すばらしい新世界

阿波野治

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幽霊の正体

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「そんなことがあったんですか。それは、それは……」
「その子の正体、リーフには分かる? いろいろあったせいでなんとなくスルーしちゃってたけど、思い返せば思い返すほど気持ち悪くなってくるね。足はあったけど、自分から消えたし、やっぱり幽霊なのかな? 世界のバグが生み出した亡霊、みたいな。よく分かんないけど」
「幽霊という表現は、かなり正解に近いかもしれませんね。ただ一つ訂正するなら、その和服姿の少女は、バグではなくて公式的な存在だと思います」
「公式的? どういうこと?」
「イナがこの世界を具現化させたのに伴い、この世界に必然に生じる存在だった、という意味です。消そうとしても消えなかったのは、少女がそのような性質を保有していたからでしょう。バグであるがゆえ対処するのが難しい、ということではなくて」
「……前も思ったんだけどさ」
「はい、なんでしょう」
「分かるような、分からないような答えかたをするよね、リーフって。意味深っていうか」
「すみません。イナを困らせるつもりはないのですが、語彙力と表現力が追いつかなくて」

 それって、ようするに、ぼくの語彙力と表現力がないってことだよね。
 そう思ったとたん、リーフと出会って初めて、彼女に対して明確な不快感を覚えた。
 しかし、所詮は蚊にさされて、表皮をくすぐるかゆみに向かっ腹を立てたようなもの。すぐに気を取り直して、

「じゃあ、敵ってこと? 怪物みたいな存在っていう意味? だったら異形じゃなくて、人の姿をしているのはどうして?」
「人の姿をしている意味はたしかにありますよ。敵といえば敵ですが、広義の敵ということであって、イナに直接的な危害を加えるわけではありません。乗り越えるべき存在、という表現がより実態に近いでしょうか」
「乗り越えるべき存在?」

 リーフは首の動きで同意を表明し、再び髪の毛を触り始めた。ふてくされているようにも見える、気怠そうな手つきだ。分身であるリーフにとっても乗り越えるべき存在だから、今は向き合いたくない、というような。
 イナはなおも食い下がったが、リーフはそれ以上の具体的なことを言うのは難しいようだ。「言いたくない」ならば怒りもするが、「言えない」のであれば、感情的になって責めても仕方がない。

「あーあ」
 不承不承、芝生に寝ころぶ。
「……なんか、すっきりしないなぁ」

 曇天を視界いっぱいに映し出して二秒も経たないうちに、口からため息がこぼれた。
 ひとり言に対して、リーフは特にリアクションしなかった。
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