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ショッピングモール⑤
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互いに空腹を隠せなくなってきたということで、フードコートに立ち寄る。すでに午後一時を回っていたため、座る場所を見つけるのには苦労しなかった。
各自好みのものを適当に購入する。ヘンリエッタはラーメンや揚げ物など、脂っこいものばかりを選んだ。俺はサイコロステーキとライスとサラダのセットにした。ステーキの店は食券方式で、店員相手に一言もしゃべらなくても購入可能だったのだ。
くだらない話をしながらの食事となる。ヘンリエッタの発言に向き合っていると、不愉快と紙一重の騒がしさを気にせずにいられた。上機嫌そうに饒舌にしゃべる彼女の姿を見ていると、自然と頬が緩んだ。口の中に食べ物が入っているときには絶対にしゃべらない、彼女のイメージからは微妙にずれた礼儀正しさも、目に快い。
状況は一見、暗く重苦しい不幸とは無縁に思える。それでも俺は、ネガティブなことを考えてしまう。
『ドグラ・マグラ』を読んでいないことがばれた件、あれは恥ずかしかった。『三四郎』を未読だったこともそうだ。芸大生のくせに、小説家志望のくせに、小説に関してあまりにも無知すぎる。小説を少々嗜んでいるだけ、専門的に学んでいるわけではないヘンリエッタにすら、知識の引き出しの充実度で劣るとは、あまりにも情けない。小説に興味を持つようになった年齢が遅かったとしても、取り戻せるだろう。芸大生になったのだから、有名どころくらい読んでおけよ。YouTubeばかり観ている場合じゃないだろう。息抜きで観る程度に留めておけよ。不登校で、時間だってあり余っているのだから、小説を読め。なにをやっているんだ、俺は。恥ずかしいったらありゃしない……。
そう自分を責める一方で、こうも思う。
そもそも、小説に関する知識を強いて吸収する必要はあるのか?
俺は現状、小説に対する興味を半ば失っている。そして、このまま不登校が続けば、芸大を退学しなければならない。そうなった場合、俺は小説とは全く関わりのない人生を送ることになるはず。小説の知識を今さら増やしたところで、虚しいだけではないか。
ヘンリエッタが俺について把握している情報は、人前でしゃべれないのが枷となって不登校に陥っている、ということのみ。小説に対する関心が減退していることについては、まだ承知していない。『三四郎』に『ドグラ・マグラ』と、二つ「おや?」と思う場面に遭遇しているが、本格的に疑うには至っていないと思われる。彼女の反応を見た限りでは、そう判断を下すのが妥当だ。
人前でしゃべれない。
不登校。
半引きこもり。
他者にさらけ出す弱みは、もうこれだけで充分だ。芸大生のくせに小説に知悉しておらず、情熱も失っていることは、なるべく隠しておきたい。
……でも。
男のつまらないプライド以外に、隠し通すことに固執する理由は、はっきり言ってない。
潔く打ち明けてしまうべきなのでは? ヘンリエッタが見つけてくれると約束した、不登校から脱出する方法が見つけやすくなるかもしれない、という意味でも。
というか、小説に対する興味を失っているのに、芸大に通うことにこだわる意味はあるのか?
小説への熱を呼び覚ますことも、依頼に追加するべきだろうか? しかし、小説を読むことがあるといっても、深い関心を持っているわけではないヘンリエッタに、その役割を請け負わせるのは酷なのでは?
各自好みのものを適当に購入する。ヘンリエッタはラーメンや揚げ物など、脂っこいものばかりを選んだ。俺はサイコロステーキとライスとサラダのセットにした。ステーキの店は食券方式で、店員相手に一言もしゃべらなくても購入可能だったのだ。
くだらない話をしながらの食事となる。ヘンリエッタの発言に向き合っていると、不愉快と紙一重の騒がしさを気にせずにいられた。上機嫌そうに饒舌にしゃべる彼女の姿を見ていると、自然と頬が緩んだ。口の中に食べ物が入っているときには絶対にしゃべらない、彼女のイメージからは微妙にずれた礼儀正しさも、目に快い。
状況は一見、暗く重苦しい不幸とは無縁に思える。それでも俺は、ネガティブなことを考えてしまう。
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そう自分を責める一方で、こうも思う。
そもそも、小説に関する知識を強いて吸収する必要はあるのか?
俺は現状、小説に対する興味を半ば失っている。そして、このまま不登校が続けば、芸大を退学しなければならない。そうなった場合、俺は小説とは全く関わりのない人生を送ることになるはず。小説の知識を今さら増やしたところで、虚しいだけではないか。
ヘンリエッタが俺について把握している情報は、人前でしゃべれないのが枷となって不登校に陥っている、ということのみ。小説に対する関心が減退していることについては、まだ承知していない。『三四郎』に『ドグラ・マグラ』と、二つ「おや?」と思う場面に遭遇しているが、本格的に疑うには至っていないと思われる。彼女の反応を見た限りでは、そう判断を下すのが妥当だ。
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他者にさらけ出す弱みは、もうこれだけで充分だ。芸大生のくせに小説に知悉しておらず、情熱も失っていることは、なるべく隠しておきたい。
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男のつまらないプライド以外に、隠し通すことに固執する理由は、はっきり言ってない。
潔く打ち明けてしまうべきなのでは? ヘンリエッタが見つけてくれると約束した、不登校から脱出する方法が見つけやすくなるかもしれない、という意味でも。
というか、小説に対する興味を失っているのに、芸大に通うことにこだわる意味はあるのか?
小説への熱を呼び覚ますことも、依頼に追加するべきだろうか? しかし、小説を読むことがあるといっても、深い関心を持っているわけではないヘンリエッタに、その役割を請け負わせるのは酷なのでは?
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