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本編
第080話 魔煌石を巡る攻防(南の陣) A part②
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「ったく、何だよ……追い詰められた挙句、結局出した持ち札はそんなジョボい手札なのかよ。はぁ……ソイツらなら、さっき散々喰ってやったろうが。なぁ、今度はお前の方で相手してくんねぇか? あのスライムもどき、プチプチ潰すのがメンドいんだよ」
九条はため息混じりに視線を目の前の二体の式神から外し、隣に立つガンマに声をかけた。
「ちょ、それマジで言ってんの? だとしたら物凄く笑えない冗談にしか聞こえないんだけど。嫌よ、あんなスライムもどき。ネバネバしてそうだし、美味しそうには見えないし。単純に喰いでが無さそうなのって、モチベが上がらないのよねぇ~。うん、だからそっちに任せるわ。どのみち力を使わないと、『ランクアップ』も望めないわよ?」
「チッ……」
ガンマの指摘に九条は不愉快さを露わにして舌打ちし、苛立った様子で「分かったよ」と呟く。
「くっ……」
対峙する健介と蓮の顔すら見ずに行われるガンマと九条との間で交わされる会話。それは暗に「お前は格下だ」と態度でもって告げている。そんな彼らの言葉に、蓮はピキリと青筋を浮かべ、健介は唇を噛んで内から湧く怒りを覗かせるものの、さりとて明確な言葉として彼の発言を否定する気にもなれなかった。
それは九条の言葉通り、健介の使役した水式神の悉くが彼の右腕に宿る竜に喰い千切られたためである。
「さてさて……今度は『何分』もつかねぇ~」
そうした健介と蓮の静かな怒りに対し、九条は口の端を持ち上げ、嬉々として語り出した。
平均戦闘時間、わずか3分。
それがこれまで健介が使役した水式神の戦闘時間だ。彼が召喚した水式神は、そのわずかな時間で全て九条の右腕に宿る竜により喰い千切られる結果に終わっている。
圧倒的なまでの戦力差。
ガパリと口を大きく開き、まさに餅を喰い千切るように一撃で健介の水式神を屠った九条の力――『呪い竜』。
その災厄とも思える強大な力を前に、対峙した蓮と健介は当初、呆然と消え失せる水式神を見送ることしかできなかった。
御水瀬家の本家たる健介は、分家筋である「四季族」の持つ術式すべてを行使することができる。それは、先に発動した春日家の「水式神」を始め、夏目家の「水牢」、秋月家の「水蓮万化」、柊木家の「氷剣」の四系統の術法である。
しかしながら、その能力はあくまでも「扱える」という域でしかなく、汎用性は高いものの、四季族のように特化していない分、その術式の完成度という側面では一歩及ばない。
まさに「万能型」をその身で持って示すのが御水瀬家なのだ。
「はぁ……しゃーねーな。一回潰されたものをもう一度見せられてももう面白味は無いが……そう贅沢も言ってらんねぇからな。まぁせいぜい楽に死――」
九条が口の端を吊り上げ、竜の頭蓋へと変化した右腕が健介を守る水式神を屠ろうとしたその時、
「……手ぇ貸そうか?」
不意に横合いから間延びした声が場に響き渡った。
◆◇◆
「「「「――っ!?」」」」
戦闘の渦中に投げられたその声に、両者はピタリとその動きを止め、聞こえて来た声のした方向に顔を向ける。
彼らが顔を向けた先、暗がりの中からスゥッと姿を現したのは、闇夜をそのまま閉じ込めたかのような漆黒のコートに身を包んだツグナであった。
「なっ!? 何故こんな場所に!? き、君っ! 早くこの場所から逃げ――」
ゆらり、と暗がりから現れたツグナに、蓮が慌てて立ち去るようにと声をかける。だが、その言葉をかけられた当人は、
「んぁ? 聞こえてなかったのか? 『手ぇ貸そうか?』ってさ。どう考えてもこの構図、アンタらの方が追い詰められてるって状況だろ? ……違うか?」
さらりと受け流して自分の意見を口にする。
「あ、あぁ……ってそんなことはどうでもいい! 早くこの場から逃げろ! アイツらは尋常じゃない強さを持っている! 死にたくなければ――」
予想外のツグナの返答に、一瞬素で相槌を打ってしまった蓮だったが、すぐに頭を振って強い口調で逃げるように告げる。
「だから『尻尾巻いて逃げろ』ってか? 確かにこの状況を見れば、普通はアンタの言う通りなんだろうが、生憎とそいつはそいつはできない相談でね。今この時も俺の仲間がアイツらと戦っているんだ。それに、この先には俺の妹もいるんでね。『はいそうですか』って素直に聞くわけにはいかないのさ」
スルリと健介たちとガンマ・九条の間に進み出たツグナは、不敵な笑みを浮かべながら、さらに言葉を続ける。
