54 / 61
決別⑧
しおりを挟む
ヘンリエッタを追い出した時点で、二者択一の回答は実質的に決まっていたのだと思う。
それでも三日間の猶予を設けたのは、もしかするとヘンリエッタが戻ってくるかもしれない、という一縷の希望を抱いていたからに他ならない。
しかし、視点を変えればそれは拷問でもあるのだと、三日間過ごしてみて思い知った。
彼女との思い出ばかりだからだ。
風呂に入れば、入浴中の彼女を想像し、どぎまきしていたころのことを思い出した。
胃の腑を満たすべく、食料が入ったレジ袋を漁れば、彼女と楽しくおしゃべりをしながら食事をしたことを思い出した。
夜、消灯して万年床に横たわれば、肉体的な交わりの予感に心を高ぶらせたことを思い出した。
ヘミングウェイの短編集のタイトルではないが、なにを見てもなにかを思い出す、そんな状態だった。
精神的な疲労はすさまじかった。それでいて、時が流れる速度は遅く、募る疲労感が容赦なく俺を打ちのめした。不登校になって以来、メインの時間つぶし手段だったYouTubeでの動画視聴さえ、実行する気力が湧かない。文字通りなにもせずに、無意味に無意義に時間を浪費しているだけ。
長いはずなのにあっという間に、母親との約束の日の夜が来た。
ヘンリエッタは、とうとう戻ってこなかった。
* * *
俺は、大学を自主退学して実家に帰ることを選んだ。
* * *
退学するにあたっての諸々の手続きは、両親が主体となって行った。あと二か月で十九歳、大学生にもなって親頼みは情けない、とは思うものの、できないものは仕方がない。なにせ俺は、ただ「はい」か「いいえ」か答えるだけの、弁当を温めるか否かについての受け答えさえ、満足にこなせない男だ。あらかじめ正答を予測できない問答に対応するのは、最も苦手としている。恥ずべきだろうが、屈辱的だろうが、甘んじるしか道はない。
一人暮らしを全うできず、親の世話になる生活に戻らなければならなくなった者には、お似合いの仕打ちというべきだろう。
退学の意思は速やかに受諾された。ただ、実際に京都を去るまでにはまで少し間がある。その期間がラストチャンスだったのだが、
ヘンリエッタは俺の前に姿を現さなかった。
それでも三日間の猶予を設けたのは、もしかするとヘンリエッタが戻ってくるかもしれない、という一縷の希望を抱いていたからに他ならない。
しかし、視点を変えればそれは拷問でもあるのだと、三日間過ごしてみて思い知った。
彼女との思い出ばかりだからだ。
風呂に入れば、入浴中の彼女を想像し、どぎまきしていたころのことを思い出した。
胃の腑を満たすべく、食料が入ったレジ袋を漁れば、彼女と楽しくおしゃべりをしながら食事をしたことを思い出した。
夜、消灯して万年床に横たわれば、肉体的な交わりの予感に心を高ぶらせたことを思い出した。
ヘミングウェイの短編集のタイトルではないが、なにを見てもなにかを思い出す、そんな状態だった。
精神的な疲労はすさまじかった。それでいて、時が流れる速度は遅く、募る疲労感が容赦なく俺を打ちのめした。不登校になって以来、メインの時間つぶし手段だったYouTubeでの動画視聴さえ、実行する気力が湧かない。文字通りなにもせずに、無意味に無意義に時間を浪費しているだけ。
長いはずなのにあっという間に、母親との約束の日の夜が来た。
ヘンリエッタは、とうとう戻ってこなかった。
* * *
俺は、大学を自主退学して実家に帰ることを選んだ。
* * *
退学するにあたっての諸々の手続きは、両親が主体となって行った。あと二か月で十九歳、大学生にもなって親頼みは情けない、とは思うものの、できないものは仕方がない。なにせ俺は、ただ「はい」か「いいえ」か答えるだけの、弁当を温めるか否かについての受け答えさえ、満足にこなせない男だ。あらかじめ正答を予測できない問答に対応するのは、最も苦手としている。恥ずべきだろうが、屈辱的だろうが、甘んじるしか道はない。
一人暮らしを全うできず、親の世話になる生活に戻らなければならなくなった者には、お似合いの仕打ちというべきだろう。
退学の意思は速やかに受諾された。ただ、実際に京都を去るまでにはまで少し間がある。その期間がラストチャンスだったのだが、
ヘンリエッタは俺の前に姿を現さなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる