すばらしい新世界

阿波野治

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怪物

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 イナは眠りから目覚めた。
 世界は暗く深い闇の底に沈んでいる。

「怖っ」
 思わず口にしていた。

 仰向けの姿勢で眠っていたイナの視界に、目覚めて最初に映ったのは、当然のごとく空。夜はデフォルトで暗いが、雲に覆われているといっそう暗くなるものなのだと、当たり前の事実を今になって思い知った。
 もっとも、呟きは義務的で反射的なものでしかない。神だと自覚しているイナが、夜の暗さくらいでおののくはずがない。たとえ想定していたよりも暗かったとしても。新世界でもやはり一日は普通に過ぎるものなのだなと、意識はむしろそちらに向いている。

「あーあ、朝だ朝。夜だけど朝」

 あくびを眠りからの決別のサインとし、立ち上がる。無意識に力が行使されたらしく、一瞬で眠気は死んだ。

「さーて、今日はどこへ行こっかなー」

 計画表は白紙だが、移動を決めた人間の当然の行動として、空き地の出入り口へと目を転じた。
 すると、いた。
 近くに街灯はなく、月明りも星明りもない。それにもかかわらず、闇に溶け込むようにして存在しているのがはっきりと見えた。

 怪物だ。
 その怪物は、旧世界に実在するなににも似ていない。ただし部分的には酷似する箇所が様々ある。頭部は複数の蛇。胴体はライオンか熊か――とにかく猛獣のそれだ。最も類似した架空の生物を挙げるならば、ヤマタノオロチ。

 うろろろろろ、という低い唸り声が聞こえている。闇の中を時折白く走るものがあると思ったら、怪物の舌らしい。十ほどある口の全てから、時間差で舌が出たり入ったりするため、音声というよりも音楽に近い。
 冷温動物特有の素っ気なく冷ややかな瞳は、イナを見つめている。てんでばらばらの方向を向いているようでいて、抜かりなく全ての瞳が。

 イナは怪物を怖いとは思わない。ただ、不可解だと感じてはいる。人間が息絶えたのは昨日付で確認済みだが、人間以外の生物には生き残りがいた? それとも、イナが無意識に復活させた? どちらにせよ、非実在の生物が呼びもしないのに現れるとは、まったく想定していなかった。

「よく分からないけど――」

 気持ち悪いし、反抗的な態度が気に入らないから、とりあえず消しておこう。よく分からないけど。
 イナは掌を怪物へとかざした。その刹那、

「え」

 怪物が大きく跳躍した。もとい、イナに飛びかかってきた。文字通り、目にも留まらぬ速さで。
 え、と呟いた一秒後には、怪物の醜い顔はすでにイナの目の前にあった。

 時間の流れがスローモーションになる。十近くの蛇の頭が、明らかに攻撃に備えて、その長い首を縮めた。
 次の瞬間、
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