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引き続き、バスに乗って
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ホーム画面のツイッターアプリのアイコンに、一件の通知があることを示す赤いマークがついている。
その赤をじっと見つめているうちに、バスが急停車気味に停車した。
フロントガラス越しに外を窺うと、目の前に信号はなく、バスは路肩に停まっている。乗車口のガラス越しに歩道を見ると、バス停の標識が見えた。
ドアが開いて、三十歳手前くらいの女性が乗りこんできた。全体的に白っぽい服装で、季節のわりには厚着に見える。白いハンドバッグを提げていて、明るい茶色に染めた髪の毛を、ヘアゴムを使って後頭部で一つに括っている。
ヘアゴム女史は、乗車口の真正面の一人がけの座席にしとやかに腰を下ろす。そして、すぐさまスマホを触りはじめる。
ヘアゴム女史の指の動きを数秒間見つめ、アラバマへと視線を移す。相も変わらず、熱心に窓外を眺めている。
スマホのディスプレイを暗転させ、ポケットに戻す。
*
「ここを右に曲がったほうが駅に近いんだけどね」
交差点を直進するさなか、惣助は右に折れる道を指して言った。声に反応して、ヘアゴム女史が振り向いたが、すぐにスマホに視線を戻した。
アラバマは座ったまま体の向きを変える。惣助の服にしがみつき、窓外を注視する。片側三車線で、広い歩道が備わっている、という情報を取得した直後、マンションの陰に隠れて見えなくなった。体を離して惣助を見上げ、
「おっきい道」
「街の中心地に近いからね」
「なんでさっきの道を行かないの」
「そっち行きの路線もあるんじゃないかな。分からないけど」
「ふぅん」
左側の窓から外を窺うと、停留所を通過したところだった。顔を正面に戻し、背もたれに背中を預ける。
「どうしたの。景色見るの、飽きた?」
「あきた!」
「あと十分もかからないから、もう少しだけ待って」
*
「武器を売っている店がある場所、アラバマは把握しているんだよね?」
遅まきながらスマホをマナーモードにして、アラバマに差し出しながら確認をとる。
「知ってるよ。だいたい分かる」
受けとり、慣れた手つきでディスプレイをタップするアラバマの視線の方向は、惣助ではなくスマホだ。
「じゃあ、バスを下りてからは頼むよ」
「おっけい」
「なに見てるの」
「んー、いま選び中」
アラバマの指はディスプレイをひたすらスワイプする。
*
小銭がちゃらつく音に顔を上げる。
音源は惣助だ。財布から硬貨ばかりを選び出し、掌の上に広げている。
「もう着く?」
「うん、もうすぐ。景色に見覚え、ない?」
窓外を覗いてみる。褐色とオレンジ色の中間のような色をした外壁の、高い建物が建っていて、その前をバスは走り抜ける。
「ない。さっきの建物、なに?」
「郵便局」
小銭を選びながら答えた惣助は、窓のほうは見ていない。
「ていうか、景色に覚えがないって、大丈夫?」
「だいじょーぶだって。降りたらたぶん分かる」
「頼むよ、アラバマ。僕は場所はまったく分からないから。はい、二百十円」
二枚の百円硬貨と一枚の十円硬貨が差し出される。受けとり、スマホを返却する。惣助はすぐにポケットにしまい、自らも二百十円を握りしめる。
フロントガラスの向こうに、ひときわ大きな建物が見えた。
その赤をじっと見つめているうちに、バスが急停車気味に停車した。
フロントガラス越しに外を窺うと、目の前に信号はなく、バスは路肩に停まっている。乗車口のガラス越しに歩道を見ると、バス停の標識が見えた。
ドアが開いて、三十歳手前くらいの女性が乗りこんできた。全体的に白っぽい服装で、季節のわりには厚着に見える。白いハンドバッグを提げていて、明るい茶色に染めた髪の毛を、ヘアゴムを使って後頭部で一つに括っている。
ヘアゴム女史は、乗車口の真正面の一人がけの座席にしとやかに腰を下ろす。そして、すぐさまスマホを触りはじめる。
ヘアゴム女史の指の動きを数秒間見つめ、アラバマへと視線を移す。相も変わらず、熱心に窓外を眺めている。
スマホのディスプレイを暗転させ、ポケットに戻す。
*
「ここを右に曲がったほうが駅に近いんだけどね」
交差点を直進するさなか、惣助は右に折れる道を指して言った。声に反応して、ヘアゴム女史が振り向いたが、すぐにスマホに視線を戻した。
アラバマは座ったまま体の向きを変える。惣助の服にしがみつき、窓外を注視する。片側三車線で、広い歩道が備わっている、という情報を取得した直後、マンションの陰に隠れて見えなくなった。体を離して惣助を見上げ、
「おっきい道」
「街の中心地に近いからね」
「なんでさっきの道を行かないの」
「そっち行きの路線もあるんじゃないかな。分からないけど」
「ふぅん」
左側の窓から外を窺うと、停留所を通過したところだった。顔を正面に戻し、背もたれに背中を預ける。
「どうしたの。景色見るの、飽きた?」
「あきた!」
「あと十分もかからないから、もう少しだけ待って」
*
「武器を売っている店がある場所、アラバマは把握しているんだよね?」
遅まきながらスマホをマナーモードにして、アラバマに差し出しながら確認をとる。
「知ってるよ。だいたい分かる」
受けとり、慣れた手つきでディスプレイをタップするアラバマの視線の方向は、惣助ではなくスマホだ。
「じゃあ、バスを下りてからは頼むよ」
「おっけい」
「なに見てるの」
「んー、いま選び中」
アラバマの指はディスプレイをひたすらスワイプする。
*
小銭がちゃらつく音に顔を上げる。
音源は惣助だ。財布から硬貨ばかりを選び出し、掌の上に広げている。
「もう着く?」
「うん、もうすぐ。景色に見覚え、ない?」
窓外を覗いてみる。褐色とオレンジ色の中間のような色をした外壁の、高い建物が建っていて、その前をバスは走り抜ける。
「ない。さっきの建物、なに?」
「郵便局」
小銭を選びながら答えた惣助は、窓のほうは見ていない。
「ていうか、景色に覚えがないって、大丈夫?」
「だいじょーぶだって。降りたらたぶん分かる」
「頼むよ、アラバマ。僕は場所はまったく分からないから。はい、二百十円」
二枚の百円硬貨と一枚の十円硬貨が差し出される。受けとり、スマホを返却する。惣助はすぐにポケットにしまい、自らも二百十円を握りしめる。
フロントガラスの向こうに、ひときわ大きな建物が見えた。
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