わたしと姫人形

阿波野治

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三日目 その18

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「ナツキといっしょにおふろに入りたい」
 入浴の準備にとりかかろうとリビングを出ようとしたとき、いつものようにソファでテレビを観ていた姫がそんな言葉をかけてきた。
 まったく予想外の発言に、わたしはドアノブに指をかけたポーズで硬直してしまった。沈黙が降りたことで、テレビからの音声が相対的に主張を強め、料理番組が放映されているのだと知る。食材を炒める音が妙に大きく、解説の女性の低い声が埋没している。

 初日に入浴を辞退して以来、姫は風呂に入らないものなのだと思いこんでいた。だから昨夜は、入浴をすすめる言葉はかけなかった。姫自身も特に不満はなさそうだったので、思念は硬度を増し、わたしの中では不動の認識となっていた。
 驚いた理由はそれだけではない。わたしが提示した選択肢の中からなにかを選ぶとか、わたしの発言に疑問点があったから質問する、といったことはこれまでにもあった。しかし自分から、しかも会話の流れとは無関係な要望を伝えてきたのは、これが初めてだ。

「分かった。じゃあ、いっしょに入ろうか」
 わたしの返答に、姫は小さな花を思わせるほほ笑みを灯した。最初は機械のようなぎこちなさも感じられた感情表現も、時間が経つにつれて、年齢相応の子どもらしい、自然なものへと変化してきている。

 湯を張っているあいだは、いっしょに料理番組を観た。パプリカを使ったチンジャオロースがメインの献立が完成するのと、湯が張り終わったのは、奇しくもほぼ同時だった。

 脱衣所のドアを閉め、姫の脱衣を手伝う。最初は自分でも脱いでいたが、二人がかりだとかえって作業が滞るので、やがてわたしに委ねた。一糸まとわぬ姿になった姫の体は、設定年齢相応の姿形をしている。ねじ穴や素材の継ぎ目などは、当たり前だが一つも視認できない。
 わたしが脱ぎはじめると、手伝おうと姫が手を伸ばしてきたが、頭を振って自分の手だけで裸になる。

 姫はわたしの体の、異性が見れば性的興奮を覚えるに違いない部位を、幼児らしい無遠慮さで凝視している。人間の裸を見るのは初めてだから、物珍しいのかもしれない。動植物に対する好奇心の高さは知っているが、少々居心地が悪い。

「さあ、入ろう。どういうふうに体を洗えばいいのか、手取り足取り教えてあげる」
 姫を促して洗い場に入る。

 手本を見せ、姫にかけ湯をさせる。耐水性が備わっているのは分かっているが、体が機械でできているという認識のせいで、湯を浴びる姿を見るのは気持ちが落ち着かない。バスタブに浸かっている光景も右に同じだ。
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