切言屋

阿波野治

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説得の時間⑤

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「分かるよ。期待を抱く気持ちも、不安に思う気持ちも、どちらもすごくよく分かる」

 美咲は少し感情的になっている。だからこそあえて、草太朗はのんびりとした、それでいてはぐらかしているという印象を与えない、芯のあるしゃべりかたを選ぶ。

「でも、少し落ち着いて。冒頭で僕は美咲ちゃんに、二つ、君の気が楽になる情報を持ってきたって言ったよね。残りのもう一つ、それを今から君に教えるよ。僕の見立てが正しいのなら、それは君を今の境遇から救い出すことに繋がるはずだから」

 懐疑の言葉を投げかけてくるかもしれない、と想定していたのだが、返ってきたのは沈黙。ドアの向こうにいる少女は、草太朗の沈着冷静な語り口に熱を冷まされ、ひとまず説得する側の話を聞いてみることにしたらしい。あるいは、先ほどの長広舌のせいで息切れしたのか。

「土曜日、君の友だちの弥生ちゃんと話をしてきたよ。君のことや、君とのあいだにあったことをね」

 身じろぎをしたらしく、床板がかすかに軋った。

「美咲ちゃんの話では、弥生ちゃんは鈍感だと言っていたよね。人の気持ちを考えようとしないって。でも、弥生ちゃんと直接話をしてみた限りは、その評価は当てはまらないかなって感じたかな。
 弥生ちゃん、もしかしたら自分の言動が美咲ちゃんを傷つけたかもしれないって、気に病んでいたよ。特定の言動が原因じゃなくて、不快にさせる言葉が重なった結果、美咲ちゃんを追い詰めてしまったんじゃないかって。強気で、自分勝手なところもあるのかもしれないけど、自分のことばかりしか考えられない子ではないんだよ、弥生ちゃんは。
 美咲ちゃんだって分かっているんでしょ? だって、言っていたもんね。弥生ちゃんのこと、言動に乱暴なところもあるけど、ほんとうは優しい子だって」
「……弥生ちゃん」

 無意識にこぼれたらしい、蚊の鳴くようなひとり言。狂おしげに眉根を寄せた美咲の顔を、草太朗はありありと想像した。

「美咲ちゃんと弥生ちゃんの問題は、どちらが悪いとか正しいとかじゃなくて、すれ違いが生んだ悲劇みたいなものだと僕は思っている。お互いに臆病で、本音を言えなかったからこそ、繊細な心の持ち主である美咲ちゃんの被害が大きくなった。
 だから、和解するのであれば、両方が同時にごめんなさいをして仲直り。より望ましいのは、自分の気持ちはこうだって正直に伝え合って、誤解を解くことじゃないかな。
 具体的にどんなふうに関係を修復するのかは、君と弥生ちゃんできちんと話し合って決めるべきだろうね。僕が具体的なことまで指図するべきじゃない。大まかな和解策を提示するだけに留めておくから、あとは二人で答えを見つけてほしい。無責任に聞こえるかもしれないけど、それが二人にとってはベストの選択だって僕は信じているよ。
 美咲ちゃんに伝えたいことは、これでひとまずおしまい。僕の意見、美咲ちゃんはどう思う?」
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