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 予感は的中した。
 見てしまったのだ。

 部屋の中にばかりいると気が滅入りそうだ。だからといって、授業に出席するのも気乗りがしない。夕焼けに染まる街をあてもなく逍遥していた一輝は、既視感を覚える制服姿を発見してフリーズした。
 西崎瀬理だ。
 俯いて、一人、とぼとぼと歩道を歩いている。すれ違う通行人が思わず顔を注視してしまうような、異様に暗い雰囲気。周りと比べると半分くらいのスピードしか出ていない、今にも止まってしまいそうな足取り。
 あの日見た姿そっくりだ。

 一輝は声をかけられなかった。歩道の一点、通行人に迷惑になる位置で立ち尽くしたまま、ゆっくりと遠ざかる彼女を見送ることしかできない。
 あのときも声をかけられなかったが、当時と今は違う。交流を重ね、会話を重ね、着実に仲を深めた。それなのに、なにもできない。力になれない。
 姿が見えなくなるまでは長かった。歩く遅さを考慮に入れても長かった。


* * *


 土曜日の夕方、瀬理は一輝の部屋を訪れなかった。
 余った一人分のナスのチャーハンは視界に入れるのも嫌で、まだ温かいうちから皿に移し、ラップをかけて冷蔵庫に入れた。

 今にも雨を降らせそうな黒雲が上空を覆っている。
 中学校はすでに放課後を迎えている。瀬理は家にいるはずだと踏んで、一輝は西崎家まで足を運んだ。門扉越しに見慣れた敷地内も、ただ見るだけなのと身を置くのとでは緊張感が段違いだ。眺めそのものまで違っているように感じる。
 彼はいつまで経ってもインターフォンを押せずにいる。

 逡巡しているうちに、応対に出てくれたとしてなにを話せばいいのだろう、という素朴な疑問が湧いた。西崎家を訪問して瀬理と話をしようと思い立ってから行動に移るまで、約数分。気持ちばかりが前のめりで、作戦はまったく立てていなかった。
 他人の家の玄関先でいつまでも立っているわけにはいかない。インターフォンを押すか、立ち去るか、どちらかを選ばなければいけない。

「……くそっ」
 一輝が選んだのは後者だった。
 ひどく惨めな気分だ。部屋に戻って一人で過ごしていると、冗談でも誇張でもなく、憂鬱さに殺されるかもしれない。
 彼は街をさ迷い歩く。雨がぱらつき始めたというのに、傘も差さずに。
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