36 / 89
不法侵入
しおりを挟む
空はいつの間にか、黒雲に覆われているなりに明るくなっていた。
二人は空模様の変遷には頓着しない。リーフが滔々と話し、イナは瞳を輝かせながら聞く。イナはアクセントをつけるように時折質問を投げかけ、リーフは誠意をもってそれに答える。リーフは適切なタイミングで話頭を転じ、イナは引き続き話に耳を傾ける。そのくり返しの中で時間は過ぎていく。取り上げられる話題には、リーフの武勇伝の枠からは外れる、とりとめのないものの割合が次第に高まってきた。
注文をつけずとも思い通りになり、齟齬が生じても即座に修正されるのが、イナは快くてならない。
イナが快いとリーフも嬉しいようで、笑みをこぼす機会も少なくなかった。リーフは笑うと、クールで大人びた印象からは想像がつかないほど、あどけない顔になる。
言葉をやりとりすればするほど、目まぐるしく変化していく話題が、この世界が秘めている無限の可能性をほのめかせるかのようだ。
話をしている間、不安と恐怖の配達人である謎と矛盾について、イナは一瞬たりとも意識を割かずに済んだ。
* * *
大金持ちではないが、経済的に余裕がある家なのだろう。界隈に建つ民家と比べると明らかに広い庭を持つ一軒に、イナとリーフは入っていく。
侵入にはイナが持つ力を使った。ドアをすり抜けるのではなく破壊したのは、本来はすり抜けられない物質をすり抜ける行為に、恐怖と抵抗感を覚えたからに他ならない。透過しているさなかに力がきかなくなり、壁に埋もれたまま脱出できなくなったら、どうしよう? そう懸念したのだ。
神らしくないからという理由で本心を曲げるのは、やめよう。
肩車の一件を機にそう決めていたから、破壊を選んだ自分をなんとも思わなかった。昨日は見送った、屋内で一夜を明かす決定を下すにあたっても、葛藤の類が生じることはなかった。
部屋数が多く、一室一室が広い。調度品は特に高級という印象は受けなかったが、どの部屋も几帳面に整頓されていて、そつなく清潔で、大事に使われているのが伝わってくる。
二人は各部屋をひと通り見て回ったが、特に面白そうなものはなかった。一階のダイニングに戻り、リーフと向かい合う形であぐらをかいて床に座り、夕食をとる。
新世界の神となって、今日でまだ二日目。まだまだ常識の枠から抜け出しきれていないからこそ、食事場所にダイニングを選んだのだということには、座ったあとで気がついた。
午後一時ごろに一度、イナだけが軽食をとったが、今回はリーフにも付き合ってもらう。これは要望ではなくて義務、すなわち強制的な措置だ。
「構いませんよ。ぜひぜひ、いっしょに食べましょう」
イナの本質的なボディーガードであり召使いでもあるリーフは、普段の凛々しい顔つきからは想像できない、女の子らしさ全開のかわいらしい微笑を満面に湛え、二つ返事で承諾した。
二人は空模様の変遷には頓着しない。リーフが滔々と話し、イナは瞳を輝かせながら聞く。イナはアクセントをつけるように時折質問を投げかけ、リーフは誠意をもってそれに答える。リーフは適切なタイミングで話頭を転じ、イナは引き続き話に耳を傾ける。そのくり返しの中で時間は過ぎていく。取り上げられる話題には、リーフの武勇伝の枠からは外れる、とりとめのないものの割合が次第に高まってきた。
注文をつけずとも思い通りになり、齟齬が生じても即座に修正されるのが、イナは快くてならない。
イナが快いとリーフも嬉しいようで、笑みをこぼす機会も少なくなかった。リーフは笑うと、クールで大人びた印象からは想像がつかないほど、あどけない顔になる。
言葉をやりとりすればするほど、目まぐるしく変化していく話題が、この世界が秘めている無限の可能性をほのめかせるかのようだ。
話をしている間、不安と恐怖の配達人である謎と矛盾について、イナは一瞬たりとも意識を割かずに済んだ。
* * *
大金持ちではないが、経済的に余裕がある家なのだろう。界隈に建つ民家と比べると明らかに広い庭を持つ一軒に、イナとリーフは入っていく。
侵入にはイナが持つ力を使った。ドアをすり抜けるのではなく破壊したのは、本来はすり抜けられない物質をすり抜ける行為に、恐怖と抵抗感を覚えたからに他ならない。透過しているさなかに力がきかなくなり、壁に埋もれたまま脱出できなくなったら、どうしよう? そう懸念したのだ。
神らしくないからという理由で本心を曲げるのは、やめよう。
肩車の一件を機にそう決めていたから、破壊を選んだ自分をなんとも思わなかった。昨日は見送った、屋内で一夜を明かす決定を下すにあたっても、葛藤の類が生じることはなかった。
部屋数が多く、一室一室が広い。調度品は特に高級という印象は受けなかったが、どの部屋も几帳面に整頓されていて、そつなく清潔で、大事に使われているのが伝わってくる。
二人は各部屋をひと通り見て回ったが、特に面白そうなものはなかった。一階のダイニングに戻り、リーフと向かい合う形であぐらをかいて床に座り、夕食をとる。
新世界の神となって、今日でまだ二日目。まだまだ常識の枠から抜け出しきれていないからこそ、食事場所にダイニングを選んだのだということには、座ったあとで気がついた。
午後一時ごろに一度、イナだけが軽食をとったが、今回はリーフにも付き合ってもらう。これは要望ではなくて義務、すなわち強制的な措置だ。
「構いませんよ。ぜひぜひ、いっしょに食べましょう」
イナの本質的なボディーガードであり召使いでもあるリーフは、普段の凛々しい顔つきからは想像できない、女の子らしさ全開のかわいらしい微笑を満面に湛え、二つ返事で承諾した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
【R18】スライム調教
不死じゃない不死鳥(ただのニワトリ)
ホラー
スライムに調教されちゃうお話です
「どうしよう、どうしよう」
Aは泣きながらシャワーを浴びていた。
スライムを入れられてしまったお腹。
中でスライムポコポコと動いているのが外からでも分かった。
「もし出そうとしたら、その子達は暴れて君の内臓をめちゃくちゃにするわよ。
だから変なことなんて考えないでね」
スライムをいれた店主の言葉が再びAの頭の中をよぎった。
彼女の言葉が本当ならば、もうスライムを出すことは不可能だった。
それに出そうにも店主によってお尻に栓を付けられてしまっているためそれも難しかった。
「こらから、どうなっちゃうんだろう」
主人公がスライムをお尻から入れられてしまうお話です。
汚い内容は一切書く気はありません。また人物はアルファベットで表記しており
性別もどちらでも捉えられるようにしています。お好きな設定でお読みください。
※続きを書くつもりはなかったのですが想像以上に閲覧数が多いため、少しだけ続きを書くことにしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる