切言屋

阿波野治

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弥生の証言⑧

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「弥生ちゃんにとって美咲ちゃんは、特別な友だちなんだね」

 涙が止まり、洟をすすり上げる頻度の低下を確認して、草太朗は話しはじめた。

「美咲ちゃんが学校に来なくなって、会えなくなって、つらかったよね。自分のせいかもしれないって気に病んでいるのに、真相が全然見えてこなくて、余計につらかったよね。弥生ちゃんにはきついことも言われたけど、美咲ちゃんについて語るときの声音の優しさから、ほんとうは思いやりがある子なんだなって分かっていたよ。この公園で弥生ちゃんが語ってくれた話、考えがまとまっていないなりに一生懸命話そう、美咲ちゃんのことを理解してもらおうっていう気持ち、強く、強く、伝わってきたよ。昨日まで赤の他人だった僕のために、隠していたことを話すの、すごく勇気がいったと思うけど、よく話してくれたね。弥生ちゃん、ありがとう」

 そこまで言ったところで、草太朗ははっと息を呑んだ。
 再び、弥生が泣いているのだ。

 彼女は今、少しの刺激で涙の量が増したり、止まっていてもまた流れ出したりするような、不安定な精神状態と推察される。
 用事はおおむね済んだとはいえ、そんな状態にある女の子をほったらかしにするなど、人としてのプライドが許さない。弥生は彼にとっては子ども世代に属するが、心境としては「かわいい女の子にかっこいいところを見せたい」に近い。

 なにかないかと周囲を見回して、すぐに「これだ」と思うものを見つけた。弥生は泣くことに意識を奪われているから、短時間ならば離席しても気づかないだろう。
 草太朗は足音を立てないように、それでいて素早く移動し、迅速に用事を済ませて戻ってくる。

「弥生ちゃん」

 顔が持ち上がる。
 やきとりのつくねを手にした草太朗は、弥生に笑いかけながら串を差し出した。
 彼女は頭を振ったが、彼は笑顔のまま頭を振り、串をいっそう彼女へと近づける。根負けする形で、弥生はそれを受けとった。涙が乾いていない顔に薄い困惑をたたえて見つめてきたので、首を縦に振る。

 弥生はおそるおそるといったふうにつくねを口に近づけ、少し唇をすぼめて息を吹きかけ、一口かじった。片手が口元を覆い隠した。指の隙間から、口が咀嚼の動きをとっているのが見える。
 口元の手を下ろし、ご褒美をもらった年端もいかない子どものようにはにかみ笑いを浮かべてみせた。

 食べるってすごいな、と草太朗は思う。たった一口で、一人の泣いている人間を笑顔に変えてしまうのだから。
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