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本編
第001話 大戦のあとにもたらされた神様の依頼①
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イグリア大陸のほぼ中央に位置する広大な森林地帯――通称、「魔の森」。そこは鬱蒼とした木々が生い茂り、木の葉に遮られて出来た影と天から差す暖かな陽光との強いコントラストがまるで一枚の風景画にも思えてならない。
しかしながら、この森にはごくごく普通の生活を送って来た人間では逆立ちしても到底勝てる見込みのないほどの高危険度な魔物が、それこそ真っ昼間から徘徊する危険地帯でもある。
事実、その危険度はこの森に足を踏み込み、無事に生還できたという事実だけでも一目置かれる実力者と評されることからも窺い知れよう。加えて、この森の外縁部で仕留めた(比較的大人しい)魔物でさえ、一度素材の買取依頼を出せば、そこらの森や街道で狩った魔物とは二桁も三桁も取引額が吊り上がる。
そのため、この森には一攫千金を狙って挑む者が後を絶たないのだが、大抵は尻尾を巻いて早々に撤退するハメに陥る。
「何アレ!? 絶対ムリ!」
「つーか、命がいくつあっても足りねぇって!」
「あんなトコに行こうとしたのが間違いだった」
など、撤退した者たちは、それぞれが消えないトラウマを刻まれて帰還を果たす。中にはその刻まれたトラウマと恐怖がフラッシュバックし、「諦めて故郷に帰ろう……」とする者まででる始末だ。
そんな状況であるが故に、森の中心部付近にまで到達できるのは、武芸に秀でたほんの一握りの手練しかいないのが実情だ。
そんな誰もが躊躇う危険地帯に「喧嘩売ってんの!?」と思わず突っ込みたくなる勢いで堂々と建つログハウス調の家がある。その家には、神様の手違いにより日本から転生を果たしたツグナ=サエキと、彼をリーダーとするレギオン「ヴァルハラ」のメンバー、及び彼に戦闘訓練と魔法知識を与えた妖精族と半妖精族の二人の師匠が住んでいる。
「くふぁ……」
窓から差し込む朝陽を浴び、むくりと上体を起こして眠い目を擦りながら欠伸をしたツグナは、ガリガリと所々寝癖で髪が跳ねた頭を掻きながらゆっくりとベッドから出る。
(うぅむ……いい加減、この姿を見るのも違和感がなくなってきたな)
ふと姿見に映る自分の顔を見たツグナは、そんな言葉を胸中に漏らした。
姿見の向こうには、幼少期から十年以上も見てきた黒髪黒眼の自分ではなく、一部が雪のように白くなった前髪に、右眼が金色に染まり、綺麗なオッドアイに変化した自分の顔がある。
場所が違えば今の彼の姿は「思春期特有の中ニ病を患ったイタい人物」として、他人から奇異の目で見られることだろう。
――しかしながら、ツグナがこうした姿になってしまったのには、深い理由がある。
その原因は、後に歴史学者から「世界大戦」と語られるにまで至った、大陸全土に及ぶ大規模な戦争にある。
現在の「ユスティリア王国」と「メフィストバル帝国」による分割統治以前、このイグリア大陸は先の二国に「レバンティリア神聖国」を加えた三国による統治体制が敷かれていた。この三者が互いに互いを監視・牽制し合うことにより、大きな武力衝突も無く平穏な時が流れていたのである。
しかしながら、その薄氷の均衡たる三国関係を壊したのが、「世界大戦」であった。
この大戦の契機は、三国の一つで「人族至上主義」を掲げる「レバンティリア神聖国」が、獣人を抱えるユスティリア王国と魔族からなるメフィストバル帝国を相手に戦争を仕掛けたことにある。
当然、二つの大国を相手にするレバンティリア神聖国は劣勢に強いられ、早晩滅びるだろうと目されていたのだが、その考えは誰もが予想もしなかった存在によって裏切られた。
それは、「魔人」と呼ばれる者たちの存在だった。レバンティリア神聖国では、魔法の上位概念たる魔導――その象徴たる「魔書」であり、適合者に強大な力を与えるそれを人工的に創り出したのだ。
関係者の間で「劣化魔書」とも呼ばれたその魔書は、そのたった一つのアイテムだけで、それこそ熟達した魔術師が使用する魔法を易々と超える力を与えた。
――その身を魔人へと変えることを代償として。
そうして劣化魔書により国民を魔人へと変え、その強大な戦力を背景に仕掛けた戦争の結果、大陸の至るところで血が流れた。
そんな悲劇に終止符を打ったのがツグナたちであった。特にツグナは、その激闘の果てに彼の中に眠る「七つの魔書」の真の力を解放したことにより、外見は姿見に映し出されたように変化し、また種族もそれまでの人族から「亜神」へと変わった。
