すばらしい新世界

阿波野治

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武勇伝

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 何十頭ものハイエナ型の怪物に山の奥深くまで追い立てられ、疲労甚だしかった眉山での激闘。

 巨大なハチの巣状の怪物の弱点を探るべく、無限に発射されるミツバチ型の弾丸をかわし、叩き落し続けることに全精力をつぎ込んだ、マリンピア沖洲での消耗戦。

 ヒット・アンド・アウェイで攻撃を仕掛けてくる、トカゲの尾を持つペリカン型の怪物を追いかけたが、怪物のヌシと遭遇してからは一転、逃走しながら隙を見ては反撃をくり出す立場に追いやられた、徳島阿波おどり空港での一戦。

 二足歩行する兎型の怪物の俊敏さと格闘技に手を焼いた、文化の森総合公園での戦い。

 グリフォン型の怪物の捨て身の猛攻に痛手を受け、フロアに鮮血を撒き散らしながらナイフを振るった、徳島駅前での血戦。

 リーフは大いに語った。語りに自信がないと言っていたが、敵と相対したさいの緊迫感や、戦闘中の手に汗握る緊張感を、イナは存分に味わった。語り口が特別に巧みなわけではないが、もう一人の自分だからこそ、イナを快く満足させるツボを把握しているのだろう。自らの手で破壊するのももちろん大好きだが、血なまぐさい話を聞くのも負けないくらい好きなのだと、傾聴する中でイナは知った。

 リーフは話をするかたわら、リーフはイナの欲望を明敏に察し、イナを快くさせるための行動を適時とった。会心の一戦で見せたナイフ捌きを実演してみせる。「そろそろ休憩にしましょう」と申し出る。川を眺めながら歩ける遊歩道へと通り道を変更する。至れり尽くせりとはこのことだろう。

「肩車をして差し上げます」

 そう告げられ、思いやりに満ちながらも有無を言わさずといったふうに担がれたときは、さすがに抗議の言葉が口をついた。しかし、所詮は形だけ。本音では肩車をしてほしかったし、されて嬉しかった。
 普段よりも何十センチも高い位置から眺める景色は、際限のない可能性を感じさせ、静かな高揚感を覚えた。上手く言葉にはできないが、無条件によいものだ、という感想を持った。

『力を使いさえすれば、リーフの力を借りずとも同じ景色を見られたのでは? イナは神なのになんで甘えているの?』

 もう一人の自分からそう問いかけられ、心に陰りが生じたが、所詮は一瞬の揺らぎに過ぎない。

 破壊と同じで、気持ちよくて楽しいのだから、細かいことはどうでもいい。リーフはもう一人の自分、ぼくの分身なのだから、自力で目的を果たしたともいえるのだから。
 自分に言い聞かせるようにイナは心の中で呟いた。そしてそれを区切りに、現在進行形の喜びに身を任せた。

 とても、とても、幸福だった。
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