わたしの流れ方

阿波野治

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流れ星と無人島

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 流れ星になりたいと願ったら、本当に流れ星になった。
 せっかく流れ星になったので、宇宙空間を飛行してみる。移動速度はかなり速い。
「わたしは今、宇宙空間を飛行しております。凄まじい速さであります。惑星と惑星の間を瞬く間に通過し――」
 ノリノリで実況の真似事をしていたら、段々息が苦しくなってきた。流れ星なのに酸欠に陥ったのは、わたしが元は人間だからだろうか。
 どうせ死ぬならば生まれ故郷で死にたい。大急ぎで引き返し、大気圏を突き抜けて地球に帰還した。
 降り立ったのは、太平洋に浮かぶ島。
 どのような島なのか、把握するべく移動を開始したが、速度がやたら遅い。人間に戻っているのだ。
 徒歩で島を見て回った結果、さほど広くない無人島だと判明した。空港や港は、当然のことながらない。せっかく地球に帰ってきたというのに、この孤島で余生を終えなければならないらしい。
 幸いにも、島には食料が豊富にあった。果物、山菜、魚――獲れるものはなんでも獲って食べた。飲み水は湧水で事足りた。木の枝と葉を使って簡易な住居も拵えた。
 無人島に囚われているにしては、わたしの生活は恵まれたものだったに違いない。しかし、不満に思うことがないわけでもない。
「さあ、木の枝に手をかけ足をかけ、着実に獲物に近づいていきます。ちょうど食べ頃、大きなルビー色のフルーツはもう目の前だ。さあ、手を伸ばせ。これを収穫すれば本日の昼食は――」
 実況の真似事をしても、聞いている者がいないのでは虚しいだけだ。
 わたしはなぜ、宇宙空間で死ななかったのだろう? そう思い悩むことが日に日に増えた。
 ある日の夜、日課の散歩に出かけたわたしは、砂浜に流れ星が横たわっているのを発見した。わたしのように、後天的にその姿になったのではなく、生まれつきの流れ星だ。全身が血のように赤く、右肩を怪我している。命に別状はないようだが、起き上がれずにいる。
 わたしは流れ星をおんぶして住居まで運び、休ませた。一晩眠ると、すっかり元気になった。しかし宇宙に帰るには体力的に不安が残るので、一週間、島で静養することになった。
 待望の話し相手ができたのは嬉しかったが、喜びは長続きしなかった。流れ星は怪我が全治してからというもの、無人島生活の大変さをくどくどと愚痴ると共に、宇宙の素晴らしさをしつこく語るようになったのだ。
 思ったことを素直に口にしているだけで、悪意がないのは分かる。しかし、この島で長期間暮らし、島に並々ならぬ愛着を抱いている私からすれば、決して快いものではない。ただ、唯一の同居人との仲を険悪にしたくなかったので、文句を言うのは控えた。
 一週間の辛抱だ。そう自らに言い聞かせ、我慢強く彼との共同生活を送った。
 期日を迎えたが、流れ星は島に居座り続けた。島での生活が気に入ったので、宇宙に戻りたくないのだと言う。そういえば、流れ星が島での生活に対する不平不満を漏らす回数は、確かにここ最近減っていた。
 しかしわたしは、思ったことをそのまま口にする彼の性格に、すっかり嫌気が差していた。
 いっそのこと、喧嘩腰に不快感を表明し、口論にでも発展すれば、わたしに愛想を尽かして宇宙に帰ってくれるかもしれない。そう考えもしたが、せっかくの話し相手がいなくなってしまうことを思うと、実行に移す勇気は湧かなかった。
 やはりわたしは、宇宙空間で死んでおくべきだったのかもしれない。
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