「まぁ、そこで見てろよ。この俺に何ができるのかって――な!」
言い終えるや否や、ツグナは左腕から魔書《クトゥルー》を取り出し、その書に刻まれた彼の従者の名を告げた。
九条はため息混じりに視線を目の前の二体の式神から外し、隣に立つガンマに声をかけた。
「ちょ、それマジで言ってんの? だとしたら物凄く笑えない冗談にしか聞こえないんだけど。嫌よ、あんなスライムもどき。ネバネバしてそうだし、美味しそうには見えないし。単純に喰いでが無さそうなのって、モチベが上がらないのよねぇ~。うん、だからそっちに任せるわ。どのみち力を使わないと、『ランクアップ』も望めないわよ?」
「チッ……」
ガンマの指摘に九条は不愉快さを露わにして舌打ちし、苛立った様子で「分かったよ」と呟く。
「くっ……」
対峙する健介と蓮の顔すら見ずに行われるガンマと九条との間で交わされる会話。それは暗に「お前は格下だ」と態度でもって告げている。そんな彼らの言葉に、蓮はピキリと青筋を浮かべ、健介は唇を噛んで内から湧く怒りを覗かせるものの、さりとて明確な言葉として彼の発言を否定する気にもなれなかった。
それは九条の言葉通り、健介の使役した水式神の悉くが彼の右腕に宿る竜に喰い千切られたためである。
「さてさて……今度は『何分』もつかねぇ~」
そうした健介と蓮の静かな怒りに対し、九条は口の端を持ち上げ、嬉々として語り出した。
平均戦闘時間、わずか3分。
それがこれまで健介が使役した水式神の戦闘時間だ。彼が召喚した水式神は、そのわずかな時間で全て九条の右腕に宿る竜により喰い千切られる結果に終わっている。
圧倒的なまでの戦力差。
ガパリと口を大きく開き、まさに餅を喰い千切るように一撃で健介の水式神を屠った九条の力――『呪い竜』。
その災厄とも思える強大な力を前に、対峙した蓮と健介は当初、呆然と消え失せる水式神を見送ることしかできなかった。
御水瀬家の本家たる健介は、分家筋である「四季族」の持つ術式すべてを行使することができる。それは、先に発動した春日家の「水式神」を始め、夏目家の「水牢」、秋月家の「水蓮万化」、柊木家の「氷剣」の四系統の術法である。
しかしながら、その能力はあくまでも「扱える」という域でしかなく、汎用性は高いものの、四季族のように特化していない分、その術式の完成度という側面では一歩及ばない。
まさに「万能型」をその身で持って示すのが御水瀬家なのだ。
「はぁ……しゃーねーな。一回潰されたものをもう一度見せられてももう面白味は無いが……そう贅沢も言ってらんねぇからな。まぁせいぜい楽に死――」
九条が口の端を吊り上げ、竜の頭蓋へと変化した右腕が健介を守る水式神を屠ろうとしたその時、
「……手ぇ貸そうか?」
不意に横合いから間延びした声が場に響き渡った。
◆◇◆
「「「「――っ!?」」」」
戦闘の渦中に投げられたその声に、両者はピタリとその動きを止め、聞こえて来た声のした方向に顔を向ける。
彼らが顔を向けた先、暗がりの中からスゥッと姿を現したのは、闇夜をそのまま閉じ込めたかのような漆黒のコートに身を包んだツグナであった。
「なっ!? 何故こんな場所に!? き、君っ! 早くこの場所から逃げ――」
ゆらり、と暗がりから現れたツグナに、蓮が慌てて立ち去るようにと声をかける。だが、その言葉をかけられた当人は、
「んぁ? 聞こえてなかったのか? 『手ぇ貸そうか?』ってさ。どう考えてもこの構図、アンタらの方が追い詰められてるって状況だろ? ……違うか?」
さらりと受け流して自分の意見を口にする。
「あ、あぁ……ってそんなことはどうでもいい! 早くこの場から逃げろ! アイツらは尋常じゃない強さを持っている! 死にたくなければ――」
予想外のツグナの返答に、一瞬素で相槌を打ってしまった蓮だったが、すぐに頭を振って強い口調で逃げるように告げる。
「だから『尻尾巻いて逃げろ』ってか? 確かにこの状況を見れば、普通はアンタの言う通りなんだろうが、生憎とそいつはそいつはできない相談でね。今この時も俺の仲間がアイツらと戦っているんだ。それに、この先には俺の妹もいるんでね。『はいそうですか』って素直に聞くわけにはいかないのさ」
スルリと健介たちとガンマ・九条の間に進み出たツグナは、不敵な笑みを浮かべながら、さらに言葉を続ける。
「まぁ、そこで見てろよ。この俺に何ができるのかって――な!」
言い終えるや否や、ツグナは左腕から魔書《クトゥルー》を取り出し、その書に刻まれた彼の従者の名を告げた。
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