうして大々的に報道されてしまった以上、以降に現場に乗り込むのは難しい状況となった。
(現場には警察関係者や消防、報道陣など……多数の人間がいる。いくら隠密のスキルがあっても、多数の人間の中を進むのはリスキーだ。バレたら洒落にならないからなぁ……)
既にテレビは別の話題に移り、知りもしない芸能人が「今話題のスイーツ」としてフルーツをふんだんに盛ったパフェをぱくついている。
「仕方がない。騒ぎが落ち着いてから行くしかないな」
ツグナは「もっとも、有用な手がかりは既に無いだろうな……」と続く言葉を心の中に呟きながら、その足をキッチンへと向けるのだった。
◆◇◆
「あはは~ゴメンねぇ~まさかあれほどまで大々的になるとは、予想外だったよ」
口の中でコロコロと棒付き飴を転がしたアザエルは、長机を挟んで立つゼクスに向けてケタケタと笑いながらも謝罪の言葉をかける。
「いえ、むしろ好都合というものです。こうして大々的に報道されれば、多数の人間が寄ってきます。その中を掻い潜って調査するのは至難の業ですし、衆人環視の中では目立ちます。また、下手に注目されて私たちに目をつけられることは避けたいハズ。加えて、人が掃けた後にやって来ても、風化された跡地に残されたものからここに辿り着くことは無理でしょう。今頃、あのネズミの飼い主は歯軋りでもして悔しがっているのではないでしょうか」
眼鏡を掛け直しながら口を開くゼクスに、アザエルは微笑を浮かべながら話を続ける。
ニアの偵察を受けたゼクスは、室内に侵入した「駒」を排除した直後、即座に当該拠点の放棄と移動を決定した。アザエルを頂点に置く組織――ニーベルングは、世界の各地に拠点を有しており、ここはそのうちの一つとしてアルファたちのような「魔喰人」を生み出すための実験を行う場所であった。
なお、放棄するにあたり、実験施設の痕跡を消去するため、地上の(表向きの事業として稼働している)工場も含めて徹底的に破壊を行ったうえでアザエルたちは速やかに拠点を移している。
その破壊行為は組織の手配により事故として処理・報道されたのだが、報道の反響は当人たちの予想を上回り、思いのほか多数の人間が殺到する事態となってしまっていた。
「ハハッ、そう言ってもらえると助かるよ。何気にキミ、気に入ってたでしょ、あの部屋」
アザエルはちゅぽん、と棒付き飴を口から取り出して告げる。
「そうですね。気に入っていたかどうかは置いておくとしても、確かにアザエル様の仰る通り、仕事場所としては快適な方だったかとは思います。まぁ、その場所はアザエル様が一撃で吹っ飛ばしてしまったのですが……」
「だからぁ~、ゴメンって!」
棒付き飴を再び口の中に放り込んだアザエルは、眉尻を下げ、パシッと両手を合わせながら必死になって平謝りした。
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