どうせみんな死ぬ

阿波野治

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 物憂い昼下がり、フランシスとアルフレッドが川沿いの道をぶらぶらと歩いていると、前方から五・六歳の男児が歩いてくる。

「おいアルフ、見ろよ。男のガキだぜ」

 浮き立つ心を抑え切れない、といった表情と口吻でフランシス。

「探す手間が省けてよかったな、フランク」

 にやにやと笑いながらアルフレッド。
 立ちはだかる二人に行き当たり、男児の足が止まる。怯えた目が二人を見上げる。フランシスはげらげらと笑いながら男児の服を脱がし始めた。アルフレッドはにやにやと笑いながらその模様を眺める。男児は抵抗したものの、大人の男に敵うはずもない。あっという間に一糸纏わぬ姿になった。

「さあアルフ、今日こそギネス新記録を目指そうぜ」
「夢物語だな。新品は窮屈すぎる」
「いいや、中古だね。こいつは中古だ。顔を見れば分かる。このガキ、親父にやられてるぜ。酒癖が悪くてギャンブル依存症の暴力クソ親父に」
「そうかもな。ところでフランク、ギネス記録はいくつだった?」
「百個くらいだったと思うぜ。どれだけ記録に近付けるか、やってみようや」

 二人は地面から石を拾い上げ、男児の肛門に次々と押し込み始めた。男児は泣き喚き、手足を暴れさせたが、二人が繰り返し顔面を殴り付けたので、やがてただ涙を流すばかりになった。

「なあアルフ、五十個はいったかな?」
「せいぜい二十個ってところじゃないか」
「おいおい、なるべく小さい石を選んでくれよ。俺はギネス記録を更新したいんだ」
「言われなくても分かっているさ」

 次第に思うように詰められなくなってきた。フランシスはしきりに舌打ちし始めた。アルフレッドは槍の穂先のような形状の石を選び取り、荒々しく肛門に突っ込んだ。
 それに押し出されるように、血まみれの小石が転がり出た。それをきっかけに、肛門に詰められていた石が溢れ出した。二人はそれらを掌で受け止め、押し戻そうとしたが、押し返しても、押し返しても、石はこぼれる。

「くそったれ!」

 フランシスが大声で悪態をついた。

「無理矢理詰めたせいで、堰が決壊したんだ! 決壊しやがったんだ!」

 いち早く流出阻止を断念したアルフレッドに続いて、フランシスも諦めた。そして彼らの前には、血と涙を止め処なく垂れ流す素っ裸の男児と、赤く汚れた石の山が残された。

「畜生! ギネス記録が台無しじゃねぇか、このクソガキ!」

 フランシスがいきなり男児を蹴飛ばした。小さな体はサッカーボールのように吹っ飛び、地面に叩き付けられた。フランシスはすぐさま走り寄り、男児の顔面を続け様に蹴り始めた。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 憤怒の形相で蹴りまくるフランシスを、アルフレッドは少し離れた場所から、にやにやしながら眺めている。
 やがてフランシスの息が切れた。男児の顔面はぐちゃぐちゃに潰れている。体はぴくりとも動かない。アルフレッドがフランシスに歩み寄り、肩に手を置いた。

「今日は早かったな、フランク。どこに捨てる?」
「愚問だな。目の前に川があるんだから、重りを付けて放り込めばいい」
「また石を詰めなきゃならないわけか。全く、お前ほど石に祟られた男はいないな」
「ごたごた言ってないで、作業にかかれよ」

 二人は死体の穴という穴に石を押し込み、こぼれ出ないよう、穴の入口を防ぐように男児の衣服を巻き付けた。頭をフランシス、脚をアルフレッドが持って川辺まで運び、「せーの」の掛け声と共に川へ投げ込む。大きな水音、派手な水飛沫。死体はゆっくりと川底へ沈んでいった。
 二人はその場から去ろうとしない。川辺に座り込み、気怠そうに川面を眺める。

「なあアルフ、俺たちがあのガキにしたことは正しかったよな?」
「ああ。さっさとあの世へ行って、あのガキは幸せだったと思うぜ。なぜなら――」
「俺たちにされた以上に酷い目に遭うことは永遠になくなった。そういうことだろう?」
「そういうことだ。少なくとも、石を詰められることはない。穴はどこもかしこも塞がっているからな」

 フランシスは腰を上げ、アルフレッドの背中を叩いた。

「おいアルフ、そろそろ行こうぜ」
「どこへ何をしに行くんだ、フランク。ここではないどこかへ、正しいことをしに行くのか?」
「それは今日はもういい。腹ごしらえだよ、腹ごしらえ。ステーキを食おうぜ。気味が悪いくらい分厚いステーキを」
「気味が悪いくらい分厚いステーキ、か。ナイフで真っ二つにしたら、中から石が山ほど出てくるかもな」
「そうならないことを祈ろうぜ」
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