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本編
第092話 魔煌石を巡る攻防(南の陣) B part⑦
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「――……おい、大丈夫か?」
アルファがツグナたちのもとを去ってから数分後。召喚獣たちを魔書の中に送還したツグナは、アリアの拘束を解いて回復薬を飲ませた。
「う……ぁ、ツグ兄?」
意識を取り戻したアリアは、薄ら眼でツグナの顔を見ると、衰弱した身体で今にも泣き出しそうな表情を浮かべながらポツリと呟く。
「ゴメン、ツグ兄……役に立てなかった」
悲壮さを湛えた顔で謝罪の言葉を口にするアリアに、ツグナはその頭を撫でながら優しく言葉を返す。
「気にするな。アリアは精一杯できる限りのことをやったんだ。今はゆっくり休んでろ」
「うん……そうする」
兄の言葉に、彼女はふっと力なく微笑むとそのまま瞼を閉じてすぅすぅと寝息を立て始めた。
「兄さん……」
二人の会話が終わった時、背後からリーナの声がかかる。
「心配するな。疲れて眠ったみたいだけだから……」
お姫様抱っこでアリアの身体を抱え上げたツグナは、ゆっくりと声のした方に向き直す。するとそこには姉のリーナだけではなく、キリアやソアラの姿もあった。
それぞれの戦闘を終え、急いで彼のもとへと駆け付けた彼女たちであったが、その表情はどことなく暗いものが差し込んでいる。おそらくは予想外に酷い状態のアリアの姿に少なからずショックを受けているのだろうとはツグナもなんとなく察することができた。
彼の腕の中で眠るアリアは、間近で見れば彼女が受けた傷の深さが良く分かる。その身体の至る所には細かな傷が生じており、左腕の肘から下の骨については見事に折れている。また、左腕だけではなく、右腕や両脚などの四肢の骨にもヒビが入っている状態だった。
体表には大きな青痣が数か所浮かび、左頬は殴られた痕を示すように真っ赤に腫れ上がっている。
飲ませた回復薬の効果でいくらかダメージは緩和できるだろうが、それだけですぐにいつも通りに戻ることは難しい。
「キリア。戻ったらアリアのことを頼めるか?」
「え、えぇ……分かったわ」
ポツリと呟かれたツグナの言葉に、ハッと我を取り戻したキリアは声を詰まらせながらも頷く。
――ツメが甘かった。
重傷を負ったアリアを抱えたツグナは、自身の驕りと甘さに、唇を噛みながら込み上げてくる悔しさを滲ませた。
――統率の取れた敵の組織、魔煌石を埋め込みその魔物の力を手に入れた「魔喰人」の脅威を。
(次に会った時は……絶対にブチのめしてやる。俺の仲間を……家族をここまで痛めつけてくれた代償――キッチリと支払ってもらうぞ)
彼方に去っていったアルファ、その後ろ姿を脳裏に思い描きながら、ツグナは心の中に人知れず誓う。
◆◇◆
「さて、と。ここに長居するわけにもいかないな。アリアのこともあるし、帰るとするか」
迸る怒りをどうにか抑え込んだツグナは、ふっと相好を崩しながら集まったリーナたちに呼びかける。
「そうですね。夜も更けてますし、戻ってお風呂にも入りたいです」
「だね。ただ、私はお風呂よりも食事かなぁ……動き回っていたせいか、お腹減っちゃったよ」
「相変わらずねぇ……私は帰ってアリアを診たらベッドにダイブしたいわ」
彼の発言に、リーナ、ソアラ、キリアの順で口々に自分の希望を述べる。
それまでの暗く、沈んだ空気が幾分軽くなったことを感じたツグナは、アリアを抱えたままその場を後にしようとした――のだが、
「あ、あのっ! ま、待ってください!」
少し離れた場所から彼らを呼びとめる声に、ピタリとその足が止まった。
アルファがツグナたちのもとを去ってから数分後。召喚獣たちを魔書の中に送還したツグナは、アリアの拘束を解いて回復薬を飲ませた。
「う……ぁ、ツグ兄?」
意識を取り戻したアリアは、薄ら眼でツグナの顔を見ると、衰弱した身体で今にも泣き出しそうな表情を浮かべながらポツリと呟く。
「ゴメン、ツグ兄……役に立てなかった」
悲壮さを湛えた顔で謝罪の言葉を口にするアリアに、ツグナはその頭を撫でながら優しく言葉を返す。
「気にするな。アリアは精一杯できる限りのことをやったんだ。今はゆっくり休んでろ」
「うん……そうする」
兄の言葉に、彼女はふっと力なく微笑むとそのまま瞼を閉じてすぅすぅと寝息を立て始めた。
「兄さん……」
二人の会話が終わった時、背後からリーナの声がかかる。
「心配するな。疲れて眠ったみたいだけだから……」
お姫様抱っこでアリアの身体を抱え上げたツグナは、ゆっくりと声のした方に向き直す。するとそこには姉のリーナだけではなく、キリアやソアラの姿もあった。
それぞれの戦闘を終え、急いで彼のもとへと駆け付けた彼女たちであったが、その表情はどことなく暗いものが差し込んでいる。おそらくは予想外に酷い状態のアリアの姿に少なからずショックを受けているのだろうとはツグナもなんとなく察することができた。
彼の腕の中で眠るアリアは、間近で見れば彼女が受けた傷の深さが良く分かる。その身体の至る所には細かな傷が生じており、左腕の肘から下の骨については見事に折れている。また、左腕だけではなく、右腕や両脚などの四肢の骨にもヒビが入っている状態だった。
体表には大きな青痣が数か所浮かび、左頬は殴られた痕を示すように真っ赤に腫れ上がっている。
飲ませた回復薬の効果でいくらかダメージは緩和できるだろうが、それだけですぐにいつも通りに戻ることは難しい。
「キリア。戻ったらアリアのことを頼めるか?」
「え、えぇ……分かったわ」
ポツリと呟かれたツグナの言葉に、ハッと我を取り戻したキリアは声を詰まらせながらも頷く。
――ツメが甘かった。
重傷を負ったアリアを抱えたツグナは、自身の驕りと甘さに、唇を噛みながら込み上げてくる悔しさを滲ませた。
――統率の取れた敵の組織、魔煌石を埋め込みその魔物の力を手に入れた「魔喰人」の脅威を。
(次に会った時は……絶対にブチのめしてやる。俺の仲間を……家族をここまで痛めつけてくれた代償――キッチリと支払ってもらうぞ)
彼方に去っていったアルファ、その後ろ姿を脳裏に思い描きながら、ツグナは心の中に人知れず誓う。
◆◇◆
「さて、と。ここに長居するわけにもいかないな。アリアのこともあるし、帰るとするか」
迸る怒りをどうにか抑え込んだツグナは、ふっと相好を崩しながら集まったリーナたちに呼びかける。
「そうですね。夜も更けてますし、戻ってお風呂にも入りたいです」
「だね。ただ、私はお風呂よりも食事かなぁ……動き回っていたせいか、お腹減っちゃったよ」
「相変わらずねぇ……私は帰ってアリアを診たらベッドにダイブしたいわ」
彼の発言に、リーナ、ソアラ、キリアの順で口々に自分の希望を述べる。
それまでの暗く、沈んだ空気が幾分軽くなったことを感じたツグナは、アリアを抱えたままその場を後にしようとした――のだが、
「あ、あのっ! ま、待ってください!」
少し離れた場所から彼らを呼びとめる声に、ピタリとその足が止まった。
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