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一章 幼少期

覚醒

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 ティナが寄宿舎にきてから、緩やかな時が流れていた。そう、流れていたのだ。あの出来事がおこるまでは。






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 寄宿舎の中は殺伐とした空気に包まれていた。ティナが高熱を出したのだ。
 ティナに異変があったのはルイド達と朝食をたべ終わり、皆それぞれの持ち場へ戻り始めたころ。それまで元気だったティナがボーッとしていたのをカイが気がつき、熱を計ってみたら高熱がでていた。ルイド達も焦り、すぐに医者に診せてみると、医者は『疲れが溜まっていたのでしょう。しばらくは安静にさせましょう。今はそれしかありません。』と言っていた。
 しばらくして、ティナは気絶したのだろうか、意識を手放した。










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(ん、う?ここはどこだろう。ここは~寄宿舎かな?あれ?そういえば私ってこんなに流暢にしゃべれたっけ・・・)

「っ!」
突然ティナの頭に鋭い痛みが走った。

(なにこれ!?頭が割れそう!!知らない情報がなだれ込んでくる!!!)
 そう思った瞬間、痛みに耐えきれずティナは再び意識を失った。









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(あぁ、色々と思いだした。さっき頭の中になだれ込んできた情報は多分私の前世の記憶だ。なら、私は転生したということだろう。)

 何故そう言えるのかというと、今の自分にはティナの記憶がしっかり残っていたからだ。少なくとも、ティナの体を自分が乗っ取った訳ではないとわかり、ほっと息をつく。

(・・・誰かの体を乗っ取って今の自分がいるとか、なんか気分悪いしね・・・)

 私は転生もののラノベにただならぬ憧れがあった。だが、誰かの体を乗っ取り、異世界で過ごす話は大嫌いだった。何故なら、もし自分がその立場だったら、罪悪感で押し潰されてしまうと思ったからだ。


(ふー。ひとまず情報整理だな。えっと、私の前世の名前は白神 さら。先月高校生になったばかりの十五歳だった。あぁ、そうだ。あの日自転車で高校に向かっている途中、大型トラックの暴走に巻き込まれて死んだんだな。隣を走っていた双子の姉を咄嗟に突き飛ばしたのはいいものの、自分は助からなかったということだろう。あの時の姉の顔は一生忘れられないだろうな。・・・おもいっきり突き飛ばしたから、怪我しちゃったかも・・・ごめん。)

そんなことを考えていたティナだったが、ふと、もう大好きだった家族ともう会えないんだ。ということが頭をよぎる。憧れていた異世界転生だったが、家族にあえないのはやはり悲しかった。

「ふっうっふぅぅぅ!!パパ、ママ、お姉ちゃん!~うぇぇぇえんん!!」

 十五歳だったももはこんな泣き方はしなかっただろう。だが、今の自分はティナで、体も魂もティナのもの。ティナの魂に前世の記憶が偶然甦っただけだ。そのためか、ティナの精神に感情が引っ張られてしまっているのだろう。






・・・バタバタ、ガチャ!「ティナ起きたのか!?」
 相当急いできたのだろう。息が上がったカイがいた。後ろをみると、同じく肩で息をしているルイドとヒュースがいる。

(・・・騎士の人たち、私は人間なのに大切に思ってくれているんだ。)
ふと、周りを見渡してみると、ベッドの横にあるサイドテーブルにはお見舞いだろうか?篭に一杯のフルーツや、自分が寝ているベッドにはお人形が沢山置かれていた。これをみれば、自分が獣人の騎士達に愛されていることがわかる。
(人間は獣人に酷いことしているのに。・・・ありがとう。)

人間は、昔の戦争で獣人に負けたことから、腹いせに子供の獣人などを拐い無理やり奴隷にしたり、子供達に獣人は恐ろしく、野蛮な生き物だと教えていた。



 ティナは心ぼそい今の状況でわかったカイ達の優しさを、改めて感じていた。


「・・・どうした?大丈夫か??どこか苦しいのか?」
 ティナがずっと黙っていたからだろう。心配そうなルイドの声にハッとする。そして、再び優しさを実感したティナは、耐えきれず泣きだしてしまった。



「ひっ、ぐすっ、も、う、あえない!だいすきだったのに!!もう!あえないの!!」 いくら前世の記憶が甦ったとはいえ、今のティナは三歳だ。舌ったらずな言葉になってしまう。

「「「っ!」」」
そんなティナをみて、ルイド達はこう思ったのだ。『捨てられたときの記憶が戻ったのでは?』と。ティナを見つけたとき、ティナは自分の名前すら覚えていなかった。ルイド達の憶測は、記憶を思い出したという点では間違いではなかったのだ・・・ただし思い出した記憶は前世のものだが。
そんなことは知らないルイド達は、今のティナになんて話しかければいいのかわからず、狼狽えていた。

・・・ストン。ヒュースはティナの隣にすわり、ティナを膝にのせ、背中を優しくたたいた。

「大丈夫。僕達がいるよ?大丈夫。安心していいんだよ?ティナは、一人じゃないんだよ??」
ヒュースは、一言一言ティナに言い聞かせるように伝える。

トン、トンと一定のリズムでティナの背中をたたく。
泣きじゃくっていたティナの声も、次第に収まり、やがて、スースー、と寝息が聞こえた。





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