切言屋

阿波野治

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美咲の言葉④

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 翌日からの学校生活は、以前までと同じではいられなかった。弥生ちゃんからいつなにを言われるのだろうと考えると怖くて、心が常に緊張していたし、いざ言葉をかけられると頭も体もフリーズした。これが毎日続くんだって、あるときふと思った瞬間、自分の気持ちがはっきりした。

 弥生ちゃんの暴言、いくら心根は優しくても、たとえ冗談のつもりなのだとしても、好きじゃない。こういう子とは友だちにはなりたくないし、なれない。大げさ化もしれないけど、でも大げさなんかじゃなくて、袂を分かつか、改善を要求するか、道は二つに一つしかない。そう私は考えたの。

 でも、どちらの道を進むのが正しいのかが私には分からなくて。仮にどちらかに決めたとしても、道を進む勇気を持てるはずなんてなくて。だから、行動するなんて夢のまた夢で。

 弥生ちゃんの前での私の振る舞いには、どこかおかしなところがあったと思う。だけど、弥生ちゃんはそれに気づかない。たぶん、自分を貫き通そうとする人だからだと思うんだけど、彼女は視野がそんなに広くないの。分かりやすく言えば、鈍感。実際、タイプが全然違う弥生ちゃんに急に親しげに話しかけられて、私は困惑していたのに、弥生ちゃんはそのことになかなか気づかなかったし。

 なにも手を打てない私とは違って、弥生ちゃんは少しずつ私との距離を詰めてくる。弥生ちゃんが近づけば近づくほど、私は彼女のことが嫌いになっていく。

 そしてある日、弥生ちゃんは決定打となる一言を私にぶつけた。

 笑いながらの言葉だった。にこやかな表情とは正反対の、品がなくて、汚れていて、刺々しい言葉だった。

 どれくらい酷かったかっていうと、ショックのあまりそのときの記憶が飛んじゃって、今でもなんて言われたのかを思い出せないくらい。でも、今まで聞いてきた中でも群を抜いて酷い言葉だったことだけは覚えている。

 その言葉をかけられた翌日から、私は学校に行かなくなって、部屋にひきこもって、誰ともしゃべらなくなった。

 自分の言葉が、相手にどんな影響を与えるんだろう?

 弥生ちゃんの言葉にさんざん思い悩んだせいか、それが気になって仕方なくなった。

 弥生ちゃんが私を傷つけたように、私も誰かを傷つけるかもしれない。それとは逆に、私の言葉を聞いた誰かが私を笑うかもしれない。反応がどうであれ、今後自分の人生に不可逆的で重大な影響を与える可能性だってある。

 そんなふうに考えていくと、なにを言うのも怖くて、なにも言えなくなった。
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