――あの世界大戦から早三年の月日が流れている。
大陸全土を巻き込んだ戦争が残した爪痕。その大地と人々の心に刻まれたその傷痕が少しずつ癒え始めた頃、物語は意外な一言から始まった。
しかしながら、この森にはごくごく普通の生活を送って来た人間では逆立ちしても到底勝てる見込みのないほどの高危険度な魔物が、それこそ真っ昼間から徘徊する危険地帯でもある。
事実、その危険度はこの森に足を踏み込み、無事に生還できたという事実だけでも一目置かれる実力者と評されることからも窺い知れよう。加えて、この森の外縁部で仕留めた(比較的大人しい)魔物でさえ、一度素材の買取依頼を出せば、そこらの森や街道で狩った魔物とは二桁も三桁も取引額が吊り上がる。
そのため、この森には一攫千金を狙って挑む者が後を絶たないのだが、大抵は尻尾を巻いて早々に撤退するハメに陥る。
「何アレ!? 絶対ムリ!」
「つーか、命がいくつあっても足りねぇって!」
「あんなトコに行こうとしたのが間違いだった」
など、撤退した者たちは、それぞれが消えないトラウマを刻まれて帰還を果たす。中にはその刻まれたトラウマと恐怖がフラッシュバックし、「諦めて故郷に帰ろう……」とする者まででる始末だ。
そんな状況であるが故に、森の中心部付近にまで到達できるのは、武芸に秀でたほんの一握りの手練しかいないのが実情だ。
そんな誰もが躊躇う危険地帯に「喧嘩売ってんの!?」と思わず突っ込みたくなる勢いで堂々と建つログハウス調の家がある。その家には、神様の手違いにより日本から転生を果たしたツグナ=サエキと、彼をリーダーとするレギオン「ヴァルハラ」のメンバー、及び彼に戦闘訓練と魔法知識を与えた妖精族と半妖精族の二人の師匠が住んでいる。
「くふぁ……」
窓から差し込む朝陽を浴び、むくりと上体を起こして眠い目を擦りながら欠伸をしたツグナは、ガリガリと所々寝癖で髪が跳ねた頭を掻きながらゆっくりとベッドから出る。
(うぅむ……いい加減、この姿を見るのも違和感がなくなってきたな)
ふと姿見に映る自分の顔を見たツグナは、そんな言葉を胸中に漏らした。
姿見の向こうには、幼少期から十年以上も見てきた黒髪黒眼の自分ではなく、一部が雪のように白くなった前髪に、右眼が金色に染まり、綺麗なオッドアイに変化した自分の顔がある。
場所が違えば今の彼の姿は「思春期特有の中ニ病を患ったイタい人物」として、他人から奇異の目で見られることだろう。
――しかしながら、ツグナがこうした姿になってしまったのには、深い理由がある。
その原因は、後に歴史学者から「世界大戦」と語られるにまで至った、大陸全土に及ぶ大規模な戦争にある。
現在の「ユスティリア王国」と「メフィストバル帝国」による分割統治以前、このイグリア大陸は先の二国に「レバンティリア神聖国」を加えた三国による統治体制が敷かれていた。この三者が互いに互いを監視・牽制し合うことにより、大きな武力衝突も無く平穏な時が流れていたのである。
しかしながら、その薄氷の均衡たる三国関係を壊したのが、「世界大戦」であった。
この大戦の契機は、三国の一つで「人族至上主義」を掲げる「レバンティリア神聖国」が、獣人を抱えるユスティリア王国と魔族からなるメフィストバル帝国を相手に戦争を仕掛けたことにある。
当然、二つの大国を相手にするレバンティリア神聖国は劣勢に強いられ、早晩滅びるだろうと目されていたのだが、その考えは誰もが予想もしなかった存在によって裏切られた。
それは、「魔人」と呼ばれる者たちの存在だった。レバンティリア神聖国では、魔法の上位概念たる魔導――その象徴たる「魔書」であり、適合者に強大な力を与えるそれを人工的に創り出したのだ。
関係者の間で「劣化魔書」とも呼ばれたその魔書は、そのたった一つのアイテムだけで、それこそ熟達した魔術師が使用する魔法を易々と超える力を与えた。
――その身を魔人へと変えることを代償として。
そうして劣化魔書により国民を魔人へと変え、その強大な戦力を背景に仕掛けた戦争の結果、大陸の至るところで血が流れた。
そんな悲劇に終止符を打ったのがツグナたちであった。特にツグナは、その激闘の果てに彼の中に眠る「七つの魔書」の真の力を解放したことにより、外見は姿見に映し出されたように変化し、また種族もそれまでの人族から「亜神」へと変わった。
――あの世界大戦から早三年の月日が流れている。
大陸全土を巻き込んだ戦争が残した爪痕。その大地と人々の心に刻まれたその傷痕が少しずつ癒え始めた頃、物語は意外な一言から始まった。
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