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「俺の勝手の想像なんだけど、汐莉は心のどこかに、自分が特殊な状況に置かれている現実を認めたくない、受け入れたくない気持ちがあるんじゃないかな。
 超能力を頻繁に使ってこそいるけど、便利だからついつい使ってしまうだけで、本音では使いたくないと思っている。俺とあまり話をしたがらないのも、その表れ。形式的には電話だけど、電話とは似て非なる特殊な方法で長々とコミュニケーションをとったら、非現実的な現実が現実だと認めてしまうも同然。それが嫌で、無意識に避けている。……違うかな?
 汐莉はもともと細かいことにはこだわらないし、ポジティブで、切り替えも早いだろ。だから、もう二年も経ったんだから、境遇をすっかり受け入れているんだろうって、今まで思い込んでた。でも、実際は違うんじゃないかって、ふと思って」

 言葉尻に被せるように返事をする。深い沈黙を示すことで返答の代替とする。どちらの反応も有り得ると予想していたが、汐莉が示したのは後者だった。

「榊さんの話、汐莉も聞いていたし、見ていただろ。緊張しているんだなって、表情を見れば一目瞭然だったし、喋り方もちょっとおかしかったよね。丁寧を通り越して堅苦しいっていうか。夫があちらの世界に行ってしまったことを打ち明けるの、凄く勇気がいったと思う。普通は誰も信じないもんな、そんな荒唐無稽な現象が現実に起きたなんて。俺も妻があちらの世界へ行ってしまった立場で、言ってみれば同類なわけだけど、榊さんはその事実は知らないわけだし。
 だから、汐莉が現実を受け入れたくない気持ち、凄く理解できるよ。汐莉の心が弱いとかじゃなくて、誰だってそうなっちゃうんだろうなって。実際、俺も受け入れるのには時間がかかったし。というか、二年経った今でも、完全には受け入れきれていないかもしれない。
 要するにお互いさまってことだから、この機会に夫婦揃って現実を認めて、受け入れないか? 住む世界が違っても、携帯電話を介してでしか通話できなくても、それでいいじゃないか。がんがん長話をするべきだし、汐莉もさ、自分が住んでいる世界のことをもっと俺に話してよ。汐莉がいる世界のルールに抵触しない範囲内で構わないから。 
 榊さんの旦那さんは超能力も使えないし、限られた時間しか電話をかけてこられないらしいけど、汐莉はそうじゃない。その気になれば、もっといろんなことができる。だったら、有効活用しなきゃ損だよ。もちろん、濫用されるのは困るけど。汐莉だってそう思うだろ?」

 言葉による返事はなかったが、吐息らしき微かな声が聞こえた。溜息をついたのか、返事が言葉にならなかったのか。俺の発言を一度も遮らなかったということは、少なくとも、的外れな意見だと認識したわけではないはずだ。
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