上 下
96 / 129
本編

第095話 追跡と面会準備③

しおりを挟む
(ふむ、なるほど……敵は思ったよりも大きな組織なようですね。さて、標的の向かう先は――)

 アルファとゼクスの会話をスキルを通じて聞き終えたニアは、その同調先を別のものに切り替える。すると、まるでテレビのチャンネルを変えるようにニアの頭の中に映像が同調リンクする。

(都心から離れていますね。これまでの移動ルートから推察するに、対象が向かうのは……)

 ニアの脳内に映し出されるのは上空からアルファたちの乗り込んだ大型車両を捉えた映像だ。映像中の車両は高速道路を都心とは逆方向に進んでいる様子がバッチリと捉えられている。周囲は既に高層ビルが所狭しと乱立する景色から、新緑の葉に覆われた木々が立ち並ぶそれへと変化している。

 やがて高速を降りた車両が辿り着いたのは、郊外にあるとある製薬工場であった。車両が通過した正門に掲げられた企業名を確認すると、ニアが配下の獲得のために奔走していた際、街頭のテレビCMで見た憶えのある名前であった。

(ただの製薬会社が魔煌石を手に入れるために雇った人間……にしては不可解ですね)

 彼女は再びメインの同調先を切り替え、先ほど会話を盗聴した第一班ネズミからの視点をクローズアップさせる。

 ニアの指示により侵入した第一班は、アルファたちが乗っていた車両から離れ、建物内部への侵入を試みる。
 建物の隙間を縫うように駆け、ダクトから侵入を果たした第一班は、司令塔であるニアの命令に従い、建物の地下部分へと進む。

 地下に進むように指令を下したのは、「大抵の悪の組織は地下に拠点を持っている」などという先入観からではない。これはニアの持つ「危機察知」のスキルが「警告」を発する場所がそこだったからという理由である。

 危機察知のスキルは、その名の通り「持ち主に危機が及ぶ方角、脅威となるものを指し示す」スキルである。このスキルは持ち主に及ぶ危機や脅威が大きいほど・近いほどに強く現れる特徴を有しており、実際に彼女はこのスキルの効果で窮地を逃れらたという経験もある。
 なお、その具体的な方角などについてはスキルレベルに依存しており、スキルレベルが低い場合は大まかな方角程度しか判明しないが、ニアの「危機察知」スキルはそのレベルが10を超えている。
 これほどまでの高いスキルレベルともなれば、対象からある程度離れていても方角や脅威度も正確に把握できる。

(な、なん……なの、コレ……)

 そうした情報収集に特化した能力・スキルを有するニアだが、この建物内に手持ちの配下を侵入させた瞬間、背骨に沿って氷杭が叩き込まれたかのような衝撃と悪寒に襲われる。
 危機察知のスキルが思わず頭を抱えたいほどの警告を発し、その脅威の源が地下にあることを指し示す。

 ――もう、いっそのことここから逃げ出したい。

 そんな弱音がニアの胸中に芽生えるものの、それを必死に振り払い、さらに同調を保ちながら情報収集に努める。スキルが告げる警告が、やがて頭痛となってニアの身体に変調をもたらし始めたその時、一匹のネズミがアルファの姿を捉えることに成功する。

 頭上のダクトの隙間から通路に出たそのネズミは、先を進むアルファに気取られないよう、物音を立てず慎重に後をついていく。
 突き当りを右に曲がり、ほどなくしてある扉の前で止まったアルファは、一度深呼吸をしてノックした。

 人一人分が通れるほどに開いた扉。閉まりかけたその隙間に飛び込んだそのネズミは、すぐにその身を隠すように駆け出す。

 しかし――

「――……おや、こんなところにネズミですか。はてさて……誰の命令で・・・・・入って来たんでしょうねぇ」
 長机を挟んで座る男――ゼクスの鋭い目がアルファの入室直後に侵入したネズミを捉えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

黒の創造召喚師

幾威空
ファンタジー
※2021/04/12 お気に入り登録数5,000を達成しました!ありがとうございます! ※2021/02/28 続編の連載を開始しました。 ■あらすじ■ 佐伯継那(さえき つぐな)16歳。彼は偶然とも奇跡的ともいえる確率と原因により死亡してしまう。しかも、神様の「手違い」によって。 そんな継那は神様から転生の権利を得、地球とは異なる異世界で第二の人生を歩む。神様からの「お詫び」にもらった(というよりぶんどった)「創造召喚魔法」というオリジナルでユニーク過ぎる魔法を引っ提げて。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~

笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。 鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。 自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。 傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。 炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...